半歌仙 ねこやなぎ ~実作例と観賞~
1 半歌仙 ねこやなぎ
柔らかな夢見るごときねこやなぎ 石本昇弦(春)
小さな靴の踏める薄氷 西條裕子(春)
草餅の蒸籠の湯気の揺らぎゐて 二橋満璃(春)
古里遠く父母の住み 尾原 葛(雑)
透き通りつつ天中へ真夜の月 裕子(月)
サラリーマンは土日稲刈る 昇弦(秋)
ウ
六本木鬱憤晴らすハロウィーン 葛(秋)
歩行者天国あの娘可愛い 満璃(恋)
面影を探し続ける恋やまひ 昇弦(恋)
拉致問題のもつれもつれて 裕子(雑)
宰相は熊かはたまた狼か 満璃(冬)
異様に赤き大寒の月 葛(冬月)
尼寺の尼は百歳優に超え 裕子(雑)
未知との遭遇うすばかげろふ 葛(夏)
iPS細胞希望の光さす 満璃(雑)
降り出す雨に大地潤ひ 裕子(雑)
花筏鯉の動きのなすがまま 満璃(花)
淡水パール胸にうららか 葛(春)
平成31年2月満尾 衆議判
2 観 賞 ねこやなぎ 東條士郎
発句 連句は、季節のご挨拶から始まります。川辺を歩いていると、猫柳が銀ねずみ色の花穂を付けていたよ。やわらかくて、まるで仔猫の丸いしっぽのよう。とっても可愛いんだ。夢を見てるような・・・。
脇 ご挨拶には、お返事を。もう春なのね。薄氷を踏むと、力を入れないのに、パリッと割れてさ。
第三 続いて話は別の話題に。ときに、蒸籠から湯気が揺らいでいるけど、あれは草餅を蒸かしているのだなあ。
四 懐かしい。両親の暮らしている古里を思い出す。
五 ご覧、真夜中の月は天中へ・・・。
六 明日は土曜日だけれど、兼業農家の若い衆は、休日に田の仕事があるんだって。
このように、話は次々と繰り広げられます。
裏(七句目から十八句目まで)に入ると、行事(七)恋(八・九)時事(十・十一)宗教(十三)科学(十五)と話題は尽きません。季節も表の春(一~三)秋(五・六)に続いて、秋(七)冬(十一・十二)夏(十五)春(十七・十八)と四季が読み込まれています。
連句は、ひとつのことを深く掘り下げて歌いません。また、原因・結果を論理的に述べるものでもありません。
前の句から連想し、時には近く、時には遠く思いを巡らせます。思いが前に帰ることはありません。先へ先へと進み、この世の森羅万象が絵巻物のように流れてゆくところに、面白さがあります。
八 歩行者天国で出逢った可愛い娘~九 恋の悩みはもつれもつれ~十 もつれると言えば、拉致問題は解決の見通しなく
十三 長寿の尼~十四 その命は「うすばかげろふ」のようにはかないかもしれないが、人知れぬ喜びに出逢うことも~十五 科学の未来は明るい希望に満ちている。
と、このように、読んでゆけばいいのです。