
~技ありの導入・第一話~『秘密〜THE TOP SECRET〜』(ネタバレあり)
また横道に逸れてはしまったが、2005年1月期のドラマ『秘密〜THE TOP SECRET〜』が、ストーリー以外でも見どころがあって面白いので今回、書き留めておきたい。
おさらいをしておくと、原作は清水玲子氏。1999年に白泉社『メロディ』に初出。TVドラマにもなった薪、青木の二人が主人公になるストーリーは2001年からの連載分になる。
2025年2月20日現在、TVドラマは第4話までが放映済みである。
私は原作ファンで、『秘密』の方(つまり『season0』ではない方の)コミックは全巻持っている。2016年、映画化もされたが、私は「せっかくの世界観が壊れてしまう」と思って、あんまり話題にならなかったその映画は見ないままだった。
が、そんな私が今回のTVドラマ版を観ても、それほどのガッカリ感はなかった。
ーーーいや、もちろん、予告は見ていたから薪役の板垣李光人君のビジュアルは完璧だと思ったのだが「それだけじゃあなぁ」とあまり期待は掛けなかった。
けれど、蓋を開けてみるとどうしてどうして、なかなか上手に映像化されている、と思えてきたのだ。
第一話
まず、話の構成。第一話に持ってきたのは『秘密 2003』。一家惨殺事件の真犯人に迫る話だ。原作では薪と青木が取り組む事件なのだが、初めてこの作品を観る視聴者にもわかりやすいよう、ドラマ版は第九捜査室の立ち上げから時系列を追う形でのストーリーになっている。そのため、TVドラマ版ではこの事件に対峙するコンビは、薪と鈴木に変わっている。
↑TVドラマ版第一話が収録されている『秘密 第二巻』
この作品の中でも、日本の警察を舞台に薪が第九を率いて活躍するシリーズは、2001年の連載からである。そこから数えても第3話目の話をトップに持ってきた。これはなかなかいい判断だと思う。
SF漫画家である清水氏は、話の舞台を2060年代の未来に設定している。脳の記憶を映像化する、という技術は作品の発表当時(1999年)はかなりSFな設定だった。
が、ドローンが飛び交い、AIが人間の職業まで脅かしかねないところまで来ている2025年の現在では、その技術は手の届かないものではなくなってきている。要は頑張ればこれからの10年くらいでこの技術、できてしまいそうなんである。
つまり、SFの要素はかなり薄めだ。
だからだと思うのだが、犯人を割り出すために第九は、脳の映像の中でも一家惨殺の真犯人・絹子に殺された盲目の平井少年の脳、でなく、彼と常に共に居り、巻き添えを食らって亡くなった愛犬・ジップの脳を解析して、真犯人を突き止める。”脳の映像化”のメリットがフルに活用できたからこそ解決した、原作でも一番インパクトの強い話。これを敢えて第一話に持ってきた。この構成はよかった。
しかも私が原作のこの話を読んで、一番涙を絞り取られたジップ(犬)側の、飼い主への愛情しか見えない映像。そしてそれを見た(原作では青木。TV版では薪)が痛ましさに思わず、胸を絞られるように漏らしてしまう、胸中のモノローグ。これを話のラスト、メインテーマに持って行くことを忘れなかった、佐藤嗣麻子氏の脚本もいい。
もちろん、原作には父親に強姦された絹子が、父への憎悪に呑まれてゆく過程も描かれている。父への復讐を誓った絹子は何人もの男性を誘っては殺す罪を繰り返す。
最後には自分の罪を隠すために家族や、無邪気に自分を慕ってくれた平井少年までも殺してしまった、という“狂気の理由”が、この背景にはあるのだが、50分前後の限られた時間の中で、そこまで描き切るのは難しいだろう。
第九は人の脳内を映像化することで、無下に殺された人の無念を(この世にその命はなく、手遅れではあっても)晴らす。だが正義を貫く代償として、人が隠しておきたかった「秘密」を暴き、人をより深く傷つけてしまう、という十字架を、室長という立場と責任のもとに、誰よりも重く背負わねばならなかった薪。その薪の苦悩を描く方を選んだ脚本がまたよかった。
今期、追ってみたいドラマである。