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サメに脚を喰われてから大成功した物語

恒例の”船と人”シリーズのVTS。ところどころ違和感を感じたこちらの絵ですが、この絵が描かれた背景を知ると納得。頂いたコメントを紹介しながら、絵を紹介していきます。

この絵の基本情報

題名:Watson and the Shark(ワトソンとサメ)
作者:ジョン・シングルトン・コプリー(アメリカ)
年代:1778
所蔵:National Gallery of Art, Washington DC

何が描かれているか

・サメ
・ブルック・ワトソン(男性・イギリス人船乗り・14歳)
・仲間の船乗り(9人)
・ハバナ港(キューバ)

この絵が所蔵されているナショナルギャラリーの音声解説。

ワトソンとサメの物語

ブルック・ワトソンの少年時代のエピソードがモチーフとなっています。ワトソンは当時14 才。ハバナ港(キューバ)に出入りする商船の船乗りでした。ある日、ハバナ港で泳いでいたところ、巨大で獰猛なサメに襲われます。サメはワトソンの右足の半分を喰いちぎりました。そして苦しみもがくワトソンを、仲間の船乗りたちが助けに来ます。仲間はサメを殺し、ワトソンを救出します。

これが、作者のコプリーが描写した物語です。ここで重要なのは、コプリーは今、目の前で起こっていることを描写した訳ではないということです。九死に一生を得て、晩年を迎えたワトソンの依頼で、この絵を描きました。

サメの描写について

サメの専門家のミルキクさんからこんなコメントを頂いております。

目が・・・なんか猫みたいな目をしている気がするが・・・そんなんだっけ?(もしかして生でみたことのない画家が想像で描いた?)

晩年を迎えたワトソンからの依頼ということで、サメをじっくり観察して描かれた絵ではない可能性が高いかもしれません。サメについての指摘をした人は他にもいました。コプリーと同じアメリカ出身の芸術家、ウィンスロー・ホーマーです。コプリーの没後まもなく生まれたホーマーは1899年に『メキシコ湾流』という作品を発表します。

見るとわかるように、描かれているもの自体はほぼ同じです。ホーマーは物語ではなく、細部の描写にこだわりました。彼は『ワトソンとサメ』で描写されたサメに対してこんなことを言っています。

コプリーのサメのあごは、形が異なり、そして十中八九、受け売りの話

一方で、ホーマーの描いたこの絵にはこんな批判の声もあったようです。

ことに不可解な、じれったいエピソード、未解決な謎の領域を永遠にただよう海の判じ物

物語のコプリーと描写力のホーマー、同じ題材の絵を描いても全然違う見え方ができるのですね。

宗教的な意味合い

物語といえば、コプリーの絵には宗教的な意味合いも込められているようです。この絵が所蔵されているナショナルギャラリーではこう解説されています。

船首に立ち、竿を使って鮫を退治しようとしている人物は、大天使ミカエルが、悪魔を天国から追い出そうとしている絵から借用したものです。そうした意味では、これは宗教的な作品だとも言えます。そしてもちろん、これは人の命が救われた、救済の絵でもあります。

VTS参加者もここになんとなく宗教的なものを感じたようです。

ミルキクさんは、ワトソンをこう表現。

神話の登場人物的なの(人にされて人間界に落とされた云々)

相方さんはサメを退治しようとしている人物をこう表現しています。

最も右側に位置する男性がリーダー?非常に冷静で、他者とは違った方法で海に落ちた人物を救助しようとしている

なぜサメに襲われた絵を描かせたのか

僕がサメに襲われた経験をもししたなら、サメを一生見たくはならないだろうし、思い出したくもないでしょう。なぜそんな辛くて恐怖な経験をわざわざ晩年に芸術家に依頼したのか、とても気になるところです。

この絵が所蔵されているナショナルギャラリーのコメントはこうです。

考えられるのは、この事故をワトソンが人生を通じでどのように受け止めていたか、という点です。ワトソンは少年時代にサメに襲われ、想像を絶するようなトラウマに苦しみました。しかし、それを克服し、生き延びたばかりでなく、困難を乗り越え、ビジネスマンとして大成功を収め、ロンドン市長にまでなったのです。つまり、困難にめげずに人生で成功したという、サクセスストーリーが、この絵に込められた教訓であると言えます。

ワトソンは、困難を乗り越えれば成功が待っているということを伝えたかったのですね。既に成功しているところを描かせることもできたのに、あえて自分のトラウマ的な、苦しい状況を描かせた。ワトソンの人間性を感じることができますね。

どこに飾られていたか

記録によると、ワトソンはその遺言により、この絵をロンドンにある王立キリスト教病院に寄付したことになっています。病院で、この絵は、悲惨な事故に会いながらもそれを生き延び、富と名声を獲得した人間の手本として掲げられました。この病院は孤児院の施設もかねていましたが、ワトソン自身も実はそこで育ちました。

孤児院を経験したことがない僕がいうのも変ですが、困難がすぐ身近にあるのは想像にかたくありません。そんな場所で、この絵を見た子供たちは何を感じていたのだろう。このサメに襲われている人も、ずっと前に自分と同じようにここに通っていて同じような暮らしを送っていた。サメに襲われて死にかけたけど、諦めずにビジネスで成功し、ロンドンの市長にまでなった。そんな絵が身近にあったらとても励まされるような気がします。辛い状況を経験していたからこそ、どんな物語が一番心から励まされるのかを知っていたからこそ、生まれた絵だと思いました。

この依頼をホーマーが受けていたら、どうなったのだろうか、という疑問も湧いてきました。

参加頂いた方のnote

ミルキクさん、いつも鋭い洞察をありがとうございます。

相方さんもありがとうございます!

VTSに興味を持たれた方は

是非こちらの記事を御覧ください。#VTSで検索するとnoteにもいくつか過去のVTSの記事が出てきます。

今回のお題です。お題出してみたいという方、大歓迎です。#VTSですぐ嗅ぎつけます!笑


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