Renpei’s magazine_vol.3 舞台「インタクト」動画無料公開特別編
昨年好評の中、千穐楽を迎えた舞台「インタクト」の動画が、現在無期限で全編を無料公開中だ。なぜ全編公開にしたのか、そして公演が終わって一年以上たった今、改めて公演について振り返る。
文/M.Jitsukawa 写真/Takio Takizawa
◾️もっと多くの人に!
—— 舞台「インタクト」の動画を全編無料公開になりましたね。
廉平:劇場で公演中から「もっといろんな人に」「もっと多くの人に」と思ってました。公演後も配信などで見てくれた方から、「ほんとに良かったよ」とおっしゃってもらって、自分たちもやっぱりいい作品だなと思ってるし、配信も終わって関係者だけに見せていくよりも、フラットにオープンに見てもらった方がいいなと思ったので、無料公開にしました。
—— 無料公開にして反応はありましたか。
廉平:一度見てくださった方が再度見てくれたり、公演後に知り合った俳優仲間とかが直接連絡くれたりして、またYouTubeの配信回数も少しずつだけと毎日増えていって、無料公開して良かったなと思います。「劇場でも見たかった」というのを言ってくれる人もいて、素直に嬉しいですね。
—— 劇場と違う、映像の良さもありますね。
廉平:演劇作る時に、映像にすることを考えて演出しているわけではないので、映像にすると顔が見えないとか、キャスト同士が被ってたりとかしちゃうんだけど、それが逆に家の中をのぞいているような、よりリアルな感じに見えたんですよね。演劇の時はもっと自由に自分が見たいところ見れるけど、見るところを限定された時に見えてくる演出という感じ。
◾️笑って泣ける物語が作りたい
—— 舞台を作ろうと思ったきっかけを教えてください。
廉平:憧れですよね。著名な俳優さんたちがやってるみたいな。ムロツヨシさんのmuro式みたいな、そこの憧れです笑 純粋に演劇は好きですしね。
最初一人芝居の予定だったけど、ミニマムだけど笑って泣ける物語みたいなものをやりたいなと思うようになったんです。
—— 「家族」がテーマになりましたね。
廉平:大人になってからいろんな人の影響も受けているけど、「家族」は今の自分を構成している大部分でもあるし、遺伝子レベルでも家族の影響は大きい。自分が今熱を込めて一番取り組みたいのは「家族」だなと思ったんです。自分なりの恩返しのつもりで「家族」をテーマに扱いたいなと。
—— 家族という大テーマの中にさらに「病気」がテーマにありましたね。
廉平:女性がスイスで積極的安楽死をするドキュメンタリーを見て、衝撃だったんです。死ぬ瞬間まで映像に残すという番組で、ずっと心に残っていて。もし僕が同じような状況で死ぬって言ったら家族はどう反応するんだろうという気になったんです。家族のいなくなってほしくないという苦しみもあるけど、本人の物理的な苦しみが優ってるんではないかと思うんです。何が正解か、答えはなかなか見つけられないんじゃないかな。自分一人では答えは見つけられないから、作品を通していろんな人と見つけに行きたい、そう思ったんです。
◾️宝になる貴重な経験
—— 「インタクト」ではプロデューサーと俳優との両立でしたね。
廉平:昔から企画を考えるのは好きだったし、今回の企画書作るのも全然苦じゃなかった。でもそれを運営させていくというのは自分にはない能力なんだなと痛感したんです。変数と定数を見極めて、予算とか動員とか日数とかスケジュール調整とかの変数を考え続けていくのが多分プロデューサの技なんだと思うんですけど、僕はこういうアイデアがあったらいいなをずっと考えちゃう。だから自分は違うんだろうなとやってわかった。やったからこそわかった。自分の中では収穫なんですけどね。俳優として参加する時よりも、何倍も俯瞰的に始まりから終わりまでみてたし、そういう経験って演じるだけじゃ絶対できない経験だから、それは本当に宝というか貴重な体験したなと思いますね。
—— 俳優として「順二」を演じるのに苦労した点はありますか。
廉平:インタクトの順二に関しては難病(ALS)というものが起点となっているから、軸は家族の話ですけど、まずはそこへの理解が必要でした。ALS協会にご協力いただき、当事者や家族の立場の方にお話しを聞かせていただいたり、ALSの方が書いた本を読んだり、病気の情報というよりは現状を知ろうとしましたね。今までも役の深い部分に迫ろうとやってるんですけど、順二に関しては自分でもあからさまにわかりましたね、自分の変化というものが。
—— 具体的にわかりやすい変化があったんですか。
廉平:どこかで「死ぬんだな」と。自分の家にいてもどうせ死ぬし、みたいな気持ちになって。気持ちが持っていかれるというんですかね、当事者になった感じできつかったですよね。すぐ隣に死にたいと思わせる理由があって、それでも生きていかなきゃいけないんだ、夢を持って生きなきゃいけないんだ、と言われることに、逆にそれが攻撃的に感じてしまう。
インタクトをやる前までの僕は、とにかく生きてほしい、どんなことがあっても生きてりゃいいことあるって思ってたけど、その時ばっかりはそういうわけでもないなっていう全く逆の思考になって。
公演が終わった今は、以前の考えに注意事項が増えた。生きてりゃいいことあるよ、って言いたいんだけど本当にそうでない人もいる。いままでだったら全世界の哲学的な言い方をしていたかもしれないけど、インタクトを経てからは「それは俺の意見です」という考えに変わりました。
◾️がむしゃらでいられるってカッコイイ!
—— 共演者との思い出を聞かせてください。
廉平:ドライブのシーンが稽古で続いているときに、演出の佐藤さんが「毎回、本気じゃなくていいですよ。今は一旦セリフの確認なんで」ってダンカンさんいうんだけど毎回ちゃんとやるんですよ。ダンカンさんと二人になった時に僕から「体力使うし、佐藤さんが言ってた通りで大丈夫ですよ」って言ったら、ダンカンさんが「それでちゃんとやらないでさ、稽古終わって帰ってもし俺が死んだら、最後ちゃんとした芝居しないまま死ぬんだよ。俺それすげー嫌なんだよな」って言われたんです。ものすごく自分が恥ずかしくなったし、ものすごくカッケーっ!て思って。
現場で一番がむしゃらになってて、あの歳になってもがむしゃらになっていられるってかっこいいなって。その姿勢をマネしたいと思うし、マネしたことでまた別の誰かにその背中が映っていればいいなと思うし、もし稽古の帰りにダンカンさんがなくなっちゃったとしても、その意思は僕が受け継いで行きますよっていう笑
本当に見習うべき大先輩だなって思いましたね。
—— 素敵なエピソードですね。
廉平:営業妨害かな笑
◾️彼のエネルギー量には敵わない
—— 健太くんはどうでしたか。
廉平:技術に対して気持ちも持ってるところが、素敵な俳優だなって思います。彼は技術もあって気持ちも常に上げられる、そういうバイタリティというか同世代の俳優で彼のエネルギー量に敵う人はいないんじゃないかな。誠心誠意物事に取り組むということが彼は自分でできるタイプで、僕は逆に人のそういう姿を見て影響されないとできないタイプだから、彼は本当に強い人間だなと思いますね。それが芝居にも現れているし。
本番中、舞台奥でおじいちゃんへの怒りを蓄える健太くんが僕が乗っている車椅子を押して袖から出てくるんだけど、怒りを蓄えるのに僕の車椅子のハンドルを強く握りすぎてブルブル震えるんですよ。だから僕もブルブル震えちゃって笑 なんでそうなっているかわかっているんだけど、僕も震えてる?って本番中に思って面白くなっちゃって、、、そんなことがあったな。
◾️そういう表情を見せないのが彼女の肝の据わっているところ
—— トロちゃんもそういう面がありましたか。
廉平:土路生は逆にそういうのがないのが特徴なんだよね。めちゃくちゃ考えてるし、悩むし、役にストイックに向き合うけど、そういう表情を見せないのが彼女の肝の据わっているところ。稽古場においても彼女が支配してましたもんね笑
—— 支配ですか笑
廉平:土路生が稽古をやりたいって言ったらやる、気分じゃなかったらやらない笑 それは内輪ネタだけどね。
例えば、13時稽古開始で稽古場11時には空いてますってなったら、僕は稽古場開けるから11時にくる。健太くんやダンカンさんは12時くらいにくる。で、土路生は13時の5分前にくるんですよ。彼女はそれでも稽古始まるとコミットするんですよ。彼女の内側と外側のフットワークの軽さというのが、彼女を作ってるのかな。そこにでかい肝が備わってて、ぶれない、だけど走る、加速がある。それは彼女独特な雰囲気というか、他の俳優にはないほんと唯一無二のタイプだなと思いますね。
◾️自分の人生は自分だけのもの
—— 今回の企画テーマに、見てくださった人が明日も生きてもいいかなと思ってもらえたらいいなというのがあったと思います。ユニット名も「きょうだけゆるして」にして。それはできたと思いますか。
廉平:順二は最終的に自分に許可を与えるです。もちろん苦しいこともあるんだけど、家族と共に生きていいんだ、迷惑をかけたとしてもコミュニケーションが取り辛くなったとしてもいいんだという、順二の中でそういうのもあったと思う。この作品を通して、自分で自分に許可を出していいんだ、自分で自分に許可をだすべきなんだということが、思えてたらいいなと思います。やっぱり自分の人生だから、誰のものでもなく、親のものでもなく、自分だけのもの。その中で、自分を許してあげる、それが自分の人生を豊かにする一つの要因かなと思います。
僕たちも今回の企画を遂行していく中でこれが面白いんだ、ということをキャストだけでなくスタッフさんも含めて、追求できたことが本当に幸せなことだなと思うし、それがあったからこうやってじっくり振り返れるんだなと思う。悔しいことつらいことはいっぱいあったよ。あったけど、それが成長というポジティブなものに変換できているのは、やりたかったことをぶらさなかった戦利品でもあるし、でもそれは、自分たちの孤軍奮闘ではなくて、本当に周りの人たちがそれを面白いと賛同してくれたからこそであり、関わってくれた人、見てくれた人たちのおかげだな、それに尽きるなと思いますね。本当に感謝しかないです。
◾️日常とエンタメが交差しているある家族の物語
—— 最後に作品を見てくださった方へとこれから見てくださる方へのメッセージをお願いします。
廉平:三世代の作品なので、どこに共感するのかというのは見てる方の年齢や家族構成などでバラバラだと思うんですが、ある日街中ですれ違った家族の話かもしれないっていう、日常とエンタメが交差している部分の、ある種日常の延長線上の物語なので、別の家族を覗き見ているようなことを感じていただければと思います。
劇場や配信、YouTubeでも見てくれた方には只々ありがとうございますっていう気持ちでいっぱいです。
動画の無料公開は期限がありませんので、良ければ作品BOOKを購入して読んでいただき、再度動画見ても面白いと思います。作品BOOKには台本も入っていますが、本編の物語の後の話や声を失った順二の心の声を聞くことができます。
僕の短い人生ですが、これはいい作品だったって自信を持って言える作品なので、ぜひ見ていただけたら嬉しいなと思います。