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自然環境における大型スクリーン展示についての考察

執筆者(2024年度映像空間ゼミ院1年 ショウ コウハ)

2024年9月、中国甘粛省金昌のゴビ砂漠で開催された「Assart Art Festival」は、デジタルアートと電子音楽を組み合わせたイベントです。「Assart Art Festival」は、中国語で「开荒艺术节」、日本語では「開墾芸術祭」とも呼ばれます。
 
このイベントでは、広大な中国北西部のゴビ砂漠に長さ18メートル、高さ10メートルの大型スクリーンが設置され、デジタルアート作品の展示が行われました。
幸運にも、私の作品もこの場で展示されることになりました。

金昌市のゴビ砂漠の風景
スクリーンの組み立て作業中 長さ18m、高さ10m

デジタルアートの特徴の一つは、展示媒体や空間を柔軟に変更できる点にあると思います。スクリーンさえあれば、美術館などの室内空間にとらわれずに展示することが可能だと感じます。

動画再生リンク:https://youtu.be/BIB78FQz1h4?si=mW1rgeScN_iqNVIR

私の作品『山水』は、自然と人間の関係を探る試みとして創作されたものです。この作品の内容は一見すると山水画のようであり、周囲の広大なゴビ砂漠と良い対比を成していますが、実際には人間による鉱山の採掘によって再生された「再造」山水で構成されています。

巨大ディスプレイとゴビ砂漠の自然環境は、『山水』作品と非常に調和しています。作品自体には、映像を通じて自然環境の保護について暗示的に表現する意図が含まれています。さらに、荒涼とした砂漠の視覚的圧迫感や寂しさが、鑑賞者にエコロジーについて考えさせるきっかけをより強く与えます。


動画再生リンク:https://youtu.be/JuViiN8Cndw?si=LElDfG2oS3R-HpNb

また、広大な砂漠の中でこのような大型スクリーンを使用することで、デジタルアート・映像内容が「没入感」の一部となります。鑑賞者はこの環境の中で囲まれ、まるで山水画の中に入り込んだかのような錯覚を覚え、空間の拡張と融合を体験します。これにより、作品は単なる映像ではなく、臨場感あふれる空間体験へと変化します。映像空間を研究する者として、デジタルメディアが環境や空間を利用して鑑賞者の没入感をどのように高め、デジタル作品を視覚から空間体験へと昇華させるかを分析・探求する価値があると考えています。

谷の中で通過する鉱車のシーン

大型スクリーンによる作品の表現力の向上は、視覚範囲の拡張に主に現れ、作品の微細なディテールを拡大します。さらに、この視覚的な拡張により、空間において仮想と現実の境界が曖昧になることで、鑑賞者はより深く没入できるようになります。

鉱車が作業しているシーン

もう一つの作品である『漂浮』も、環境問題を表現するデジタルアート作品です。画面には、石炭が巨大な雲のように青空に浮かんでいます。その重々しく暗い質感は、雲の軽やかさと対照を成し、仮想でありながらも現実感のある圧迫感を生み出しています。

空に浮かぶ石炭のシーン
動画再生リンク:https://youtu.be/cbS9MGPCMeE?si=-eujWBK8FoynOlOH
石炭が並べられているシーン

また、ゴビ砂漠の環境が、石炭の巨大なサイズや「空を覆う」効果に対応し、石炭が自然環境に浮遊する視覚的な衝撃を強化しています。大型スクリーンにより、鑑賞者はまるでその場に身を置くような感覚を持ち、石炭が浮遊する映像は「目の前に迫る脅威」として体験されます。

「目の前に迫る脅威」ようなシーン

この2つの作品がこの展示で果たす意味は、鑑賞者が実際の自然の中で人と自然の関係を再考することにあります。作品のコンセプト表現、展示形式、そして環境が一貫して結びついています。

考察

自然環境に大型スクリーンを設置してデジタルアートを展示することについて、美術館の室内展示方式の延長としての考察があります。
 
美術館内の閉鎖的な空間に比べ、このようなオープンな展示方法では、鑑賞者が異なる距離や角度から作品を鑑賞でき、自然の風や光、匂いといった多感覚的な刺激を感じることができると思います。自然要素と組み合わせた没入体験は、室内美術館では再現できないものであり、鑑賞者を受動的な「鑑賞」から能動的な「参加」へと変えると考えています。
 
そして、作品にとっても単なる空間的存在を超え、時間や気候など自然の要素の影響を受けます。例えば、異なる日照や天候、風速によって観賞体験が変わり、各瞬間の鑑賞がユニークなものになります。このような「時空間感覚」は、作品の多様性を深めます。
 
補記
環境に関連するテーマのデジタルアートを大型スクリーンで展示することで、「第三自然」の概念を思い出させました。この概念は通常、人間が技術を通じて自然環境を再構築することであり、自然と人工の交わりを指します。自然環境でデジタルアートを展示することで、作品は単に「自然」の映像を表現するだけでなく、人工的でデジタルな要素を加えることにより、「第三自然」として技術改変された自然風景や環境体験が創出されます。この展示方法は、自然、技術、芸術を一体化し、鑑賞者にはリアルな自然と人工的な世界の間にある景観が提供されます。
 
たとえば、アーティストのジョン・ジェラード(John Gerrard)が屋外に大型スクリーンを設置し、精巧に制作されたシミュレーション環境や仮想シーンを展示する試みにも似ています。鑑賞者は自然環境の中で「仮想の自然」や人工的な環境の動的な映像を見ることができるのです。


作品『Western Flag』、画像はジョン・ジェラードのウェブサイトより引用
https://www.johngerrard.net/western-flag-spindletop-texas-2017.html

彼の作品『Western Flag』は、荒野に仮想の黒煙の旗を表示させ、石油開発が環境に及ぼす影響を暗示しています。このように大型スクリーンを屋外に置く形式は、鑑賞者に自然と仮想の境界を越えさせ、現実の自然環境の文脈の中で人間活動がエコロジーに与える影響を考えるきっかけを提供します。

(ショウ コウハ)


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