CSV(=共有価値の創造)とアパレル業界 – ESG投資だけが目的ではない、求められるブランドとしてのあり方
理想的な企業のあり方というのは、時代とともに変わっています。
従来は企業が利益を追い求める中で、環境や社会を害する傾向も少なくありませんでしたが、現在はそういった企業は置いていかれてしまいます。目まぐるしく変化する環境や社会に対して適切な行動がとれる企業こそ、「価値がある」と認知されるようになりました。
そのような企業価値をはかる基準の一つが「CSV」です。さらに「ESG投資」や「CSR」、「SDGs」も関連ワードとして重要です。
今回はこれらの定義を知るとともに、CSVの重要性の理解を深めるために書きました。
企業のCSVの取り組みが、ESGの観点で評価されている
まず、CSVとはどのような意味なのでしょうか。
CSV……Creating Shared Value(=共有価値の創造)の略。企業が社会問題などに積極的に取り組み、社会に対して価値を創造することで、企業の経済的な価値もともに創造されることを意味します。
企業は利益だけを求めて発展するのではなく、社会の価値も生みながら発展することが求められるようになり、CSVが提唱されるようになりました。そのような企業の経営のあり方に対し、投資家は「ESG」という新しい基準で、企業を評価するようになったのです。
ESG投資……投資家が、ESG(Environment=環境、Social=社会、Governance=企業統治)に配慮している企業を考慮して投資すること。「ESGに配慮する企業は長期的に企業価値が高まる」という考え方に基づいています。
企業評価では「SDGs」も重要ワードに
画像:国際連合広報センター『SDGs』配布ロゴ
2015年に国連サミットで採択された世界の課題を解決する17の開発目標として、SDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)が採択されました。
(関連note「SDGsとファッション – アパレル業界はどう関わるべきか?」)
このSDGsは、一般市民はもちろん、企業経営の指針となりうる国際的な共通言語となります。そのため、ESG投資家が企業価値を評価する際、このSDGsへの取り組みを指標とする傾向が高まっているとも言われるようになりました。
CSVと混同される「CSR」とは
ここで、CSVとよく混同される「CSR」の意味も確認しましょう。
CSR……Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任。企業が社会課題の解決に取り組むことで、ステークホルダー(=企業の経済活動に関わる利害関係者。株主・経営者・従業員・顧客・取引先など)と良好な関係を築くことを意味します。
CSRとCSVはどちらも社会課題の解決を目指す活動ですが、「事業との関連性」に違いがあります。CSRは企業の事業とは関係ないボランティア活動などでも当てはまるのに対し、CSVは企業の事業そのものでの社会課題の解決を目指します。
社会貢献・環境保全を事業と結びつけ、経済的価値も創造できるCSVは、あらゆるステークホルダーにとって理想的な企業のあり方のように思えます。
CSVに取り組む大手企業の事例
CSVのリーディングカンパニー『ネスレ』
創業時、『ネスレ』が開発した高栄養価の乳幼児用食品は、ヨーロッパで栄養不足の多くの乳幼児を救いました。現在に至るまで社会課題をビジネス チャンスにして発展しています。
日本初CSVの本部設立で注目を集めた『キリン』
近年、話題になったのは『キリン』初のCSV商品「氷結」の和梨味。東日本大震災で風評被害に 苦しんだ福島産の梨を使い、1本売り上げるごとに1円が東北農業の震災復興支援策に活用されました。
アパレル・ファッション業界のCSV事例『パタゴニア』
アパレル業界でも先進的なCSVの取り組みをおこなう企業は多く、その中心にあるのがアウトドア・スポーツウエアを販売する『パタゴニア』です。(この内容は一部、以前のnote「アパレルのサスティナビリティとエシカル消費」にも載せました。)
『20年前、我々は、財政的に大きなリスクを取ってコットンの全量をオーガニックに切り替えた。だが、そう決断したからこそ、事業についても環境についても考えが大きく変わった。環境問題は解決がとても難しいこともわかったし、それでもなんとかしようとすれば金銭的に報われるということも分かった』
パタゴニア創業者:イヴォン・シュイナード著書『社員をサーフィンに行かせよう – パタゴニア創業者の経営論』より抜粋(画像はイメージです)
『パタゴニア』は環境危機の解決に資する事業や、ファッションの持続可能性に常に力を注いできました。近年話題になったのは2016年の「ブラックフライデーの売上を全額寄付する」という大胆なプロジェクトです。
『パタゴニア』のサスティナビリティに対する先進的な呼びかけは社会に大きなインパクトを与えました。それが売上やファンの獲得に繋がり、より強いブランドになるのです。ソーシャルインパクト(=企業が、CSVを通じて社会におよぼす影響力)を出しつづけることが使命と考える『パタゴニア』。「ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する」を経営理念とし、CSVへ積極的に取り組むその姿勢は多くの企業にも影響を与えています。
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