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突然、夫が求めてきた夜

夫に抱かれなくなって、もうどれくらい経ったのだろう。

 数ヶ月? それとも半年?

最初のうちは寂しさと悔しさが入り混じった気持ちだった。
でも、いつしか私は夫の手が自分に触れないことに慣れてしまった。

夫の不倫を知ってしまった今となっては、彼がどこで誰と何をしていようが、私には関係のないことのように思えた。

 そう——そうだったはずなのに。

 その夜、突然、夫が私に触れてきた。

 「櫻子……」

 不意に呼ばれた名前に、私は驚いて振り向いた。

隣で寝ていたはずの夫が、こちらを見ている。

暗闇の中で彼の目が静かに光っていた。

 「……どうしたの?」

 夫の指が、私の頬を撫でる。驚いた。

こんなふうに触れられたのは、いつぶりだろう。

 「久しぶりに、抱きたい」

 息が詰まるような言葉だった。

 なぜ? どうして今さら?

 私の中で、混乱と疑念が渦巻く。

夫の指が頬から首筋へと滑る。
ゆっくりと、確かめるように。

まるで、私の体の感触を思い出すかのように。

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