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NYはなぜ世界中の人を惹きつけるのか


ニューヨークが持つ不思議な魅力

前回の自己紹介の記事では、大学1年生の時に訪れたニューヨークの街に魅了され、その10年後に当時日本で働いていたあずさ監査法人を退職して、ニューヨークへ仕事もないまま語学留学の形で移住したことを書きました。

イーストリバーを渡ったロングアイランドシティから望むマンハッタン

学生ビザ取得のために虎ノ門の米国大使館へ行った時のことは14年経った今でも忘れません。運悪くあたってしまった怖い面接官に、「良い会社に勤めていて、英語もできているのに(簡単な会話ができただけで、全然ネイティブのように話せたわけではないのですが、面接官の質問に受け答えができただけでそのように思ったようです)、なぜ今さらその年でニューヨークへ英語の勉強に行く必要があるのか?」と詰問され、2度も面接に落とされてしまいました。この面接官だけでなく、私のニューヨーク行きの話を聞いた多くの人たちが「なぜニューヨークに?」と思ったでしょうし、ニューヨークへ来てからも、大袈裟でなく何百回と、ニューヨークのどこがそんなに良いのか、と日本人アメリカ人問わず聞かれました。

私は5日ほどの弾丸旅行でニューヨークの街に惹きつけられたのですが、自分の意志とは関係なく、仕事や家族の駐在に帯同など、何らかの理由でニューヨークで暮らすようになり、ニューヨークの街が好きになれずにいる方々に出会ったことも多々あります。

ニューヨークに来たことがある人はすぐに気づくかもしれませんが、ニューヨークはテレビドラマや映画、ガイドブックで見るほどキラキラした街ではありません。マンハッタンの一等地でも、歩道にはゴミが山積みになっている場所もたくさんあり、ホームレスやネズミも多く、信号無視をして猛スピードで走っているデリバリーの自転車や歩行者を無視して暴走する車もいます。そして物価は世界一を争うほどの高さ。無条件に住みやすい都市、と言えないことは確かです。

パンデミックの間に完成した人工島のリトルアイランドと
その向こうに立ち並ぶウォール街の高層ビル

では、ニューヨークの何が世界中の人を惹きつけているのでしょうか。主観的な感情を排除してニューヨークという街を見たとき、その理由は3つあるのではないかと思います。

世界トップクラスの人が集まっている街、ニューヨーク

金融、ファッション、芸術、食と、ニューヨークはさまざまな分野で世界をリードしています。ニューヨークの街に来れば世界最高峰のものに触れられるからと、世界中の優秀な人たちがこの街を目指してやって来ます。そして、優秀な人たちの間で良い刺激が生まれ、さらにレベルの高いものが作られていく。それがまた才能持った人を呼ぶ。そんな好循環が起こっている街が、ニューヨークなのです。

私は渡米直後に通っていた語学学校を通じたlanguage exchangeというプログラムで、日本語を勉強しているルーマニア人の男性と知り合いました。その方は高校を卒業してすぐにコロンビア大学に留学生としてやってきて、アメリカ生活はまだ数年なのに、母国語でない英語は、発音を含めて完璧でした。language exchangeなので、英語を教えてもらう代わりに私が日本語を教えるはずでしたが、驚くことに、既に日本語も流暢でした。それだけでも驚くべきことですが、天才的に頭が良く、なんと高校生の時に2度も化学の世界オリンピックにルーマニア代表として出場し、銀メダルも獲得していたのです。

出会ったのは私がニューヨークへ来てまだ2ヶ月の頃。自分の今までの価値観を超えるようなすごい人に突然出会うことができるのがニューヨークの不思議な力と感じた瞬間で、出会った時の衝撃は今でも忘れることができません。

日本の26倍の国土のアメリカには、ニューヨーク以外にも大都市は多い、と思われる方もいるかもしれません。確かに、ITの世界は西のサンノゼ。いわゆるシリコンバレーが中心です。しかし、ニューヨークにもITベンチャーは多くありますし、それ以外の分野では、国内の他の都市を圧倒的に上回っているのがニューヨークなのです。そんなことから、世界のあちこちにいる優秀な人材で、自分の実力を試すため、より切磋琢磨できる環境でキャリアを積むために、人生のどこかのタイミングでニューヨークへやってくる人は多いと思います。

チャンスを生かしやすい街、ニューヨーク

天才的なルーマニア人の方とは、週に1度は会ってlanguage exchangeを続けていましたが、その方が社会人になったり、私も仕事を始めたりしたタイミングで自然な形でlanguage exchangeは終わり、今ではたまにご飯に行く良き友人となりました。これはただの一例に過ぎませんが、この14年の間に、ニューヨークにいたからこそ体験できたことは数多くあります。

ニューヨークは電車で手軽に移動できる全米の中でも数少ない都市です。国土の広いアメリカでは都心部とはいえ街が広すぎて、たとえばロスアンゼルスのように車がないとどうにもならない場所が多いのです。いろいろなものが凝縮しているコンパクトなマンハッタンだからこそ、あちこちでさまざまなイベントが開かれていて、eventbriteのようなウェブサイトでは、テーマ別、日時別に自分が興味があるイベントを見つけることができます。

プロスペクトパークの野草ツアー。写真に写っているのは講師の先生。
公園内で見られる季節の野草を紹介してくれました。

そうしたイベントで新たな交友関係が生まれたり、ビジネスのつながりができたり、面白いアイデアが生まれたりするのもニューヨークならではかもしれません。

パキスタンからアメリカへ移住した方が作ったニューヨークに住むパキスタン人移民をテーマとしたコメディー映画、"Americanish"視聴会(マイクを持っている女性が監督です)

物価水準がはるかに違う国から夢を追い求めて一念発起してニューヨークへやって来る人たちも多くいます。以前行った中国人が経営する有名な鍼治療院で素晴らしいマッサージをしてくれた人はチベットから亡命したと話していてびっくりしたことがあります。難民ビザという特別なビザでアメリカへやって来たそうです。また、イエローキャブの運転手もほぼ100%移民です。街中にある家族経営のデリもほとんどがどこかの代で母国を離れてやって来た人たちが開いています。

自国にいても先が見えない状況をなんとか変えようと、大きなリスクを背負って、言葉も文化も違うアメリカへとやって来た人たち、そしてこれからやって来ようとする人たちは後を絶ちません。努力していればチャンスは必ずやって来るし、夢を手助けしてくれる人が現れるのが、ニューヨークなのです。

ニューヨークの象徴とも言えるイエローキャブ

多様性がある街、ニューヨーク

このように、それぞれの夢や目的を持って、世界中から様々なバックグラウンドの人たちが集まり、ひしめき合っているニューヨークの街は、まさに人種のるつぼであり、サラダボウル。中学生の地理の時間に、ニューヨークという街の特徴として習った言葉の意味を身をもって体感したのは、旅行で3度訪れた時以上に、この街で暮らし始めてからでした。

マンハッタンのあちこちを歩くことは私の楽しみの一つです。
今日見かけた路地裏。新しいビルと古くからのビルが混在しているのが
なんともニューヨークらしい光景です。

ニューヨーク市では、数百もの言語が話されていると言われています。日本ではバイリンガルというと言語能力が高い人、というように思う人も多いかもしれませんが、ニューヨークではバイリンガルも珍しくありません。両親の世代に移民の形でニューヨークへわたってきた家族も多く、その子供世代は英語に加えて両親の出身国の言語に堪能です。

前の写真から1ブロック北はチャイナタウンの目抜き通り。一気に雰囲気が変わりました。
チャイナタウンではお店の看板は中国語と英語の併記。
写真左のマックの看板も中国語になっています。

見た目も育った環境も信じる宗教も価値観や生活様式も異なる人たちが小さなこの街にひしめいているのはなんとも不思議です。世界中色々な国を旅しましたが、ニューヨークは、アメリカ国内の一つの都市、という枠を超えて、「ニューヨーク」というひとつの国のような場所、と言っても過言でないほどに、私はニューヨークは世界を見渡してもユニークな場所だと感じています。

渡米当初に通った語学学校の最初のクラスメイトは、ウクライナ人、カザフスタン人、トルコ人、モンゴル人、韓国人、中国人、そして唯一の日本人として私。就職してからは、エクアドル人、パキスタン人、セルビア人、フィリピン人など、様々な国の方々と知り合ったり、働いたりする機会に恵まれましたが、こんなにも多くの国の人と出会えたのは、ニューヨークであるからこそです。

マンハッタンを少し離れて電車で1時間ぐらい行くと、中南米の移民が集まっているエリア、イタリア人が多い地域、ロシア人街など、アメリカにいるとは思えないような場所もあります。そして、そうした場所では、その国の本場の料理を楽しむことができます。

一つの都市で、ここまで様々な国の人たちが入り乱れて暮らしているからこそ、雑然とした印象を持たれる人も多いかもしれませんが、この多様性がニューヨークという街をより面白くしていることも事実です。

最近再開発が進み、近代的ビルが増えている中で、古き良き時代のニューヨークが感じられる貴重な建物。この建物はかのアンディー・ウォーホールが所有し、バスキアに住居兼スタジオとして貸していたことでも知られています。1階奥には日本人が経営する隠れ屋レストランBohemianが長年入居していましたが、今年に入って閉店してしまったようです。地上2階地下1階の建物ごと現在不動産市場に出ているそうですが、なんと月の家賃は$60K!(57 Great Jones street)

(カバーページの写真は、ブライアントパークで行われていたヨガのイベントの様子)


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須能玲奈 (Rena Suno)
2009年に単身NYへ渡り、語学学校から就労ビザ、グリーンカードを取得したアメリカでのサバイバル体験や米国人と上手に働くためのヒントをまとめた「ニューヨークで学んだ人生の拓き方 」がキンドルから発売中です。渡米したい方、日本で欧米企業で働いている方に読んでいただけたら嬉しいです。