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~満を持して真打登場!~『秘密〜THE TOP SECRET〜』(ネタバレあり)
第三話
前回はWバディ、と書いたものの、ここで初めて正バディ(というのが妥当だろう)・青木一行が登場する。中島裕翔君が薪の親友・鈴木とこの青木の二役を担っている。物語も原作の1巻に戻るので、再度、スタートラインに立ったような気分だ。
↑やっと話が戻って来た第1巻
話運びはほぼ原作に沿っていて、肝どころもほぼ、抑えられている。
ただ、引っかかる描写もある。
それは中島君の一人二役に絡むものだ。ここまで二人をそっくりな設定にしたのだったら、せめて髪型だけでも大きく変えておいた方がいいんじゃないだろうか?
だって数年前の広報紙で、薪と一緒にあれだけあからさまに、鈴木の写真だって載っているのに、第九の同僚の皆さんは「そっくりすぎ」とか「ドッペルゲンガー?」とか一切言わないのだ!(岡部だけは知っていながら口をつぐんでいる、とも取れる表情をしていたが)
さすがにこれはちょっと無理があるのでは?と引っ掛かった。
だが一方で(前回も触れたが)このTVドラマ版でいい設定変更をしたな、と思ったのが薪のトラウマとしてこの物語に君臨する、貝沼“教授”である。
ここからはネタバレになるが、貝沼は少年院で更生を受けている少年たちに「ヒーリングを施す」と称して催眠術をかける。原作では皇族の結婚式のパレードが自殺命令の引き金となる。この暗示が功を奏し、9人の少年が自死する。
(ちなみにこの引き金映像も、皇族の結婚式ではなく、TVドラマ版では彗星の地球接近のニュースに変えられている)
この犯行を実行するには、少年院にヒーラーとして潜入しなければならない。それってそこら辺のおじさんが「私がヒーラーです」と手を挙げればできるようなことには思えないのだ。
薪に対し、異常なまでの熱量と共に復讐を誓った貝沼が死ぬ気で、そこまで高度な催眠術を習得することは、あるいは可能かもしれない。けれどTVやネットに顔を出すような有名人、とまでは行かなくても、それで生計を立てている、くらいのレベルでなければ少年院の職員たちは、更生させようとしている少年たちのもとに貝沼をヒーラーとして呼ぼうとすら思わないんじゃないだろうか。
反対に貝沼がヒーラーとしてそこまで名を上げていたら、薪たち警察庁の捜査の目に止まらないのもおかしい。
片や貝沼が“教授”だった場合は、この辺りの話の運びがスムーズに行われる。大学教授であれば、社会的信用も高く、少年院の職員たちもすんなり彼を受け入れるだろう。“教授”であれば、新しい更生プログラムのための実験として少年たちに催眠術をかける、と言ったとしても二つ返事で了承してくれそうだ。
実はこの事は、TVドラマ版で具体的に映像を見せられてから思い至った。
原作を初めて読んだときは、貝沼から憎悪か愛情か、名前すら付けようのない気持ちを押し付けられた結果、発狂しそうな地獄絵図を見せられた薪にばかり目線が行った。挙句、親友すら手に掛けざるを得なくなり、精神的にズタズタにされた彼が、そこから立ち上がる希望を手に入れようとするラストに、激しく心揺さぶられた。これにすっかり心を奪われ、そのトリックの違和感に全く気付かなかったのだ。
原作のラストは青木のモノローグで閉められる。
「人の脳を見ただけで心まで伝染りはしない。
死んだ人の心は死んだ人のものだ。
死んだ人のかわりになど誰もならない。
鈴木さんのかわりには誰にもなれない。
ただ願うことができるだけなのだ。
死んでしまった人の分も、この世界を愛して行けるように、と」
自分が絡んだことで始まった殺人鬼の脳の映像を28人分、目を逸らさず見詰め続け、友まで自らの手に掛けた薪が、傷つかないはずはない。例えその気持ちを全く表情に出さなかったとしても。
青木はそれを「意外と脆い」と評していたが、被害者の脳内映像の中に、貝沼の姿を見るだけで薪が卒倒したとしても、それって決して精神的に脆いわけではないと思う。いや、むしろ、そうなっても当然なくらいの強烈なダメージを受けているのが普通だ(弱い人なら発狂しているだろう)。
親友・鈴木と瓜二つの容貌を持つ青木は、上司のそんな事情と心情を知って、対等の立場だった鈴木とは違い、部下の立場から薪を支えはじめる。呼吸をするように、ごく自然に。自分でも「支えよう」なんて意識さえ無いくらいに。
前回の岡部とは、また少し違った形で薪に寄り添う青木がいい。
薪の指摘通り、まんまと脳内映像の幻想にまともに取り込まれ、半ば“乗っ取り”のように薪の乗ったへりを操縦し始めたはいいが、亡霊の映像にラリってしまい、操縦不能に陥るというのに、ケロッと復活する図太さは一体、どこから生まれてくるのだろうか。
純粋にうらやましいー。