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真夏のトムラウシ山へ カムイに祝福されし楽園の旅
2年前に登れなかった山
2年ほど前のことだ。2022年9月、僕は大洗からフェリーで北海道へ渡り、百名山を巡る旅に出た。羊蹄山、幌尻岳、十勝岳、雌阿寒岳、羅臼岳、利尻山と次々に登頂したものの、残る旭岳(大雪山)とトムラウシは、悪天候に阻まれ、登頂を断念するしかなかった。
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2年前に未達だった北海道の百名山 残り2座に挑むこと。それが今回の遠征の最大の目的である。トムラウシに登る前日は旭岳に登った。雨こそ降らなかったがガスに包まれ山頂からは一面の白い景色しか見ることが出来なかった。
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景色が見れない登山ほど報われないものはない。二連敗は何としても避けたかった。しかし、翌日のトムラウシ山付近の天気予報は芳しくない。朝は曇が広がり、次第に晴れるかもしれないが、昼過ぎには再び雲が湧いて雨になるという。そんな、希望を打ち砕くような予報が頭を悩ませる。
一路トムラウシ温泉へ
トムラウシ山へのルートはいくつか存在する。旭岳(大雪山)から白雲岳を経由して歩く長い縦走ルート、天神峡からのルート、そしてもう一つはトムラウシ温泉からのルートだ。天気が良ければ縦走も視野に入れていたが、ここ数日の天候が不安定だったため、トムラウシ温泉登山口からの日帰り登山に変更した。
旭岳を下山後、麓の美瑛町まで移動をする。そこから国道237号線を南下して南富良野方面を目指す。大雪山からトムラウシまでの直線距離は短いが、トムラウシ温泉に至るには十勝連峰を大きく迂回する必要があり、移動距離は実に190kmに及ぶ。
前日は結局、眠気に負けて登山口まで辿り着けず、道路脇の休憩スペースで車中泊となった。朝3時に起きるつもりだったが、寝坊して目が覚めたのは4時。急いで車を走らせ、トムラウシ温泉の登山口に着いたのは、すでに午前5時を回っていた。
トムラウシ温泉からのルートには、「短縮コース」と呼ばれる道がある。このルートは、未舗装の林道を車で進み、短縮コース駐車場に車を停めることで、正規ルートよりも約3時間を短縮できる。しかし、僕はあえて温泉登山口からの正規ルートを選び、その長い道のりを歩むことにした。
⏰AM5:23 トムラウシ温泉から登山開始
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トムラウシ温泉コースの登山口には東大雪荘の駐車場があるが、登山者専用の駐車場は別に用意されている。そのため、登山者は専用駐車場へ車を停めるよう注意されたし。駐車場脇にはトイレもあり、出発前に用を済ませた。
トムラウシ温泉からの日帰り登山者は多いようで、僕が登った日は平日にもかかわらず、ざっと20人ほどの登山者とすれ違った。ツアーで訪れているグループも複数見かけた。
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トムラウシ温泉コースから短縮コースの合流地点まではコースタイムで約2時間ほどだ。スタートしてすぐに短縮コースへ続く林道を横切る。それを過ぎると100mほどの標高差を登る急坂になる。樹林帯なので展望はなく黙々と登っていく。道は明瞭で静かな森の中を進んでいく。
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約1時間ほどで短縮コースの合流地点に到着した。先はまだまだ長いので飲み物と行動食に持ってきた薄皮あんパンを頬張る。休んでいると鈴の音が聞こえて次第に近づいてくる。どうやら短縮コースから登ってきた人のようだ。鈴の音がいよいよ近づいてきて姿を表す。
「おはようございます」
向こうも僕に気づいて挨拶を返す。
「おはようございます」
ヒョロリとした中年の男性で、テント泊用のマットをザックに括り付けていた。テント泊だろうか?そのまま男性はゆっくりと歩いて行ってしまった。次第に鈴の音が小さくなる。
僕は休憩を終え、ザックを背負い直して靴紐を確かめる。標柱によるとここから頂上まで8.1kmだ。まだまだ先は長いがマイペースに行こう。ソロなのでヒグマが心配だったが、近くに自分以外の登山者がいるだけで不安な気持ちが少しだけ薄れる。
分岐を過ぎると尾根に沿った急な坂を進んでいく。歩き始めてすぐに先ほどの男性登山者に追いついた。彼が足を止めて休んでいる間に「どうも〜」と言ってそのまま追い越して進んでいく。
⏰AM6:53 カムイ天上 着
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しばらく進むと「カムイ天上」と書かれた標柱にたどり着いた。辺りは少し開けて広場のようになっている。さらにカムイ天上から少し行くと木々が少なくなってきて展望の開けた場所に出る。天気が良いと十勝連峰がよく見えるそうだ。今日はまだ上空には厚い雲があったが天候は思ったより悪くなさそうだった。
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カムイ天上から先の道中は所々泥濘も見られたが、木下駄のような足場が敷かれていたり、笹が刈り払われているため予想していたよりも歩きやすかった。
標高1500m付近までくると尾根を下り、向かって右側にあるカムイサンケナイ川の方へ降りていく。ジグザグになっている急な登山道を下って行き標高を下げていく。所々急な箇所にはロープも設置されていて濡れている箇所も多く注意が必要だ。カムイサンケナイ川らしき枯れた沢まで降りてくると、沢沿いの道を歩いていく。コマドリ沢の分岐までの間に携帯トイレブースが設置されていた。
⏰AM7:52 コマドリ沢分岐 着
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しばらく行くとコマドリ沢分岐に出る。沢を横切って右の対岸に進み再び急な斜面を登っていくことになる。1600m付近まで枯れ沢沿いにつけられた登山道を登っていくのだが、岩がゴロゴロ、傾斜も急でかなり歩きにくい。ここで何人か先行していた登山グループを追い抜いた。
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枯れ沢が終わり、前トム平の手前までくると岩がゴロゴロのガレバになる。バランスを取りながら岩につけられたペンキを確認しながらどんどん登っていく。徐々に稜線が視界に入り、ガスが晴れて青空が広がるのを目の当たりにし、自然と気分が高揚する。
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この辺りはナキウサギの生息地のようだが、残念ながら見ることは出来なかった。
⏰AM8:26 前トム平 着
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急なガレバを登りきると前トム平に到着した。これまでの急斜面と打って変わり緩やかな登りがしばらく続く。花の最盛期は過ぎてしまっているが、それでも様々な花が咲いていて目を楽しませてくれる。
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⏰AM8:50 トムラウシ公園 着
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前トムを越えると稜線に出る。しばらく行くと再びの巨石ゾーン。浮石もあるので慎重に足場を選び登っていく。トムラウシ山の山頂がはっきりと確認できるようになる。さらに進んで行くと眼下には大小の岩と池塘が点在するトムラウシ公園という美しい場所。この時点で、稜線を覆っていたガスはほとんど消え、青空の下、池塘や花、美しい景色を存分に味わうことができた。
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トムラウシ公園はコルの地形を成しており、一旦下った後トムラウシ公園を横切って再び登り返す。トムラウシ温泉からのコースは距離もそこそこあるが、アップダウンも多いので日帰りするならば自分の体力に合わせた行程を検討した方がよい。
トムラウシ公園を過ぎてから大きな岩がある裾野を縫うようにして頂上へ向かっていく。やがて南沼のキャンプ指定地が見えてくる。遠くに何箇所か黒い箱のような構造物があって「なんだろう?」と思ったが、近づいたら携帯トイレブースだと分かった。
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頂上へ行く道と縦走路の分岐点まで来ると残りはもう少し。この先は頂上直下の急峻な岩場が行く手を阻む。息を整えながらゆっくりと登っていく。あともう少しだ。
⏰AM9:40 トムラウシ山 登頂
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そしてついに山頂に到着。天気が心配だったが、思いがけず澄んだ青空と壮大な景色に出会えた。これぞカムイの祝福。言葉にできないほど、胸がいっぱいになる。
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山頂で休んでいる間に、ガスがたちまち広がり、景色が消え失せていった。もう少し遅かったらこの景色は見えなかったかもしれない。わずかなタイミングでこの絶景に巡り会えたことに安堵する。
下山は北沼方面に一度降り、山頂を巻いて戻った。途中、雨がポツポツと降り出し、急いで元来た道をたどった。
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⏰AM14:18 下山
雨は降ったり止んだりしていたが、短縮コースの分岐あたりから、突然土砂降りに見舞われた。レインウェアに身を包み、雨中の森を下りていく。そして、登山開始から約9時間。汗と雨でびしょ濡れになりながら、ようやくトムラウシ温泉にたどり着いた。
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下山後は、東大雪荘で日帰り入浴を楽しんだ。1000円と少々値が張るが、それだけの価値がある温泉だった。次に訪れる際は、ぜひ泊まりで来たいと思う。
◆ルートデータ
東大雪荘スタートのこのコースは短縮コースよりも3~4時間長くかかります。体力的に心配な方は短縮コースからスタートの方がおすすめです。登山道は概ね整備されていますが、場所によって泥濘が酷い箇所があります。往路のコマドリ沢までは急な斜面を一旦降り、前トムまでは登り返しになります。大きな岩や足場の悪い箇所もあるので気をつけて登って下さい。夏でも天候が急変し低体温症の危険があります。レインウェア等の装備は必ず持って行くようにしましょう。
※注意 私の記録はコースタイムよりかなり早く登っています。必ずご自分の体力レベルに合わせた計画を立てて下さい。
・スポーツドリンク1.5リットル
・行動食
この日は前半曇り、途中から晴れてきて暑くなりました。下山時は土砂降りの雨となり変わりやすい天候でした。
◆駐車場
東大雪荘に隣接する登山者用駐車場に駐車(トイレあり)
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