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#文字

言葉をうつす言葉、文字をうつす文字(「鏡」を読む・02)

言葉をうつす言葉、文字をうつす文字(「鏡」を読む・02)


◆言葉をうつす言葉、文字をうつす文字*文字がうつすものは文字

 上は、「「鏡」を読む」という連載の第一回に書いた文章ですが、今回はそれを変奏してみます。

 言葉は言葉をうつす
 言葉は世界をうつさない
 言葉は世界ではない、世界は言葉ではない
 言葉と世界は別物

 文字は文字をうつす
 文字は世界をうつさない
 文字は世界ではない、世界は文字ではない
 文字と世界は別物

 鏡は鏡をうつす

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山の記憶、「山」の記憶

山の記憶、「山」の記憶

 今回は、川端康成の『山の音』の読書感想文です。この作品については「ひとりで聞く音」でも書いたことがあります。

◆山と「山」
 山は山ではないのに山としてまかり通っている。
 山は山とぜんぜん似ていないのに山としてまかり通っている。

 体感しやすいように書き換えると以下のようになります。

「山」は山ではないのに山としてまかり通っている。
「山」は山とぜんぜん似ていないのに山としてまかり通って

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うつす、うつる、うつってしまう

うつす、うつる、うつってしまう

 川端康成の『名人』には「うつす」と「うつる」と「うつってしまう」が出てきます。

 頼まれて「うつす」ことになった写真に「うつる」ものを見て、「うつってしまう」を感じたときの気持ちが文字にされているのです。「みる・みえる」について考えさせてくれる刺激的な記述に満ちています。

 なお、『名人』については以下の記事に書きましたので、よろしければお読みください。

写す・写る
 写真を撮る場合には、

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音声として立ち現れるもの、文字として立ち現れるもの

音声として立ち現れるもの、文字として立ち現れるもの

 戻れない、もうあそこには戻れない、あの状態を取り戻すことはできないだろう。そんなふうに思うことが多くなりました。

 年を取り、複数の持病をかかえているからかもしれません。

 今頭にあるのは歌です。痛みや苦しみや悲しさをこらえるときに、知らず知らずのうちに頭のなかで歌や旋律の断片が鳴っていることがあります。

 勝手に鳴るのです。流れているという感じ。

 有り難いものです。

 歌の場合だと

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始まりと途中と終わりがないものに惹かれる

始まりと途中と終わりがないものに惹かれる

*「複製としての楽曲(複製について・01)」
*「絵画の鑑賞(複製について・02)」
*「複製でしかない小説(複製について・03)」

「複製について」という連載をしていて気づいたことがあります。オリジナルか複製にかかわらず、作品には始まりと途中と終わりがあるものと、ないものがあるようです。

 作品と言いましたが、ジャンルによって異なると言うべきかもしれません。

 また、作品の制作や執筆には時

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何も言わないでおく

何も言わないでおく

 今回は「簡単に引用できる短い言葉やフレーズほど輝いて見える」という話をします。内容的には、「有名は無数、無名は有数」という記事の続編です。

 前回の「名づける」の補足記事でもあります。

*「「神」という言葉を使わないで、神を書いてみないか?」

 学生時代の話ですが、純文学をやるんだと意気込んでいる同じ学科の人から、純文学の定義を聞かされたことがありました。

 ずいぶん硬直した考えの持ち主

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文字の世界(文字について・01)

文字の世界(文字について・01)

 私にとって身近でありながら、最も気になるものであり、不思議で仕方がないものである文字についての連載をしようと思います。

 文字については、これまで何度も記事にしてきました。というか、私の投稿する記事のすべてが文字について書かれていると言っても言い過ぎではない気がします。

 この「文字について」という連載では、長くなりがちな記事をなるべく短くして、一回の記事では一つのテーマを扱うように努めるつ

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文字を所有する、所有しない、共有する

文字を所有する、所有しない、共有する

 まず、結論と言うか、まとめから書きます。

 文字を所有する、文字を所有しない、文字を共有する――この三つは同時に起きていると私は思います。

 文字には、目の前に「見える」物、目の前に「ある」物としての側面と、情報やデータという抽象的な側面の両面があるからです。

 物は具体的な行為として所有できても、情報やデータは行為というよりも、観念や約束事として「所有としている」と「決める」しかないから

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小説にあって物語にはないもの(文字について・03)

小説にあって物語にはないもの(文字について・03)

 小説にあって物語にはないものがあります。今回は、誰が見ても明らかなもの、誰の目にでも付くものを挙げてみます。

 空白と黒いページです。

 読んでいて不意に現れる白い部分、真っ黒なページですから、目に付くはずです。

 こうしたものは、物語にはありませんでした。あり得なかったというべきでしょう。

 ここで言う物語とは、もとが口頭で語られ、長い間口頭で伝えられていたものです。口承文学とも呼ばれ

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赤ちゃんのいる空間

赤ちゃんのいる空間

 先日、病院で見て感じたことと考えたことを書きます。

 子も孫もいない私にとって、総合病院は赤ちゃんを間近で目にすることができる唯一の場所でもあります。病院の待合室や総合ロビーで待機する時間はけっして楽しいものではありませんが、近くに赤ちゃんがいるとそれだけで心と体がやすらぎます。

*目と耳で追う
 私は言葉を広く取って、話し言葉(音声)と書き言葉(文字)だけでなく、視覚言語と呼ばれることもあ

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当てる

当てる

 石に石を当てる。
 石に「石」を当てる。

 いまここにあるたった一つのものに、一本化された「たった一つのもの」を当てる。

 猫に猫を当てる。
 猫に「猫」を当てる。

 いまここにいるたった一つのものに、一本化された「たった一つのもの」を当てる。

     *

 愛に愛を当てる。
 愛に「愛」を当てる。

「たった一つのもの」とは言えないものに、一本化された「たった一つのもの」を当てる。

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振りをする振り、語ることで騙られてしまう

振りをする振り、語ることで騙られてしまう


Ⅰ. 引用

 引用にさいしては、蓮實重彥著『フーコー・ドゥルーズ・デリダ』(河出文庫)を使用していますが、この著作は講談社文芸文庫でも読めます。

Ⅱ. 振りをする振り、語ることで騙られてしまう
 自然界には名詞はもちろん、名詞的なものがない気がします。名詞は、事物のある一面をとらえて名付けた結果です。

 多面的で多層的で多元的で、おそらく多義的でもあるはずの事物のある一面だけをとらえて、固

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言葉は「出る」、文字は「現れる」

言葉は「出る」、文字は「現れる」

「赤ちゃんのいる空間」の続きです。

 今回は個人的な語感に基づいた話をします。まず、まとめから書きます。

*まとめ 
 まず、今回のテーマである「出る」と「現れる」という言葉と文字についての私のイメージをまとめます。

「出るもの」と「現れるもの」という分け方をしますが、世界に「出るもの」と「現れるもの」の二種類のものがあるという意味ではありません。

「出る」も「現れる」も言葉です。この日本

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「やま」に「山」を当てる、「山」に「やま」を当てる(言葉の中の言葉・02)

「やま」に「山」を当てる、「山」に「やま」を当てる(言葉の中の言葉・02)

 今回は「あなたとの出会い」で見た詩を、違った視点から見てみます。

*翻訳された詩
 上田敏訳の「山のあなた」(『海潮音』より)というカール・ブッセ(上田敏はカアル・ブッセと表記しています)の詩を見てみます。

 この詩は青空文庫でも読めますが、だいぶ下のほうにあって、探しづらいかもしれません。

     *

 まず、訳詩です。

 以下は、ドイツ語の原文です。

 残念ながら私はドイツ語に

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