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未翻訳本② 孤立主義:自国を世界から守ろうとするアメリカの努力の歴史

今回は、チャールズ・A・カプチャン(Charles A. Kupchan)の「孤立主義:世界から自らを守ろうとするアメリカの努力の歴史(原題: Isolationism: A History of America’s Efforts to Shield Itself from the Worldを取り上げる。カプチャンはジョージタウン大学の教授であり、外交政策の専門家であり、米国の対外戦略の歴史的変遷を研究している。私のPhDの推薦状を書いてくださった恩師でもある。
本書は、アメリカの孤立主義が一貫した歴史的潮流であることを示し、戦後の国際主義がむしろ例外的な時代であることを論じた重要な研究書である。

内容

序論では、アメリカの外交政策が常に国際主義的であったという通説に異議を唱え、むしろ孤立主義(Isolationism)がアメリカの本来の外交姿勢であったことを指摘する。続く第1部(3〜6章)では、建国期から19世紀末までのアメリカ外交を振り返り、ジョージ・ワシントンの「外国との永久的同盟を避けるべき」という助言やモンロー・ドクトリンによって、アメリカが如何にして大西洋と太平洋という自然の要塞を利用し、欧州の戦争に巻き込まれないようにしてきたかを示す。

第2部(7〜11章)では、第一次世界大戦から第二次世界大戦までの転換期を扱う。1917年の第一次大戦への参戦は例外的な出来事であり、戦後の孤立主義の復活(上院による国際連盟拒否など)を示す。一方、1941年の真珠湾攻撃によってアメリカは強制的に国際政治の中心に引き込まれ、その後の冷戦時代にかけて国際主義を積極的に受け入れるようになった。

第3部(12〜14章)では、冷戦後のアメリカ外交を分析し、特に2000年代以降のアメリカの軍事介入とその結果を批判的に検討する。冷戦後、アメリカは世界の唯一の超大国として振る舞ったが、特にイラク戦争やアフガニスタン戦争などの長期的な軍事関与が国内の反発を招き、再び孤立主義的な傾向が強まっていることを指摘する。

トランプ政権の「アメリカ・ファースト」政策や、バイデン政権下での外交方針を分析し、今後のアメリカの外交戦略がどのように進むのかを考察する。

主張

まず、カプチャンは、アメリカの外交政策の大部分は孤立主義に基づいており、現在の国際主義は例外的な時代であると主張する。多くの人々は、アメリカが第二次世界大戦後に確立した国際秩序(国際連合、NATO、自由貿易体制など)が当然のものと考えがちだが、実際には、それ以前のアメリカは長らく欧州やアジアの紛争への関与を避けてきた。建国期のリーダーたちは、欧州の政治に巻き込まれることを強く警戒し、戦争回避と国内発展を最優先した。

次に、アメリカが戦後国際主義を受け入れたのは、1941年の真珠湾攻撃によって強制的に世界戦争に巻き込まれたためであり、自発的な選択ではなかったと論じる。冷戦期は、アメリカがソ連との対立のために国際主義を受け入れた時代であり、ソ連崩壊後は再び国内問題へと関心を向ける傾向が強まっていった。

さらに、カプチャンは冷戦後のアメリカの軍事的過剰介入が、結果として国内の孤立主義的な反発を生み出したことを指摘する。特に、イラク戦争やアフガニスタン戦争の長期化、そして2008年の金融危機以降、アメリカ国内では「世界の警察」としての役割に疑問を抱く声が強まり、トランプ政権の「アメリカ・ファースト」政策につながったと分析する。

最後に、著者は「完全な孤立主義」も「無制限の国際関与」も現実的ではないとし、選択的関与(Selective Engagement)の必要性を訴える。つまり、アメリカは軍事介入を減らしつつも、経済・外交・同盟関係を通じて世界と関与し続けるべきだという立場をとる。

なぜこの本は重要か?

カプチャンの本は、現代のアメリカ外交の変化を理解する上で極めて重要な視点を提供する。特に、第2次トランプ政権下で、米国民の対外関与への関心が低下している現状を考えると、今後アメリカがどのような外交路線を取るのかを分析する上で不可欠な一冊である。

  1. アメリカの外交戦略の歴史を体系的に学べる

    • 孤立主義と国際主義の間で揺れ動いてきたアメリカの歴史を整理し、その時々の選択がどのように形成されたのかを明らかにしている

    • 特に、冷戦後のアメリカの軍事的過剰介入の影響を理解できる。イラク戦争やアフガニスタン戦争が、アメリカ国内の孤立主義的な流れを加速させた背景を詳しく解説している。

  2. 日本の安全保障政策にも大きな影響を与えるテーマ

    • アメリカが今後も国際主義を続けるのか、それともより内向きになるのかは、日本の安全保障環境に直結する問題である。

    • もしアメリカが対外関与を縮小すれば、日本はより自立した防衛戦略を構築する必要がある。特に台湾有事や東アジアの防衛問題では、アメリカの関与の度合いが決定的な要因になる。


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