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#大和言葉

山の記憶、「山」の記憶

山の記憶、「山」の記憶

 今回は、川端康成の『山の音』の読書感想文です。この作品については「ひとりで聞く音」でも書いたことがあります。

◆山と「山」
 山は山ではないのに山としてまかり通っている。
 山は山とぜんぜん似ていないのに山としてまかり通っている。

 体感しやすいように書き換えると以下のようになります。

「山」は山ではないのに山としてまかり通っている。
「山」は山とぜんぜん似ていないのに山としてまかり通って

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うつす、うつる、うつってしまう

うつす、うつる、うつってしまう

 川端康成の『名人』には「うつす」と「うつる」と「うつってしまう」が出てきます。

 頼まれて「うつす」ことになった写真に「うつる」ものを見て、「うつってしまう」を感じたときの気持ちが文字にされているのです。「みる・みえる」について考えさせてくれる刺激的な記述に満ちています。

 なお、『名人』については以下の記事に書きましたので、よろしければお読みください。

写す・写る
 写真を撮る場合には、

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壊れる、崩れる(文字とイメージ・06)

壊れる、崩れる(文字とイメージ・06)

「こわれる、くずれる(文字とイメージ・05)」の続きです。

コワレル、クズレル
 壊れる、こわれる、コワレル。崩れる、くずれる。クズレル。

 こわれる。コワレル。kowareru――「a」と「k」のせいでしょうか、どこかかん高い。

 くずれる。クズレル。kuzureru――「u」が二つで「z」があるせいでしょうか、どこか低い響きが……。

 イメージは個人的なものです。なかなか人には通じませ

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「やま」に「山」を当てる、「山」に「やま」を当てる(言葉の中の言葉・02)

「やま」に「山」を当てる、「山」に「やま」を当てる(言葉の中の言葉・02)

 今回は「あなたとの出会い」で見た詩を、違った視点から見てみます。

*翻訳された詩
 上田敏訳の「山のあなた」(『海潮音』より)というカール・ブッセ(上田敏はカアル・ブッセと表記しています)の詩を見てみます。

 この詩は青空文庫でも読めますが、だいぶ下のほうにあって、探しづらいかもしれません。

     *

 まず、訳詩です。

 以下は、ドイツ語の原文です。

 残念ながら私はドイツ語に

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まなざし、目差し、眼差し

まなざし、目差し、眼差し

 私は言葉を転がすのが好きです。眠れない夜とか、昼間にぼーっとしているときにやっています。

 具体的に言うと、次のように連想にうながされる形で言葉を並べていくのです。

 まなざし、目差し、眼差し、なざし、名指し、名付ける

 よく記事の中でも、言葉を転がしています。あれは記事を書きはじめたり、書きつづけるために、取っ掛かりを探しているのです。見切り発車で記事を書くので、どうしてもそうなります。

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うつす、ずれる

うつす、ずれる

 今回は「何も言わないでおく」の続きです。見出しのある各文章は連想でつないであります。緩やかなつながりはありますが、断章としてお読みください。

 断片集の形で書いているのは体力を考慮してのことです。一貫したものを書くのは骨が折れるので、無理しないように書きました。今後の記事のメモになればいいなあと考えています。

書く、描く
「書く」のはヒトだけ、ヒト以外の生き物や、ヒトの作った道具や器械や機械

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や ゆ よ

や ゆ よ

 小学校に入ってまもなく、教室に掛けてあった表を授業中によく見ていました。先生の話にあきて、よそ見をしていたわけです。

 その表全体を見ていたのではなく、ある部分をよく眺めていました。

 や ゆ よ
 らりるれろ
 わ   を
 ん

 なんであそこがあいているのだろう? なんであれだけがひとりぼっちなのだろう?

 横書きではなく縦書きの表でしたが、特に気になったのは「や ゆ よ」でした。 

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言葉の中には言葉がある(言葉の中の言葉・05)

言葉の中には言葉がある(言葉の中の言葉・05)

*「言葉の中に言葉がある(言葉の中の言葉・01)」
*「「やま」に「山」を当てる、「山」に「やま」を当てる(言葉の中の言葉・02)」
*「「同じ」を教える、「同じ」を教わる(言葉の中の言葉・03)」
*「こころとこころをあわせる(言葉の中の言葉・04)」

 今回は、連載のタイトルである「言葉の中の言葉」をまとめてみます。

 今回のタイトルは「言葉の中には言葉がある(言葉の中の言葉・05)」です

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あなたは近くて遠い、まぼろし

あなたは近くて遠い、まぼろし

 今回は、「二つの「あなた」」の続きです。

* Ⅰ
 人は一度に二つの言葉を口にできない、発音できない。そんなことを蓮實重彥がどこかで書いていた記憶があります。最近特に増えてきた気がする偽の記憶かもしれません。

 ひょっとすると、一度に二つの言葉を口にできないではなくて、一度に二つの言葉を書けないだったかも……。

 確かめに二階の書棚へ行くこともできるのですが、きょうは体調がすぐれません。

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こころとこころをあわせる(言葉の中の言葉・04)

こころとこころをあわせる(言葉の中の言葉・04)

*「言葉の中に言葉がある(言葉の中の言葉・01)」
*「「やま」に「山」を当てる、「山」に「やま」を当てる(言葉の中の言葉・02)」
*「「同じ」を教える、「同じ」を教わる(言葉の中の言葉・03)」

 この「言葉の中の言葉」という連載でお話ししている「言葉の中に言葉がある」という言葉のありようを、今回はいくつかの異なる方法で説明してみます。

 目次をご覧ください。各見出しがキーワードです。文字

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「写る・映る」ではなく「移る」・その2

「写る・映る」ではなく「移る」・その2

  今回は「「写る・映る」ではなく「移る」・その1」の続編です。

 まず、この記事で対象としている、『名人』の段落を引用します。

 前回に引きつづき、上の段落から少しずつ引用しながら話を進めていきます。 

*開かれた表記としての「ひらがな」
・「生きて眠るかのようにうつってもいる。しかし、そういう意味ではなく、これを死顔の写真として見ても、生でも死でもないものがここにある感じだ。」

「生き

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音の名前、文字の名前、捨てられた名前たち

音の名前、文字の名前、捨てられた名前たち

 今回は、名前を付ける行為について、私の思うことをお話しします。最後に掌編小説も載せます。

◆音の名前
 ウラジーミル・ナボコフは、Lに誘惑され取り憑かれた人のように感じられます。Lolita という名前より、Lに取り憑かれている気がします。あの小説の冒頭のように、 l をばらばらしているからです。

 つまり、Lolita を解(ほど)き、ばらばらにするのです。名前を身体の比喩と見なすとすれば

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