見出し画像

循環型経済から生まれた「循環型ファッション」で、衣服の廃棄ゼロを目指す

循環型経済(サーキュラーエコノミー)とは?

リニアエコノミーとサーキュラーエコノミー
以前までは、消費された製品が再利用されることが少なく、「生産→消費→廃棄」という直線的な流れの経済活動(リニアエコノミー;Linear Economy)が一般的でした。

これと対比されるのが、循環型経済(サーキュラーエコノミー;Circular Economy)です。一度消費した商品を再利用などして、まるで円を描くように循環する経済活動を指します。

従来の3Rとの違い
オランダ政府は、サーキュラーエコノミーをリニアエコノミーだけでなく、リサイクルを中心とする「リユースエコノミー;Reuse Economy」とも明確に区別しています。

画像1

(Government of the Netherlands「From a linear to a circular economy」より)

上の図を見てください。従来の3R(リユース・リデュース・リサイクル)では、製品の使用期間が長くなることで廃棄物の削減は可能ですが、完全になくすまでには至りません。一方サーキュラーエコノミーでは、そもそもの原材料調達・製品デザインの段階から回収・資源の再利用を前提としており、廃棄物ゼロを目指しています。

また、サーキュラーエコノミーを推進するイギリスのエレン・マッカーサー財団も、サーキュラーエコノミーについて以下の3原則を示しています。この3原則からも、サーキュラーエコノミーでは廃棄物を出さないという姿勢が読み取れます。

1.自然のシステムを再生(Regenerate natural systems)
2.製品と原材料を捨てずに使い続ける(Keep products and materials in use)
3.ゴミ・汚染を出さない設計(Design out waste and pollution)

画像2

(Ellen Macarthur Foundation「WHAT IS THE CIRCULAR ECONOMY?」より)

(IDEAS FOR GOOD「サーキュラーエコノミー(循環型経済)とは・意味」より)

循環型ファッションとは?

循環型経済の一部として、大きく取り上げられているのが「循環型ファッション」です。

ファッションビジネスに関するコンサルタント企業GREEN STRATEGYによると、循環型ファッションの特徴は下記のように分類できます。

1.生産過程での廃棄量を削減し、マテリアルリサイクルが可能に設計されていること
2.素材の原料が非毒性で安全に生分解し、堆肥化されること
3.エネルギーを効率的かつ安全に使用し、生産および流通可能であること
4.衣服のレンタルやデッドストックの二次流通により、ユーザーの使用期間が延長されること

つまり、循環型経済と同様に、製品をつくる前提に素材や製造方法、流通方法の工夫により廃棄を出さないことが大きな特徴です。

(FINE MAGAZINE「ファッション業界のゲームチェンジとなるか。欧州で進展する“循環型ファッション”」より)

なぜ循環型ファッションが注目されるのか?

循環型経済の中で、ファッション産業が特に注目されるのはなぜなのでしょうか。それはファッション産業が、製造方法や使用方法に無駄が多く、経済や環境に良くない影響を与えている産業の一つだからです。

以下、エレン・マッカーサー財団のレポート「A new textiles economy: Redesigning fashion’s future」で述べられている一部です。

・1秒ごとにゴミ収集車1台分の布地が埋め立て・焼却処分されている。
・着用やリサイクルをされないために、推定5,000億米ドルに相当する衣服が毎年無駄になっている。
・2050年までにファッション業界は、世界の炭素収支の4分の1を使い果たすと予想される。
・衣服を洗うと、毎年50万トンのプラスチックマイクロファイバーが海に放出される(500億本以上のペットボトルに相当)。

画像3

(エレン・マッカーサー財団「A new textiles economy: Redesigning fashion’s future」より)

このような事実を踏まえ海外では、エレン・マッカーサー財団を始めさまざまな組織や国が、循環型ファッションに対する取り組みをおこなっています。

循環型ファッションに対する、世界のさまざまな動き

新しいテキスタイル経済をつくる「Make Fashion Circular」
エレン・マッカーサー財団は、ファッション産業が経済や環境に多大な負荷を与えている状況を改善すべく、「Make Fashion Circular」を立ち上げました。もともとは2017年5月にCircular Fibres Initiativeとして始まり、翌年に2番目のフェーズとして今の形になりました。生き残るためだけでなく繁栄するために、ファッション業界はその運営モデルを根本的に再設計する必要があるとしています。LeeやGAP、H&M、トミー・ヒルフィガーなどの16ブランドが参画し、ジーンズの製造過程を循環型にする取り組みなどをおこなっています。

(Ellen Macarthur Foundation「Make fashion circular」より)

サーキュラーエコノミー促進を目指す「Connect Fashion」
2019年6月にアメリカで、ファッションテクノロジー企業EONを中心に、グローバル・イニシアチブ「Connect Fashion」が立ち上げられました。設立の目的は「ファッション業界におけるサーキュラーエコノミーの実現を促進させること」。H&Mグループやターゲット、PVHコープ、マイクロソフト、クローズド・ループ・パートナーズなど多数の企業や団体が参加しています。Connect Fashionでは、「CircularID」と呼ばれる埋め込みタグを利用して、服のライフサイクルのどの段階でも商品情報を追跡できるシステムを提案しています。

(IDEAS FOR GOOD「マイクロチップで服を追跡。ファッション業界の完全なサーキュラーエコノミーを実現する『Circular ID』」より)

画像4

循環型ファッションに取り組む企業・ブランド事例

ステラ・マッカートニー
「STELLA McCARTNEY(ステラ・マッカートニー)」は、循環型ファッションに取り組む代表ブランドです。バッグやファラベラゴーの素材は、ECONYL®糸という、使用済みナイロンを未使用ナイロンと同等の品質に生まれ変わらせたものを使用しています。また、オーガニックコットンの使用や、繊維の元の調達先となる森林までも、持続可能に管理されているところしか選ばないような取り組みをしています。

ベサニー・ウィリアムズ
ステラ・マッカートニーに次ぐデザイナーブランドとして注目されているのが、「Bethany Williams(ベサニー・ウィリアムズ)」。リサイクル業者から買い付けたテント布の廃棄素材や、環境負荷の低いオーガニックテキスタイルを使用してデザインしたものを製造しています。また、社会性にも配慮した生産を重要視し、薬物リハビリテーションやホームレスシェルターの人々などと協働し製作を進めることで、雇用を生み出すことへも貢献しています。

スパイバー
日本発のスタートアップ「Spiber(スパイバー)」は、ブリュード・プロテインという環境に優しい繊維にもなれる素材を開発しました。ブリュード・プロテインとは植物由来のバイオマスを主な原料とし、スパイダー独自の微生物発酵プロセスでつくられるタンパク質素材です。フィラメント糸やカシミヤ、紡績糸、ファー、レザーなど多様に姿を変えることができます。また、主原料を石油に頼らないため、海洋生態系を壊すマイクロプラスチックも生み出しません。2021年の量産開始に向け、準備を進めています。

海外で先進する循環型ファッション、今後日本でも?

特に海外では、循環型経済および循環型ファッションに対する取り組みが積極的に見られます。たとえばオランダでは「2050年までに100%サーキュラーエコノミーを実現する」という目標を掲げています。また、フランスでは「2030年には売れ残った服の廃棄を全面禁止する」と取り決めるなど、一国単位でも循環型ファッションに取り組んでいるようです。今後日本でも、より一層取り組みが強まることが期待されます。