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狭い車の中で揺られた後の、滑走路を渡る風は涼しく気持ちが好い。 啓二は風子を飛行場端…
セスナは乾いて土埃を巻き上げる関東平野の畑の上を、大きく旋回しながら高度を上げる。 …
退院し実家で療養をしながらも、歩く練習は緩慢になる。命があっても生きる気力を失ってしま…
「脱出した飛行兵がいる! 気を付けろ。巻き込むな」 ムスタングから電波が放たれた。 「…
気持ちは焦るが規則どおりに飛行機が滑走路に向かって列を作る。滑走路の右に左に、風を交わ…
アメリカによるB-29の本土空襲は、当初高高度からのレーダーを使った精密爆撃を軍事施設…
啓二が畑中商店を訪れると、店はいつものように『心太』の幟をはためかせていた。暗い店に入ると誰もいない。棚には何もない。 蝉の声が凍りつくほど店内はひんやりとしていた。 啓二は暗い店内で奥の座敷を見つめたまま黙って佇んでしまった。声を掛ける勇気が出てこなかった。風子に会うのが気まずく感じていたからだった。 啓二は誰も出てこないことに安心して、回れ右をして店を出ようとした。 「啓ちゃん」 店を出たところで、背中から呼び止める風子の声がした。すでに涙声になって