二太郎
早いもので、自分の中では長く感じた気がした今回の妊娠もついに来週で臨月に入る。1回目よりお腹は高速で大きくなり、骨盤痛や恥骨痛もひどい。娘のときはお腹が締まらないデザインの小洒落た服を好きなブランドで買ったりしていたけれど、1歳児に引っ張られ舐められどうせ汚れる、丸洗いできるネット通販のマタニティワンピースがいちばん活躍する。
年子は基本あらゆるものをそのまま使い続けることができるから楽だ。一部の女の子アイテムを除き、長女のおさがりで対応できる。だから息子のために新しく何かを買ったりは一切していない。それどころか、名前の候補すらまだまともに出揃っていない。妊婦健診はもう慣れたもんで、長女でお世話になった先生のところに一応定期的に通うものの、だいたいは世間話して終わる。体重増加も前回をベンチマークにちょっと増えすぎたかな~なんてつぶやいたら「そんなこと気にしてんの、まじめだね(笑)」と先生に笑われ、それもそうだな、となんか可笑しくなる。
じいじばあばたちも、私からの「順調です」が聞ければそれ以外は特に興味があるわけでもなさそうだし、前回はエコー写真を大事に妊娠の記録として残し、一週間ごとにお腹が大きくなる様子をおさめた写真を見てウキウキしていた夫も、今回は男子の象徴のエコー写真にケラケラと笑ったまま書斎のパソコン脇にそのエコー写真はポイと放置されている。もちろんお腹の変化の写真は撮っていない。
要は、第一子と第二子はここまで違うということだ。第二子が逞しくかつ自由に育つというのはすごくわかる気がする。もう親のスタンスが最初から「お姉ちゃん見ながら勝手に育ちなさい」だもんね。(笑)
長女のときは妊娠期間すべてが愛おしく幸せで、産後小さくなったお腹に少し寂しさを感じたりもして、育休あけて仕事復帰するまで、なんかふと夢の世界に来たような気持ちでいた。しかしそれをもう一年繰り返すとなると必然的にその夢心地は消え、初期のつわりや後期の腰痛を初めとした体のマイナートラブルやどうしても仕事に夢中になりきれない精神状態など、現実的な側面とじっくり向き合いながら、1歳児にデフォルト中腰で対応するトツキトオカということになる。電車乗ってもすました顔して譲っていただくの待つんじゃなくて、大急ぎで空いてる席探して座らせてねーどうもすいませんねーと笑顔で割り込んでいく図太さも身に着けた。こうやってオンナは強くなっていくのか、と実感。
あと一カ月となった妊娠期間。これが人生最後かもしれないし、マイナートラブルも全部ひっくるめて楽しもう、と優しい気持ちになったかと思えば、痛む腰をおさえゆっくり腰かけたその目の前で娘がぺぱおの水をぶちまけて発狂しそうになったり。どこの駅にも清潔で高性能なエレベーターがついている日本への郷愁を感じながら、きったない地下鉄の階段を一段一段あがる。一体ニューヨーク市民の税金はどこへ消えているんだ。
でもそんな愚痴もボヤキも全て、あと1カ月で息子に会えるという現実味の湧かない幸福とのバランスをとるために、意図的に自分で紡ぎだしているように思う。
なぜだか、若い時から私は「男性」という生き物がすごく好きだった。(男好きって意味じゃないよ♪)女よりよっぽど単純で、優しくて、わかりやすく、強さと弱さがいつも紙一重で、何歳になっても純粋さを失わないのに、とてつもない痩せ我慢もして見せる不思議な生き物だ。そんな生き物が、その逆の性を持つ私の身体から生まれてくるんだ、という事実が極めて興味深く、かつ現実味がない。娘のときは、なんだか同志が出てくる感じで、初産にもかかわらず、ま、私の娘なら大丈夫でしょ、みたいな感覚が強かったんだけど、今回はどうもその信用がない。(笑)直前でくるんと回って逆子になってみたり、出てくる途中でうっかり引っかかってみたり、出てきたあとも「アホか。」みたいなことをたくさんやらかしてくれそうで、母の心配は尽きない。(笑)男子に対する偏見だ、そのとおりだ。でもやっぱり、息子が問答無用で味わわせてくれるであろう喜怒哀楽が、今から楽しみであり怖くもある。そんなとき、娘のニヤッと笑う顔を見るとほっとする。君が長女で本当によかった。きっとこの先、たくさん娘に頼ってしまうんだろうなあ。ママは弟ばっかり!なんて言われないように、常に伝え続けていかなくちゃ、貴女がいちばんで、貴女は宝物で、常にお姉ちゃんでいなくていい、いつだって身を投げ出してパパとママに甘えていいんだよと。
一姫二太郎、日本社会でもてはやされるこの構図に期せずしてなったわけだけど、どんな兄弟姉妹構成だろうが、ママは貴方たち自身をよく見て、最大限に良いところを引き出し、SOSに気づけるように、たくさんたくさんおしゃべりをしていくつもりだよ。あと一カ月、娘は最後のひとりっ子期間を、息子はどんどん窮屈になっていくママのお腹の中を、存分に楽しんで、いっぱいいっぱい甘えるがいい。