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【小説1-7】スクールカースト下位だった私が、レンタル彼女になったワケ

「――昔、まだ中学生の頃なんですけど、スクールカースト最下位だったことがあるんです」

「最下位って、すごいですね。どんな感じだったんですか」

向かいに座った女性は、慌ててメモを取りながら紗耶香さやかを見た。

ビジネスパーソンがよく商談に使うような喫茶店だ。その片隅で、紗耶香は女性誌のインタビューを受けている。

「学校で一言も話さないなんてザラでした。誰からも相手にされていなかったから、最下位というよりは、もしかしたら圏外だったのかも……」

「それが、今や話題のレンタル彼女ですからね」

ライターの女性は、今どきの女性の仕事や働き方を取り上げたいのだと言っていた。レンタル彼女という仕事はまだ珍しく、あえてこの仕事を選んだ理由を聞きたいとのことだった。そこで、『平日は秘書、週末はレンタル彼女』という働き方をしている紗耶香に白羽の矢が刺さったのである。

紗耶香は秋山の勧めもあって、会社を辞めることはせずにダブルワークという働き方を選んだ。会社での紗耶香はそのままに、週末にレンタル彼女として働くときは自分を解放するようにしている。

『誰からも好かれたい』という気持ちが強すぎると、こびた態度になってしまって、結果的に誰からも好かれないということが分かった。自分を戒めていた『○○をしてはいけない』という鎖を断って、心の赴くままに行動することに挑戦中だ。

とはいっても、自分をレンタル彼女として指名してくれる客の前で、愛想笑いを封印できたかといったらそうではなく、レンタル彼女を始めた頃は作った笑顔で接客してしまっていた。けれどもその愛想笑いは、客と紗耶香の間に壁を作ってしまって、客を楽しませることができないと実感することになる。

「話題……かどうかはわかりませんが、それこそスクールカーストの上位にいるような人がレンタル彼女になるイメージが強い中で、ここまで極端に底辺を見ている人も珍しいですよね。でも、スクールカースト下位にいたおかげで『ここから抜け出したい』って気持ちが高まって、そのためには自分を変えなきゃいけなくなったんです」

「へぇ……。どう変えたんですか?」

「わかりやすく言えば、自分が嫌いな自分にならないことでしょうか。人から嫌われたくないあまりに、人の顔色をうかがってしまう自分って嫌じゃないですか? ……でも、それに気づいたのも割と最近なんですけどね」

と言って、紗耶香はふふっと笑った。

相手に合わせて笑うのではなく、相手と同じものを見て素直に心を動かすこと――。

それは、変なことを言ってしまわないか、笑われないかと自分の心配をしているようではできないことだった。人は誰しも万能ではないのだから、変なことを言ってもいい、笑われてもいいと自分に許しを与えると、人と接する際も以前ほど緊張しなくなった。

すると、完璧ではない自分に対して客からの評価が寄せられるようになる。『ドジなところに親近感が沸く』『自然体で接しやすい』『天然で癒される』などの言葉は、今までの紗耶香では言われたことなどなかったことだ。

人から嫌われないためには完璧でいなければいけないと思い続けてきた紗耶香の価値観が足元から崩れるのを感じた。

「なんだか意味深ですね。そのお話、もっと聞かせてください」

「いいですよ。秘書のお仕事で上司にダメ出しをされたことから始まってるんですけどね……」

媚びたような笑いを指摘されたことが遥か昔に感じる。

秋山には「自分をリセットしたい」と言った紗耶香だったが、リセットをしなくても週末のレンタル彼女としての紗耶香が、平日の秘書としての紗耶香に影響を与えているのは明らかだった。

紗耶香自身は何も変わっていないつもりだが、同僚からは「いいことあったの?」と聞かれることが多い。秋山からも「最近いきいきしている」と褒められたばかりだ。

紗耶香は記者に向かって何から話そうかと、ひとつ深呼吸をして話す体勢を整えたのだった。

【終わり】

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