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公園とAR -withARハッカソン振り返り(チームHinaあつめ いちメンバー視点)-

先日開催された「公園での遊びのアップデート」をテーマとしたハッカソン 「公園withARハッカソン」にて、自分がプランナーの1人として参加した「Hinaあつめ」がNiantic賞と新宿中央公園 事務所長賞の2つを頂戴しました!

ハッカソンは、AR開発は初めて!という方から経験者の方まで入り乱れる、和気藹々と、でも真剣にアイデアと実装をぶつけ合うもので、とても空気も良く1参加者として楽しい会でした。

また発表はどれも面白く、参加者投票による選出はどれも納得のいく結果でした。その中で、Nianticや新宿中央公園の方々から特別賞を頂戴しました。
チーム一丸で「公園の拡張」に向き合った側面もあったため、公園や屋外空間の活用を日頃から考えている方々から賞をいただけたことは、チームの取り組みの何よりの成果だと思うので、とても嬉しく感じています。

本記事は自分への備忘も兼ね、1プランナーとして当時考えていたことをまとめています。公園におけるARの提供価値や、アソビの捉え方を主眼に整理しますので、ご参考になれば幸いです。


公園におけるARの提供価値

屋外の公共空間

仕事の都合、屋外の公共空間におけるAR活用を考える機会が多いのですが、その際に毎回感じることは、素人の自分では考えが及ばないほど「都市空間は設計されているなぁ」ということです。
プロジェクトでもそれ以外でも、機会があれば、街を観察しながら散歩したり、会社の人とエリアの街路やビルの歴史を設計観点で調べながら歩いたりするのですが「細かいところまで意匠が凝らされている」とその度に感じます。場所をどう使って欲しいのかとか、元の空間の何を活用しどう調和させようとしたのか、などです。

そういった凝らされた意匠に対して、何も考えずにとりあえずARの体験を作れば良いかと言われると それは違うのでは?というのが、日々感じていることであり、個人的なスタンスです。


公園もモチロン上記の意匠が凝らされたスペースに含まれます。
都内の大きめの公園に絞って話すと、傾向としては、都市部に自然を取り込むことや、多様な人々の交流のキッカケになることが意図され、広々としたスペースが置かれる場合が多いと認識しています。同時に、先述の「多様な人々」の解像度は高く、周辺の施設や住民・利用者に合わせて、デザインに差が生じているように思います。

例えば、今回のハッカソンの舞台である新宿中央公園に目を向けてみます。

新宿中央公園公式サイト (https://shinjukuchuo-park.jp/facilities/) より園内マップ

新宿駅から向かうと、都庁やホテル ハイアットリージェンシーなどを見ながら、画像右下の公園北歩道橋や虹の橋を通じて公園に入ります。したがって最初は芝生広場や水の広場を楽しむことになります。
実際に公園に散歩しに行ったのですが、このスペースで休んでいるサラリーマンの方もいれば、スタバを楽しむ学生もいました。ホテルから直接公園に入る海外の方もいらっしゃいました。そういった方々が、広々と自由に使えるスペースとしてこういった広場があるのではないかと感じました。

散歩やジョギングする方もいらっしゃるのですが、そういった方々が楽しめるよう中の道は設計されるように感じました。個人的には、画像中央の眺望のもりから見える景色が、新宿西口の広がりを感じて好きでした。

眺望のもりからの景色

また、ちびっこ広場が画像右上の西エリアに配置されていることも意図を感じました。小学校や住宅は公園を挟んで西側に多く、子連れがアクセスしやすい位置に置かれているのだと思います。正直駅からの道は、まだ完全に綺麗・子供と歩きやすいとは言えないかなと感じており、そのため入り口が明確に分かれているのかな、と思いました。
ただ、内部で動線が切れているわけではなく、自然を交えながら多様な人々の結節点になる、そういう意図で設計されている公園であると感じました。

上記は、設計者のレポートを見たわけではなく、あくまで自分が感じたことでしかないのですが、少なくとも意図があって設計されているものだと思っており、
それらに対して、無頓着にAR体験を配置するのは、やはり違うのではないのか が個人として重視したいポイントでした。


AR外の事例紹介

ここで自分が好きな事例として、ご存知の方も多い事例とは思いますが、ニューヨーク市の「ブライアントパーク」再生計画の事例を簡単に紹介します。

ニューヨーク市にあるブライアント・パークは1970年代、麻薬売買の場所になるなど治安が悪化していました。1980年に公園の再生を実施するため、BPRC (Bryant Park Restoration Corporation)が設立され、1988年には一度閉鎖されています。4年間の改善工事の後に1992年に再開されると、それまでのイメージが一新され、人の賑わう安心安全な公園となりました。

施策は種々にあり、例えば外の公園と道路との互いの見通しが良くなるように地面を掘り下げ生垣を撤去したり、質の高い飲食を提供するキオスクやレストランを設置するなどしています。
中でも自分が一番好きなのは、可動式の椅子とテーブルを配置したことです。
約 4500 脚の可動イスと800 脚の可動テーブルを配置し、これらは夜間でも仕舞われず、利用者が思い思いの使い方ができるようにしています。この可動式の椅子は、利用者の周囲とのコミュニケーションを誘発するキッカケとなっており、公園を中心とした社会性の創出や安全で快適なイメージの創出に寄与しています。

人であふれる平日のブライアントパーク
(筑波大学環境デザイン領域准教授 渡 和由著
官能都市のデザインとプレイスメイキング エモーショナル環境がつくる魅力価値 より)


屋外の公共空間をARで拡張する というお題に向き合う際、自分は頭の片隅にいつもこの事例があります。あくまで「そっと椅子を置いてあげる」体験を作りたい、というものです。
十数年後の「ARを前提とした都市設計がなされて建設も完了している」ような未来や、屋内利用やゲームユースケースとしてのAR体験を考えるのであれば、全然違う発想で良いと思いますが、公共空間で日常的にARが使われる未来を考えるならば、それは「そっと椅子を置いてあげる」ような使い方ではないか、と。そのように考えている訳です。


ハッカソンのお題との整合

改めて、今回の舞台は「新宿中央公園」でした。
ハッカソン開始日には、公園の方々の講演セッションもあり、新宿中央公園の理想像やお題の意図が伝えられました。

理想の姿として観点がいくつか挙げられたのですが、子供も大人も世代を超えて楽しめる公園・多様な自然を通じて四季の魅力を体験できる公園・たくさんの人々が集まり楽しんでいる姿がつながる公園といった視点が挙げられました。

メンバーで現地にフィールドワークに行った時に感じたことはすでに述べましたが、上記の観点と照らした時、すでに新宿中央公園のハードウェアとしての魅力は十分にあると感じました。したがって、その魅力をどう楽しむ姿に繋げるか、そのキッカケを与えられるか、が公園においてARができる提供価値なのではないかと考えました。


このパートのサマリ

結論的に言えば、一つのキッカケを与えるだけの体験に落とし込んで、そこから先はユーザー側で公園に既にあるものから想像してもらう、理想的にはそれが他の人々との交流に繋がると良い、というのが、自分が理想とする、直近の公園におけるARの提供価値です。

具体的なHowのアイデアまで落とし込めている訳ではないですが、空間に情報を付加できるというARの性質は、公園のハードウェアの設計だけでは届きづらかったところにまで手が届くのでは、と考えています。


アソビの捉え方

続いて、アソビの捉え方についてです。今の自分の居る会社 MESONがバリューとして「アソビをつくる」を掲げていることもあり、「アソビ」とは何かを考える機会も多いです。

自分の中で言語化しきれていないのですが、大人であっても子供心を持って熱中して何かをしていたら、アソビなのかなと思っています。
以下はCEOのnote記事からの引用ですが、自分のイメージするアソビにかなり近いです。

小さいときに机の上に人形を並べて遊んだ記憶はないですか?僕はよくポケモンの人形を並べて遊んでいました。

人形が並ぶその場所はなんの変哲もない机の上ですが、小さいときの自分の目の前には壮大な遊び場が広がっていました。

かくれんぼ協会

今回のハッカソンでは、日本かくれんぼ協会の高山 勝さまの講演セッションがございました。かくれんぼの世界大会に日本代表として出場されている方であり、同時に、街おこしイベント等で街全体を使ったかくれんぼを企画されたりしている方でもあります。

僕の文章では、講演から伝わるかくれんぼの緊張感・面白さは伝えきれないところがあり、(あとそもそも勝手に書いて良いのか怪しいので)詳細は書けないのですが、かくれんぼのプロから見た遊びの醍醐味を瑞々しく、かつ、クリアに伝えていただきました。


中でも、一番自分にとって印象に残ったのは、1人のイベント参加者がベンチの下で横になって隠れている姿でした。

自分の親ぐらいの年齢の方が、ベンチの下に汚れも周囲も気にせず隠れている姿が、「ああ、大人になってもかくれんぼって楽しいんだな」と思わせてくれました。そして、「あの形状のベンチなら確かに隠れるのに使えそうだな」と日常なら見逃してしまう発見が確かに感じられました。
それらを通じ、大人でもキッカケと場さえあればアソぶことができるという風に思えました。固く言うと、没入するだけの楽しさが提供されれば、普段とは違うまなざしで日常を見ることができる。そんな風に思った次第です。

以上を踏まえ、今回のハッカソンでは以下の3つを実現できるようなものを作りたいと結論づけました。

・子供心を呼び起こすこと
・そのためのキッカケとなるワクワクを提供すること
・結果的に 日常の風景が普段とは異なる様に見えること

なお2つ目のポチに「キッカケ」という表現を入れているのは、前章との整合です。あくまで「そっと椅子を置く」ようなものを作りたかったため、ずっと没入する「場」ではなく「キッカケ」と表現しています。



最終コンセプトと過程

さて、ここまではチームでの議論の前に自分自身が考えていたことになります。
当然ですが、メンバーごとに違う考え方・見え方があり、色んな想いが刺激し合い組み合わり、初めてコンセプトが出来上がります。

とはいえ、自分は自分視点の話しか出来ないので、その視点でどのようにコンセプトが固まったかを話したいと思います。

最終的なコンセプト

過程の前に、最終的なコンセプトや体験の流れを先に説明した方が分かりやすいと思うので、そちらから説明します。

コンセプト
~子どものころ見ていた、あのワクワクする世界をもう一度~
 大人になると、公園や周囲にある色んなものを何も考えずに素通りしているのではないでしょうか?
 子供の頃は、立ち止まって、体勢も変えて、草むらの中や木の陰、場合によってはベンチの下だって、虫や四葉のクローバーや、何だって探していたし、世界は驚きと発見で満ち溢れていました。でも大人になると意外とそういうことをしなくなっています。

 そんな私たちに向けて、妖精の「Hina」ちゃんを作りました。

 「Hina」ちゃんは無邪気な子ども心で見つけられる妖精です。ここに居るかも?と思ったら、アプリをかざしスキャンすると、「Hina」ちゃんが現れます。そしてその「Hina」ちゃんは、スキャンした時の周囲の環境に合わせて姿が変わります。
 例えば公園の水場では浮き輪Hina・草原では緑Hinaが生まれます。オレンジの遊具ならオレンジ色のHinaが生まれます。レアなHinaを見つけるためのヒントもあり、例えばベンチを探すというヒントに従えば、レアなHinaが見つかるゲーミフィケーションも取り入れています。

このアプリの狙いは、まず単純に可愛いひよこのHinaを集めるのが楽しいということ。それに加えて、あれ?ここにアプリをかざしたらどんなHinaが現れるのだろう?というキッカケを与えることで、公園の魅力を存分に感じてもらうということです。

具体的には、「アソビ」の持つ子供心の中でも、探索と発見に注目しています。その価値をARやAIを通じて最大化することを狙っています。
コンセプトの中に「周囲の環境を認識して」とありますが、チームのエンジニアの進言/ニーズもあり、ここにはOpen AI社のCLIPモデルが使われています。カメラ情報から、周囲の環境情報を解釈しているというものです。
少し大袈裟な言い回しにはなりますが、AIモデルと人間を結ぶXRインタフェースの1つの形として、体験設計の新規性にも挑戦していると考えています。

では改めて、上記のコンセプトができるまでの過程を、私視点で記載させていただきます。



フィールドワークと初期アイデア

チームメンバーで実際に新宿中央公園に行き、その後に普段どういう風に公園を使うかを話しました。
色んな観点があったのですが、自分の中に存在しなかった体験は、「夫婦で朝に散歩に行き、スタバのコーヒー片手に、空を眺めながらぼーっと会話をする」というものでした。

「公園としてデザインがされた空間」ならではの魅力的な体験だと思ったし、環境と相手が異なる場では、自分にも経験がある体験でした。この体験に対して、前章までで考えたことを含めて初期アイデアを考えました。具体的には、会話の更なるキッカケになる・日常の風景の見え方が変わるの2つを訴求した形になります。

念のためですが、他の着想からも複数のアイデアを叩き台として作っており、そのうちの1つです。

気になるコレクション

概要:
 同じものを見て、同じものについて喋る。日常も忘れて、ただ目の前の風景について喋る。その楽しさをサポートする。コレクションというゲーミフィケーション要素を付けて、複数回利用も促す

使い方の流れ:
 日常でのんびりと喋っている時、ふと気になるものを見つけたが、相手にそれが伝わらない。そういう瞬間にスマホをかざす
 かざして、自分が見つけた”モノ”をタップする
 すると、タップした”モノ”に合わせた生き物が、あなたに写真を運んでくれる。白い雲をタップしたら、白い鳩が運んでくれる
 生き物はいろんな種類が居て、コレクションできる。会話を楽しみながら、新宿中央公園で全ての生き物をコンプリートする

あそこの入道雲が大きい、という会話が伝わらない時に入道雲をタップする。
相手に意図が伝わるし、コレクションとして、白い鳩が手に入る

まあ叩き台なんでね!沢山あるツッコミどころは我慢して頂きたいのですが!
夫婦の会話という、遊びとは関係はないが公園の魅力ある風景の1つから、「何かを見つけてARとして顕現させる楽しさ」という最終コンセプトの一角が生まれた、という経緯になります。

途中経過:動物ハント

上記の「気になるコレクション」を踏まえ、もう1人のプランナーのたかさんが動物ハントという形でコンセプトをまとめて頂きました。ほぼ今の「Hinaあつめ」に近いものになっており、違うのは色んな「Hina(=ひよこの妖精)」を集めるのではなく、色んな動物を集める、だったくらいです。

自分自身「気になるコレクション」には、子供心やワクワクという要素が欠けていると感じていたのですが、もう一人のプランナーたかさんの子供の頃の原体験を加えて、まとめて頂きました。

子供の遊びの可能性を引き出しているのは、「何かに見立てる自由な想像力」ではないか? その場にあるモノや状況などの偶発性を存分に利用して、独自のルールを作ったり。
また、山を駆け回ったり虫を捕まえたり、虫を探すために穴を掘ったり石の裏をめくったり、そういう楽しさが子供の頃はあったはず。自然というもの自体に、子供の頃はとても価値があったはずなので、その自然の楽しさを思い出すような体験を加えたい。
新宿中央公園は、都会のど真ん中なのに、子供の想像力を引き出す「たくさんの自然」がある。だけど、子供にとって、その魅力が活用しきれず、眠ったままなんじゃないか?
子供の頃のワクワクするような体験をもう一度思い出す。そのために、実際には見えない動物が、アプリを通じて見えるし、集められる。そういうワクワクする体験を作りたい。

動物ハントの初期コンセプト資料より一部改変

また、誰が言ったかは覚えていませんが、せっかくの公園なのだから、ベンチの下のような人工物の探索も加えようとなったのを覚えています。これは、かくれんぼ協会の高山さまの講演から着想されています。

この動物ハントをベースに、先述の通り、XRやAIに関するエンジニアの技術知見やデザイナーのひよこのデザインが加わり、Hinaあつめは出来上がりました。


終わりに

ここまで読んでいただきありがとうございます。コンセプトが出来上がる過程と、自分が普段考えていることをダラダラと語らせて頂きました。

振り返って見ると、動物ハントならびにHinaあつめは、このハッカソンでこのメンバーでなければ出なかったアイデアであり、いろんな偶然の重なりによって出来上がったアイデアだと思います。改めてハッカソンの運営の方々やチームメンバーに感謝を申し上げます。


また、動物ハントから「Hina」というアイデアに変わった過程や、具体の開発における学び・反省は、チームメイトのたかさんがまとめてくれていますので、以下のnote記事をご覧いただければ幸いです。

コンセプトが出来るまでを散々語っておきながらですが、実際に作ってみると、また違う視点が出るよね、というのがよく伝わるかと思います!

改めてではありますが、自分の考えをまとめただけの記事を最後まで読んでいただきありがとうございます。何か少しでも皆様の刺激になる点があれば幸いです。



宣伝・告知

そしてなんと、、、
本アプリ「Hinaあつめ」ですが、10/13日(金)〜10/15日(日)にかけ、スマートシティフェスタ2023@東京にて、水の広場のNEUU様のブースで展示されています!

また少し先になりますが、11/4(土)よりミライPARK@新宿中央公園にも追加される予定です。
こちらは「Hinaあつめ」のみでなく、withARハッカソンの他作品(どれも面白い!)も体験可能ですので、ぜひぜひご体験いただけると嬉しいです!

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