葬儀師・第二話「捜査」

葬儀師・第二話「捜査」・脚本  岡本蓮


第二話の物語
 横溝誠司とともに佐伯春樹の自宅を捜索する深雪は、一枚の奇妙なSDカードを発見する。そのたった一枚のシリコンが日本の未来を左右するとも知らずに。


備考
 日本政府は異邦人が暮らす異界(幻想界)を目下植民地化している。それに対抗するために門が開き、異邦人が日本に攻め込んできているという設定。異界を植民地化している事実は国民に隠され(公にすれば国民の信頼は損なわれるから)、それを暴露しようとした佐伯春樹は政府の秘密組織によって自殺に見せかけて殺害された。



◯  深雪の夢
   第一話の冒頭のシーン。爆発するタンクローリー。女系の能面をかぶる能力者に斬りかかる籾木班。しばし格闘。西の攻撃に女の能力者、一瞬ひるむ。深雪、それをめざとく見て、女の能力者に斬りかかろうとする。籾木、女の能力者がわざと怯んだのを見抜く。
籾木「退け!」
   深雪、身を翻して退却する。その瞬間、かまいたちが深雪を襲う。共鳴器官で防御する深雪。深雪の後ろの乗用車、細切れになる。籾木たち、深雪を囲む。西、深雪に手を貸して、
西「大丈夫⁉︎  深雪!」
深雪「うん。かすり傷」
   籾木班、女の能力者を見る。直立する女の能力者。
鈴木「ほんとに丙級か? 身のこなしが洗練されてる」
籾木「乙級に繰り上げだ」
   目を見開く籾木班。
深雪「くそっ! うちらの手に余る」
西「退却は? 応援はいんだろ?」
籾木「他の班は妖怪と対峙している。こっちに手が回るほど暇じゃない」
西「じゃあ私たちであれをやるわけだ」
   女の能力者の女系の能面。
西「いいねぇ。敵は強いほど戦い甲斐がある」
鈴木「実はチンコ生えてるだろ。お前」
西「なんだ知ってたのか」
鈴木「怖い怖い」
   鈴木、苦笑い。
   静寂。
   籾木班、女の能力者に斬りかかろうと身構える。
M(鈴木)「その首もいでやる!」
M(西)「昇級するのはこの私だ!」
M(籾木)「手足さえ切り離せれば」
M(深雪)「憎たらしい能力者め!」
女の能力者「貴様らに私たちの気持ちがわかるか?」
   籾木班、目を見開く。
M(籾木)「陽動か? それにしては明け透けな」
女の能力者「家を焼かれ、子供を殺され、土地を奪われた者の気持ちがわかるか⁉︎」
   深雪の顎を汗がつたう。
M(深雪)「なに言ってんだ? 気が動転してるのか?」
   深雪、籾木をちらと見る。籾木、動揺する。
女の能力者「ずかずかと人の家に入り! そこで盗みを働き! あろうことか女を犯した! お前たちには分かるまい! 故郷を奪われた者の気持ちが!」
   女の能力者の声、あたりに反響する。静まり返る。硬直したままの籾木班。籾木班、目を見開く。女の能力者、能面の下で涙を流す。絶句する籾木班。
女の能力者「お前たちには分かるまい。我々がなぜ戦っているのか」
   籾木だけ、妖怪の気配に周囲を警戒する。
女の能力者「我々がなぜ、殺し合っているのか」
   籾木、唖然とする。籾木、背後に目をやる。
籾木「伏せろ!」
   籾木、深雪に覆い被さる。伏せる籾木班。その瞬間、女の能力者に二ノ宮周五郎(三十八歳・男性)の使役妖怪(設定資料参照)のレブンエカシが噛み付く。レブンエカシはアイヌに伝わる巨大なクジラの妖怪。レブンエカシ、幹線道路の自動車や道路情報板をなぎ倒して転がる。籾木班の驚いた表情。
   (オープニング)

◯  深雪の自宅・深雪の部屋
   (オープニングを挟んだため、冒頭のシーンを繰り返す)
女の能力者「ずかずかと人の家に入り! そこで盗みを働き! あろうことか女を犯した! お前たちには分かるまい! 故郷を奪われた者の気持ちが!」
   女の能力者の声、あたりに反響する。静まり返る。硬直したままの籾木班。籾木班、目を見開く。女の能力者、能面の下で涙を流す。絶句する籾木班。
女の能力者「お前たちには分かるまい。我々がなぜ戦っているのか」
   籾木だけ、妖怪の気配に周囲を警戒する。
女の能力者「我々がなぜ、殺し合っているのか」
   籾木、唖然とする。籾木、背後に目をやる。
籾木「伏せろ!」
   籾木、深雪に覆い被さる。伏せる籾木班。その瞬間、女の能力者に二ノ宮周五郎(三十八歳・男性)の使役妖怪(設定資料参照)のレブンエカシが噛み付く。レブンエカシはアイヌに伝わる巨大なクジラの妖怪。レブンエカシ、幹線道路の自動車や道路情報板をなぎ倒して転がる。
   間。
   飛び起きる深雪。深雪、汗をかき、肩で息をする。

◯  同・洗面所
   深雪、歯を磨き、顔を洗う。

◯  同・深雪の部屋
   葬儀師の制服に着替える深雪。

◯  同・リビング
   リビングでは深雪の母の柊美緒(五十歳・女性)と、深雪の父の斉藤岳(四十九歳・男性)が朝食をとる。キッチンでは家事代行の中年の女性が忙しなく働く。巨大なはめ殺し窓から都内の様子が一望できる。一応の設定では深雪の自宅は千代田区の一等地のタワーマンション。深雪、真顔で両親に挨拶。
深雪「おはよう」
   美緒、斉藤ともに深雪に無関心で、美緒はスマートブレスレットを、斉藤は紙の本を読んでおり、二人は顔を上げずに深雪に挨拶する。
美緒「おはよう」
斉藤「おはよう」
   深雪、席につく。すぐに家事代行の女性が深雪の前に朝食を置く。
深雪「ありがとうございます」
家事代行の女性「(愛想よく)いいえぇ」
   深雪、ナイフとフォークで朝食を食べる。能面のような表情の深雪。

◯  深雪の自宅・外
   自宅のあるタワーマンションを全力疾走で出る深雪。深雪、歩道を駆ける。途中、引越しの男たちが長い荷物を持って歩道を塞いでいる。深雪、構わずその長い荷物をハードルを飛び越えるように飛び越える。目を丸くする引越し業者。深雪、歩道を駆ける。
深雪「ああぁぁぁ‼︎  クソ喰らえ!」
   飛び上がる猫。

◯  佐伯春樹の自宅・マンション
   深雪、タクシーを降りる。佐伯の自宅マンションの前には横溝誠司の姿。
横溝「いい身分だな。タクシーなんて」
深雪「財務省が良くしてくれるんで」
   横溝、深雪、並んで歩く。
横溝「どんなコネがある? 葬儀師庁とよろしくやっても財務省に何の得もないだろう?」
深雪「さあね。財務大臣と葬儀師庁のお偉いさんが付き合ってるんじゃないのぉ?」
横溝「真面目に聞いてるんだ」
   横溝、深雪、エレベーターにいる警察官の藤田(二十六歳・男性)に警察手帳と葬儀師手帳をそれぞれ見せる。藤田、二人に敬礼して共にエレベーターに乗り込み、佐伯春樹の自宅がある階のボタンを押す。エレベーター、三人を運ぶ。横溝、エレベーターのミラーで藤田の姿を観察する。
横溝「巡査はどこの配属だ?」
藤田「近くの駒込警察署であります」
横溝「そうか……」
藤田「警部補はどちらの?」
横溝「北沢警察署だ」
藤田「同期がお世話になっています」
横溝「どいつだ?」
   藤田、一瞬戸惑う。横溝、めざとく藤田の戸惑いを観察する。
藤田「背の高い、痩せた男です」
横溝「ああ、野辺か」
藤田「ええ」
   横溝、藤田の化学熱傷した手を観察する。藤田の冷静な顔。横溝、微笑む。エレベーター、目的の階に到着する。横溝、降りぎわに藤田の肩をたたく。
横溝「困ったことがあればいつでも相談に乗る。横溝誠司だ」
   横溝、藤田に手を差し伸べる。
藤田「藤田りょうです。よろしくお願いします」
   藤田、横溝と握手する。深雪、警官のやりとりを無視してエレベーターを降りる。

◯  佐伯の自宅・中
   佐伯春樹が死亡した自宅マンションを見分する横溝、深雪。整頓された室内。(藤田は外)
深雪「元エリート官僚の家にしてはやけにこぢんまりとしてるね」
横溝「佐伯はもともと国が用意した公務員宿舎で妻とふたりの娘とともに暮らしていた。それが免職によって追い出され、さらに再就職にも苦労したそうだ」
深雪「へぇ……。エリートの転落ってわけだ」
横溝「すべてが真実であればな」
   深雪、横溝を見る。横溝、リビングに向かう。
   間。
   リビング。ここも整然とする。横溝、リビングを見渡す。
   (フラッシュ)
   佐伯と妻、その娘の生活を早送りで映す。
   (フラッシュ終わり)
   横溝、リビングのカレンダーに目が止まり、その方に行く。カレンダーには予定が書き込まれている。佐伯が心中した日の翌週に予定が入っていることに不審を抱く横溝。深雪、カレンダーを見る。
横溝「よく見てみろ」
深雪「ん?」
横溝「佐伯が心中した日がこの日だ。そしてその翌週……」
深雪「予定が入ってる」
横溝「ああ。おかしい。普通、死ぬとわかっている人間は死んだ後の日に予定を入れない」
   横溝の横顔。
   間。
   横溝、今度はリビングの棚に目をつける。木製の棚に薬品焼けの跡が。横溝、しゃがみ、その薬品焼けを調べる。薬品焼けした板を指でなぞる横溝。
M(横溝)「明らかに化学薬品で劣化した跡だ……。何があった……」
   横溝、リビングを見渡す。
   間。
   夫婦の寝室に入る横溝、深雪。ここで佐伯とその妻、ふたりの娘が死んでいた。横溝、マットレスのない裸のベッドに腰掛ける。考え込む横溝。深雪、横溝の仕事を無言で見守る。
横溝「(独り言)佐伯春樹。いったい何があった。なにを知った? 異邦人に恨まれていたんだろう? たとえ退職したといっても葬儀師庁に勤めていた男だ。殺せば葬儀師庁に目をつけられるだろうに、なぜその危険を犯してまで佐伯を殺した? ……」
   深雪、横溝の隣に腰掛ける。
横溝「(独り言)わからん。わからない。警告か? これ以上首を突っ込むなというメッセージか? ならもっと凄惨な殺し方をするべきだ。これじゃあ人類への警告にはならない。なぜわざわざ心中を偽装した? 持ち出した機密文書は、いったいどこに……(はっとする)」
   横溝、立ち上がり、寝室を見回す。横溝、仏壇が目に止まる。仏壇に駆け寄る横溝。深雪、横溝に手を伸ばす。
深雪「ちょっと」
   深雪、手を引っ込める。深雪、必死の形相で仏壇を調べる横溝を見てほほえむ。
M(深雪)「まったく……。わたし、横溝を見誤ってた……」
   仏壇に向かう深雪。
   間。
   仏壇には佐伯の母の遺影。佐伯の母、満面の笑み。横溝、佐伯の母の遺影に手を伸ばし、留め具を外して中の遺影を取り出す。
深雪「ちょっと待って! さすがに遺影は……」
横溝「自分の死を悟った人間が……」
深雪「えっ……」
横溝「……重要な情報を隠すのに、どこを選ぶと思う?」
深雪「それは……」
   横溝、遺影を検める。ややあって横溝、目を見開く。遺影は日に焼けているが、撮られた日時が新しい。(昔撮った母の遺影の裏に、最近撮った写真を貼り、その中にSDカードを隠した)横溝、血相を変えて遺影を剥がす。深雪、横溝の手を覗き込む。なかなか剥がれないが、ややあって横溝、写真を剥がすことに成功する。
深雪「あっ……」
   二枚重ねの写真の間に、プラスチックのケースに入ったマイクロSDカード。横溝、そのカードを指でつまむ。顔を見合う横溝、深雪。
   間
   横溝と深雪、佐伯の自宅を後にする。エレベーターを待つ二人。
深雪「なんのカードだろね」
   険しい顔の横溝。
横溝「さあ。署で検める」
深雪「ニュースではさ、葬儀師庁の機密文書を漏洩させたって言ってたから、それかもね」
横溝「ああ。いずれ分かる」
   エレベーター、到着し、ドアが開く。
深雪「お手柄だね。これで……」
   横溝、人差し指を自分の唇にあてて、静かにのジェスチャー。深雪、黙る。エレベーターの中に藤田。エレベーターに乗り込む深雪と横溝。エレベーター、閉まり、下へ向かう。
藤田「なにか証拠は見つかりましたか?」
横溝「いいや。なにもなかった」
   深雪、横溝を怪訝な顔で見る。
横溝「(軽薄)とんだ無駄足だったよ。また部下にどやされる」
   藤田、笑う。
藤田「でも慣れておいででしょう? この手の事件は」
   横溝、怪訝な顔。
横溝「耄碌したよ。家に帰って、奥さんに慰めてもらうさ」
   横溝の決意の表情。

◯  佐伯の自宅のマンション・外
   早足で佐伯の自宅マンションを離れる横溝、それについて行く深雪。
深雪「ねえ横溝! どうしたの? さっきから変!」
   横溝、早足。
深雪「藤田って言う警官にも嘘つくし、なんか腹の探り合いみたいなことするし! ねえ! 教えて!」
   横溝、立ち止まる。深雪、立ち止まるのが遅れて、横溝のすこし先で止まる。深雪、横溝の苦悩の顔を見上げて、眉を困らせる。
横溝「あの男はエレベーターで最初! 同期がお世話になっていると言った! ……たぶん口をついて出た世間話なんだろうが、予想外に俺が詮索した。その時やつは、背の高い、痩せた男といって濁した! 俺が適当な名前を言うと、あの男はそうですと認めた。だがな! 俺の所属する北沢警察署に、そんな名前の警察官は勤務していない!」
   深雪、目を見開く。
   (フラッシュ) 
藤田「同期がお世話になっています」
横溝「どいつだ?」
   藤田、一瞬戸惑う。横溝、めざとく藤田の戸惑いを観察する。
藤田「背の高い、痩せた男です」
横溝「ああ、野辺か」
藤田「ええ」
   (フラッシュ終わり)
   横溝、深雪に近寄り、深雪を見下ろす。
横溝「もっと聞きたいか? ……藤田と名乗った男の手! あれはアトピーじゃない! 明らかに化学熱傷だ! 薬品を触り慣れてる手だ!」
   (フラッシュ)
   藤田のぼろぼろの手。
   (フラッシュ終わり)
   深雪、絶句する。
横溝「さらにあいつは言った。慣れておいででしょう。この手の事件は……。俺は一介の警察署の副所長だ。人の死が絡むような事件は全部捜査一課の管轄だ!」
深雪「どういう意味……」
横溝「やつは俺の過去を知っている」
   深雪の顔。
横溝「俺は……元捜査一課勤めだ」
   深雪の顔。横溝の顔。

◯  横溝の回想
T「七年前」
   横溝(四十九歳)、筒状にした新聞で部下の金井(三十二歳・男性)の頭をぶったたく。
横溝「たるんでんだよ! 金井! お前この前もおんなじミスしたじゃないか! 何回繰り返す気だ!」
金井「すみません」
   横溝と金井を遠巻きに見る同僚たち。
同僚A「またやってるよ。横溝さん。あれじゃ金井もすぐに辞めちまうな」
同僚B「これで何人目だ? 横溝さんがパワハラで辞めさせた部下の数は?」
同僚C「あんなことしてクビにならねぇなんて、横溝さん、いったいどんな手を使ってるんだろうなぁ」
   金井を叱りつける横溝。

◯  同
   柔道の稽古をする横溝ら、捜査一課の警察官。大柄な横溝、次々に同僚を投げる。
横溝「次!」

◯  同(夜)
   夜、雨、横溝と金井、殺人現場の住宅に到着する。横溝、車を降り、警官に警察手帳を見せる。規制線に入る横溝、金井。
   間。
   捜査一課の桜庭(六十一歳・男性)、横溝を見つける。横溝、金井、会釈する。
横溝「被害者は?」
桜庭「バラバラだ。まったく……葬儀師の連中はなにをやってるんだか」
横溝「彼らは異邦人を殺すことしか頭にないですから」
   横溝、懐からタバコを取り出す。横溝、ライターでタバコに火をつける。嫌な顔をする金井、桜庭。
桜庭「禁煙だ。横溝」
横溝「ああ。すみません」
   間。
   殺害現場の部屋を検分する横溝、金井。金井、気分が悪そう。横溝、金井を見る。
横溝「大丈夫か? 金井?」
金井「いいえ。外の空気を」
   金井、廊下に出た瞬間に嘔吐する。
鑑識「おい! ちょっと! 現場を荒らすな!」
   横溝、苦笑い。
横溝「まったく」

◯  同・牛丼チェーン店・中
   深夜の牛丼チェーン店で夕食を食べる横溝、金井。横溝、牛丼をかき込むが、金井は手をつけない。
横溝「食べろ。もたないぞ」
金井「でも、食欲が……」
横溝「俺も若い頃は殺人現場を見た後は食事が喉を通らなかった。(牛丼を食べる)でもな、慣れだよ慣れ。何事も場数を踏むことが大切だ」
   金井、上司の説教に辟易した表情。横溝、金井に包装されたネクタイをプレゼントする。金井、やつれた表情でそれを受け取る。
金井「なんすか、これ?」
横溝「開けてみろ」
   間。  
   包装を破る金井、悪趣味なネクタイを天井に掲げる。金井、苦笑い。
金井「なんすか、これ?」
横溝「見れば分かるだろ。ネクタイ」
金井「そうじゃなくて」
横溝「えっ」
   無邪気に笑う金井。横溝、一瞬はっとするが、すぐに慈愛の表情になる。
金井「だっせぇネクタイ」
横溝「思ってても言うな」
金井「ほんと、センスやばいっすよ。先輩」

◯  同
   翌日、出勤する横溝。横溝、自分のデスクに座り、書類を確認する。横溝、金井のデスクを見るが、まだ金井は出勤していない。
桜庭「横溝」
   桜庭、自分のデスクから横溝に手招きする。横溝、桜庭の元に向かう。
横溝「はい」
桜庭「金井はどうした?」
横溝「さあ。遅刻でしょう」
桜庭「昨日はどうだった? お前、一緒だったんだろ?」
横溝「ええ。確かに気分は沈んでいましたが、まさか遅刻するとは」
桜庭「現場に行かせるべきではなかった」
横溝「桜庭さんは何も……」
桜庭「いいや。私の責任だ。(間)すまないが、見に行ってくれないか? 金井の家に」
横溝「私がですか? いいやぁ、仕事が」
桜庭「相棒だろう。電話、繋がらないんだ」
   横溝、苦笑い。

◯  同・金井の自宅アパート
   横溝、金井のアパートのベルを鳴らす。反応がない。横溝、舌打ち。横溝、ふたたびベルを鳴らし、また反応がないため、ドアをノックする。
横溝「金井。居るんだろう? 返事をしてくれ」
   返事がない。
   横溝、心配な顔になる。横溝、ドアを強く叩く。
横溝「金井! おい! いるんだろ! 開けるぞ!」
   ノブを回す横溝、ドアが開くが、チェーンが掛かっている。
横溝「金井……」
   横溝、ドアの隙間から叫ぶ。
金井「金井! 病気か? 返事くらいしてくれ! おい! 金井!」
   悩む横溝。ためらう横溝。横溝、ドアに体当たりする。三度目のタックルでドア、破られる。横溝、前のめりに倒れ込む。横溝、薄暗い部屋を見て、土足で中に入る。必死の形相の横溝。
   横溝、寝室のドアを恐る恐る開ける。寝室で首を吊って亡くなる金井の姿、徐々に見える。横溝、絶句。金井、横溝に貰った趣味の悪いネクタイで首を吊る。
横溝「(荒い息)ああ! ああ! ああ! ああ! ああ!(徐々に高鳴る慟哭)」
   暗転。
   (エンディング)

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