一発屋芸人の不本意な日常(少しご紹介②)
筆者の職業は漫才師。
コンビ名を髭男爵という。
20年ほどの芸歴の真ん中あたり、2008年に一度そこそこ“売れた”ものの現状は芳しくなく、世間様からは「一発屋」などと呼ばれて久しい。
一発屋のレッテルを貼られた芸人には、それ相応の仕事しか舞い込んでこない。
それは、求人情報誌のページを何枚捲っても見当たらないカテゴリーのオファー。
もはや、「一発屋仕事」とでも命名するしかない案件である。
テレビ番組の旬な食材を紹介する企画では、「旬じゃない人達」という名目の下集められ、「お笑い芸人のギャグといえば?」とのアンケート企画の際は、街頭インタビューで行き交う人達の口から自分の持ちギャグが出てくるまでひたすらロケバスで待機。
その日の帰宅は深夜に及んだ。
「一発当てた」ということに引っ掛けてだろう、競艇場や競輪場、パチンコ店のイベントに招かれることも少なくない。
“茶柱”や“四葉のクローバー”と肩を並べ縁起物に仲間入りを果たしたのは光栄だが、いささか複雑な心境なのは否めない。
一発屋は、スケジュールに余裕がある。
平たく言えば、暇なので、急な依頼にも対応可能。
当たり前だが、テレビ番組のキャスティング会議では、売れっ子や「今旬な人」優先で名前が挙がっていく。
趣味や特技など、よほど企画の趣旨と合致している場合を除いて、一発屋の優先順位は遥か先。
基本的に番組スタッフの脳味噌には端からノミネートされていない。
とは言え、売れっ子というのは多忙である。
彼らのスケジュール帳は、数カ月先まで真っ黒。
「芸人の○○は?」
「駄目です!仕事入ってるそうです!」
「じゃあ、△△は!?」
「あー・・・・・裏番組に出てます!」
限られた条件の中、最後の最後まで「より売れっ子の人気者を!」と粘ってみるも、なかなか折り合わない。
しかし、諸々の締め切りは刻一刻と迫ってくる。
「んー……もうコイツらでいーか……」
ここで初めて、僕達一発屋にお鉢が回ってくるというわけ。
結果、オファーはいつも直前である。
「明日いけますか?」
といった前日の打診は勿論、
「今日の夕方なんですけど、何か私用入れてます?」
などと当日になってマナージャーからの電話を受けることも珍しくない。
なにぶん急なこと。
家族や友人との予定を入れている場合もある。
無邪気に、
「仕事にありつけた―!やった―!!」
と諸手を挙げて喜ぶ気にはなれないというのが正直なところだが、“マラドーナの伝説の5人抜き”顔負けの華麗なドリブルで数々の売れっ子をかわしにかわし、僕の元へと辿り着いた仕事である。
ありがたい。
現場に赴き、用意された台本に目を通せば、よほどバタバタしていたのだろう、ページの各所に、“本命”の痕跡、つまりお名前が手直しされずに残されていることも。
(本当は、この人達と仕事するのを楽しみにしてたんやろなー……さぞ、がっかりしているんだろうなぁ……)
生意気な話で恐縮だが、どこか申し訳ない気持ちが先立ち、気が引ける。
勿論、そんな悠長なことを言っていられる立場ではない。
結局、与えられた役目を全うすべく頑張るだけなのだが、性格的につくづくこの世界に向いていないと思う。