あるヅカオタの8か月

これは2020年に下書きしたまま残していた備忘録です。
推しの柚香光ちゃんが退団発表され、あの頃のことをきちんと記録しておこうと公開します。


2020年3月頭

「こんな時期に宝塚なんか行くんじゃない!」

「やだ!れいちゃんのお披露目初日だもん!ぜったい行くもん!」

私は母と小学生の頃のような喧嘩をしていた。

ずっとずっと楽しみにしていた贔屓の柚香光ちゃんのトップお披露目公演をあと1週間後に控えていた。

数年ぶりに有給を取り、その日を指折り楽しみにしていたのだ。

行くなと言われても、はい分かりましたなんて言えるわけなかった。


しかし待ちに待った初日の2日前、お披露目公演は1週間後への延期が発表された。

久しぶりに取った有給は、たまった家事を片付ける時間に使われた。


翌週、さらに1週間後への延期が発表された。


公式からのお知らせは決まって水曜日だったので、水曜日が大嫌いになった。大事なお披露目公演の日数が1週間、また1週間削られていくくらいなら、いっそ公演全体延期してくれ!そう願った。


スカイステージで「はいからさんが通る」のパレードの衣装に身を包んだ花組のみんなからのメッセージが放送された。

大羽根を背負ったれいちゃん。本当は満員の観客の前に初めて姿を現すはずだったのに。でも一番辛いであろうれいちゃん華ちゃん、花組生たちはみんな変わらないキラキラした笑顔で、画面の向こうで待つファンを励ましてくれた。


3月30日 公式Instagramにれいちゃんと華ちゃんからのメッセージが公開された。可愛い二人を見て、張り詰めていた気持ちがふっと緩んだ。心の底から癒された。


2020年4月

緊急事態宣言が発令され、日常は一変した。1月にDANCE OLYMPIAでジェンヌさんたちとハイタッチしたり、あんなに楽しい日々があったのに。


そして、宝塚すべての公演の延期が発表された。


辛いときは「はいからさんが通る」の歌詞を思い出した。


「たとえ遠く離れても、心はすぐそばに…

風に乗せて伝えよう、変わらぬ気持ちを

季節が巡って再び芽吹く花のように

胸の奥、抱き締める

あなたへの思いを」


2020年5月

ゴールデンウイークも平日も関係なくとにかく働いた。たまたま忙しい時期で上司にも心配されたが、むしろありがたいくらいだった。この頃には少し世間も落ち着いてきて、明るい兆しが見えていた。


れいちゃんがオンワード樫山のCMでめざましテレビに出る!?と沸き立ったのもこの頃。「スマーイル!」とほほ笑む姿にどれだけ元気づけられたかしれない。


完全停止状態となった宝塚歌劇団は、それでもスカイステージやYouTubeでタカラジェンヌからのメッセージを毎日公開し、「おうちでタカラヅカ」と称して過去の上演作品を公開してくれた。画面越しのジェンヌたちは変わらない笑顔でファンを励ましてくれた。


5月25日 緊急事態宣言解除が発表された。


2020年6月

母と喧嘩して以来、2か月ぶりに実家へ帰った。


映画館が再開され、私はそれまでのうっ憤を晴らすように映画を見まくった。そして、この方式なら宝塚再開できるやん!と期待に胸膨らませた。


これからどんどん楽しいことしか起きないような、そんな夏の始まりだった。


6月15日 ついに翌7月からの公演再開が発表された。

もちろん再開第1作目は花組「はいからさんが通る」

柚香光ちゃんトップお披露目作品がようやく日の目を浴びるのだ!

この日から私はとにかくコンディションを整えることに全力を尽くした。実家には帰らず、映画館通いもやめた。手洗いも今まで以上に念入りに。

夢にまで見たれいちゃんのお披露目公演初日を迎えるために。


2020年7月

7月17日 ついに「はいからさんが通る」初日を迎えた。


母は私が初日を観劇すると知り、3月とは違って「良かったね、楽しんできてね」と背中を押してくれた。


1月以来の宝塚大劇場だった。6か月ぶりの宝塚大劇場のあの静けさを、私は一生忘れないだろう。

どことなく漂う緊張感。

みんな息をひそめて会話をしていた。

そして客席に入ると今まで経験したことないような静寂。布ずれの音すら盛大に響く。

声を出せばすぐにどこでだれが発したかわかるくらい。自分のドキドキした心臓の音が聞こえるくらい。

誰もが息を殺して、幕が上がるのを待っていた。


開演5分前、緞帳が上がる。

私は息をのんだ。

原作の名シーンのコマが色とりどりに並べられ、そこに浮き上がる「はいからさんが通る」の文字。

ポスター同様のその意匠は、ポップで可愛くて、一気にはいからさんの世界に引き込んでくれる。前年の11月にポスターが公開された時に胸躍らせたあの日の感情を思い出させてくれた。

ああ、始まるのだ・・・!

はじめに花組組長である高翔みずきさんからの公演再開へのアナウンスが流れた。落ち着いた優しい包み込むような声色。胸が高鳴る。

そして。そしてついにトップスター柚香光ちゃんの開演アナウンスが初めて宝塚大劇場に流れた。

「皆様にお会いできる日を心待ちにしておりました」

この言葉が放送されたのは初日・2日目の2日間だけだったそう。


幕が上がり、上手から可愛い華ちゃん紅緒とほのか蘭丸が飛び出してきた・・・!すでに胸がいっぱいだった。


るなさまお父様、しょうみちゃんばあや、下級生たち。

「それでは皆さま、行ってまいりまーす!」

満面の笑みで紅緒さんが自転車で駆け抜けていく。

ひとこ高屋敷が颯爽と現れた。

「時は大正七年、春、四月・・・」


初演と同じく背景に原作の少尉、紅緒、編集長、鬼島が映し出される。

そこにせり上がってくる影。

「・・・はいからさんの物語を!」

振り向いて見えたのは、あんなにも会いたかったひとの満面の笑みだった。


初演よりパワーアップしていたはいからさん。明るくて楽しくて、笑いあり涙あり。まさにこの情勢下に上演するにふさわしい、人々を元気づける作品だった。

少尉が歌う「たとえ遠く離れても」、しぃさまの言葉「また一からやりなおせばいいさ」、高屋敷の「こんな時だからこそ、言論の炎を消しちゃいけない」

客席には半分のお客さんしか入っていないけれど、そんなこと感じさせないくらいの拍手だった。

この場に来られなかった人たちの分までジェンヌさんに届け!そんな気持ちで拍手した。


SNSは日々はいからさんのレポで沸き立った。こんなにも楽しい日々は久しぶりだった。

同時に徐々に感染者数が増えていることがニュースを騒がせていた。


2020年8月

8月2日 初日から2週間は1日1公演だった宝塚は、前日から1日2公演となっていた。

東京では星組が公演再開となっていた。

私は久しぶりにマチソワする予定で、朝から電車に揺られながら大劇場へ向かっていた。

家を出るときにサンダルの紐が突然ちぎれた。

急いで別のサンダルに履き替えて駅へ向かったが、なんだか嫌な予感がした。


9時15分 宝塚LINEから「8月2日公演中止のお知らせ」というメッセージが届いた。

不思議と冷静だった。すぐに電車を降りて反対方面の電車に乗ってまっすぐ家へ帰った。

紐がちぎれたサンダルを捨てた。

窓をいっぱいに開けて布団を干した。


不安なことは考えたくなかった。ちょっとした体調不良だけどこんな時期だから大事をとって中止にしてくれたんだろう。きっと数日で再開するだろう。



しかしこの日から1か月もの間公演は中止となった。


正直この1か月の記憶があまりない。

連日テレビやネットニュースに、あの可愛いポスターが映し出されることに胸が痛んだ。

花組の可愛いあの子たちは大丈夫だろうか、泣いてはいないだろうか。そんなことばかり考えていた。私はこんなに元気づけられたのに、こういうとき彼女たちに何もしてあげられない自分の無力さを痛感した。


2020年9月

「はいからさんが通る」宝塚大劇場公演は、9月3日に再開となった。千秋楽は9月5日。たった5公演の再開だったが、かけがえのない5公演だった。

銀橋は使用されなくなった。パレードは舞台をぐるりと回る、全国ツアーのような形式。演出もいろいろ変わった。でも良いこともあって。その一つ、花乃屋から少尉が紅緒をおんぶして連れて帰るシーン。以前は上手花道のみだったが、舞台を下手から上手へ渡る演出に変わっていたが、距離が長くなった分少尉の演技や表情がより繊細に見れるようになってとてもよかった。これは東京公演へ引き継がれた。

千秋楽の演技は、初日付近とも、その後の東京公演とも全く違った。

れいちゃんの熱量が、想いが、ほとばしっていた。ともすると伊集院忍少尉よりも柚香光としての想いが大きくなってしまいそうな危うさすらあった。しかしその演技を、華ちゃんは変わらないひたむきさで受け止めていた。

れいちゃんの相手役が華ちゃんである理由、相性がいいという意味がよく分かった。

この数日の演技はBlu-rayとして発売されているのでご覧になった方も多いだろう。
千秋楽、柚香光ちゃんが目を涙で滲ませながら挨拶したあの日を一生忘れない。

2020年10月~11月

この後10月から東京公演が始まり、一度も休演することなく全日程を駆け抜けた。それはそれは楽しく幸せいっぱいの1か月だった。
千秋楽ではれいちゃんがニコニコの笑顔で、全員で花組ポーズを取った。
組子がピョンピョン飛び跳ねていたことも忘れられない。
鳴りやまない拍手にれいちゃんは緞帳の前に出てきてくれて、エアハグしてくれた。

幸せいっぱいの気持ちで帰路についた頃、私は地獄に落とされる。

その後もお漏らしを連発する某組トップスター(当時)のファンがぬるっと呟いたのだ。
「華ちゃん残念ですね~もっと見たかった」

まさかまさか。そんな。あんなに幸せいっぱいだったじゃない。
千秋楽ではれいちゃんが華ちゃんにおでこをコツンとして、なんて美しいトップコンビなんだと胸いっぱいになったのに。

非常にも翌11月16日 月曜日 16時 公式ホームページは更新された

「花組 トップ娘役 華優希 退団会見のお知らせ」

手が震えて泣けて仕方なかった。

あんなにも辛い公演中止の期間、れいちゃん華ちゃんに救われた。
これからどんな作品が待っているんだろうとワクワクしていたのに。
あんなに幸せだったのに急に奈落の底に落とすとは。もう少し余韻に浸らせてももらえないのか、と。

この頃本気で↑のお漏らしファンがいる某トップスター(当時)が嫌いになったくらいだった。

だが翌日の退団会見の華ちゃんは誰よりも美しくすっきりしていた。
本当に本当に美しかった。
その姿を見て私は悔しさが吹っ飛んで、ストンと腑に落ちたのだ。

これから華ちゃんが退団するまでの8か月全力で応援しようと決めた。


11月29日
私は宝塚大劇場にいた。

友の会で当選した宙組「アナスタシア」を観劇するためだった。

華ちゃんのショックはまだあったが、とにかくエンタメに飢えていた。
美しい世界が見たかった。

「アナスタシア」は前評判にもれず素晴らしい作品だった。
雪降る映像の緞帳、美しいロマノフ家。この作品で組替えになった潤花ちゃんがとにかく美しかった。
当時はオーケストラもなく、指揮の御崎恵先生が空っぽのオケピに入って宙組生のコーラスを指揮していたのが脳裏に焼き付いている。

華ちゃんと同期であるトップ娘役星風まどかちゃんの演技・歌どれも素晴らしかった。優希しおんくんの跳躍に驚いた。

すっしいさんの皇太后に涙した。

この前月に観劇した月組公演もすばらしく、コロナ禍でエンターテインメントなんて不要だなんて言われていたこの時期に最高の3作品を連続で見られたことに私は本当に感動したのだ。

そして翌11月30日 この日も月曜日。宝塚歌劇団公式ホームページが更新された

「組替え」
「星風まどか・・・2021年2月22日付で専科へ異動」


 





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