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葬儀師・第一話「退廃」

想定時間・三十分



世界観

 近未来の日本を舞台に、突如発生した門とそこからやってくる異邦人との戦い、そして新たな人類と古い人類との対立を描く。



第一話の物語

 葬儀師庁のエリート官僚である佐伯春樹が不審者するところから話は始まる。葬儀師の深雪は、直属の上司である芳賀玄飛に呼び出され、中年の警察署副所長、横溝誠司とチームを組み、佐伯春樹の死の真相を探るよう命令される。



登場人物

柊深雪(十六歳・女性)

 …この物語の主人公。短髪、男勝りな性格。


芳賀玄飛

 …元葬儀師。現在は葬儀師庁の高級官僚。寡黙。


横溝誠司(二〇〇一年七月二十五日生まれの五十六歳・男性)

 …元警視庁捜査一課勤め。現在は警察署の副所長。身長一九〇センチ、体重八十キロ。


益子葵(十六歳・男性)

 …深雪のクラスメイト。


峯香帆里(十五歳・女性)

 …深雪の親友。


籾木遥希

 …深雪の上官。籾木班の班長。



用語

異邦人

 …幻想界に暮らす生物全般を指す。


葬儀師

 …日本に流れ込んだ異邦人を葬送することを職務とする公職の一種。


葬送

 …異邦人を殺すことをそう呼んでいる。もともとは葬儀師庁が設置される前、その任務を担っていた自衛隊員らが隠語として使用していたものが公的な名称となった。


共鳴器官

 …硬質な肌をもつ異邦人の肉体を容易に切り裂くことのできる唯一の武器。これを使用した際に負う心身の疲労を共鳴疲労という。


捨てられた世代

 …主にバブル崩壊の一九九〇年代初頭から熊谷内閣によるデフレ脱却の二〇三〇年初頭のあいだに生まれた世代をいう。この世代は税や社会保障の負担は重い一方、社会福祉や国の保護をあまり受けられなかった。そのため国家への帰属意識は低く、集団に属するより個人として独立することを好む傾向がある。就職氷河期世代からは自己中心的と揶揄されることもある。




   舞台は二〇五六年の東京。

◯  東京・幹線道路

   曇天。道路は封鎖され、至る所に規制線が張ら 
れる。たむろする警察官、葬儀師。葬儀師の格好は漆黒の、詰襟のない制服。葬儀師、腰に共鳴器官(用語参照)を帯びる。

警察の無線「出現した異邦人は丙級能力者一体に丁級妖怪二体、それに戊級妖怪複数が確認される」

葬儀師の籾木遥希(二十七歳・男性)、柊深雪(十六歳・女性)、西蓮(二十五歳・女性)、鈴木一(二十五歳・男性)、四人並んで現場入りする(以後、この四人を呼称するときは『籾木班』の名称を使う)。班長の籾木、規制線を警備する警察官に葬儀師手帳を提示する。警察官、規制線を上げ、籾木たち、規制線の中へ入る。ガムを噛む鈴木。

間。

警察の無線「門の捜索は現場に派遣された葬儀師と協力して行う。今のところ死穢測定器の反応はなし」

   防護服に身を包んだ男たち、金属探知機のような死穢測定器(設定資料参照)で死穢(設定資料参照)を計測する。

   間。

   封鎖された幹線道路を歩く籾木班。真顔の籾木、ガムを噛み、余裕の表情の鈴木、涼しい顔の西、堅い表情の深雪。

警察の無線「確認された異邦人と接敵するのは籾木班に任せた。我々警察は市民の安全を守るべく職務に当たるべし。以上」

   間。

   幹線道路の真ん中に女系の能面をかぶる女の能力者(二十八歳・女性)、立つ。籾木班、足を止め、女の能力者と対面する。

鈴木「やったりましょうや籾木さん」

西「なんだその口調。キッモ」

鈴木「なんだと! 班長の緊張を解こうと」

籾木「うるさい!」

   動きを止めて籾木を見る一同。

籾木「集中しろ」

   籾木、女の能力者を見つめる。辟易といった表情で女の能力者を見る鈴木。西と深雪も女の能力者を見る。女の能力者、我関せずと直立する。

籾木「共鳴器官を抜け」

   各々共鳴器官を抜く籾木班一同。籾木は抜かない。共鳴器官の刀身は黒い。女の能力者、直立したまま。

   静寂。

   とつぜん、大型のタンクローリーが籾木班に飛んでくる。タンクローリーをよける籾木班。タンクローリー、籾木班の背後で爆発する。

籾木「行け! 殺せ!」

   女の能力者に斬りかかる一同。

   (オープニング)


◯  深雪の通う高校・教室

   制服姿の深雪、背もたれにもたれ、椅子が倒れそうになるほど後ろに傾けて、チューチューする棒アイスを食べる。

深雪「あー、あー、あー」

   益子葵(十六歳・男性)、深雪の視界に入る。

益子「発声練習?」

深雪「うるさい。ノッポ」

   益子、苦笑いして、深雪の隣の自分の席に座る。益子、教科書類を整理する。深雪、それを横目で盗み見て、椅子をもとの角度に戻して、益子に向かう。

深雪「今日、スポセン行こうよ」

   (※スポセンはスポーツセンターの略)

   益子、整理を続ける。

益子「テストが近いから、遠慮するよ」

深雪「つまんねぇー」

   笑う益子。

益子「そんな深雪はテスト、大丈夫なの?」

深雪「んー……、知らん。どうでもいい」

益子「不良め」

   深雪、皮肉に笑う。

   教師、教室に入る。

教師「よーし。ホームルーム始めるぞぉ」

   生徒ら、各々着席する。教師、黒板に板書する。益子、前を向いたまま深雪に、

益子「二人で行くの? スポセン」

深雪「いいや。香帆里も誘うつもり」

   益子、目を見開く。深雪、鋭い視線で益子をちらと見やる。

益子「ふーん」

   (教師の声を小さい音量で流す。また、益子と深雪のやり取りを教師の声に重ねて流す)

教師「えー。みんな知ってると思うけど、中間テストが近いから、部活は一時中止ね。(生徒の歓声)(教師の咳払い)みんな気を抜かずに勉強すること。なんせうちは自称進学校だからな。(間)えー、あと、異性交友は慎むこと。勉学の妨げになりまーす(生徒らの嘆き)」

益子「行くよ。スポセン」

深雪「えっ?」

益子「気が変わった」

深雪「それはずいぶん気まぐれな」

益子「うん。俺は気まぐれなんだ」

   深雪、益子を盗み見る。


◯  深雪の通う高校・昇降口・外(夕方)

   益子と深雪、違うクラスの峯香帆里(十五歳・女性)を昇降口の外で待つ。夕陽が二人の影をねり飴みたいに引き延ばす。しばし無言の二人(仲の良さの暗示)。

   香帆里、階段を駆け降りる。香帆里、廊下を駆け抜け、昇降口に辿り着き、靴をつっかけて二人の間にやってきて、膝に手をつき息を整える。

香帆里「ごめん。待った?」

益子「ああいいや」

深雪「(益子を遮る)もうメッチャ待った」 

香帆里「ごめん。色々やらなければいけない仕事があって」

深雪「ご苦労。学級委員殿」

   深雪、香帆里の腕に自分の腕を絡める。

深雪「行こっ」

香帆里「うん」

   深雪、香帆里、益子を置いて歩き出す。益子、しばし二人の背中を見つめ、ほっと微笑んで、彼女らの後を追う。


◯  スポーツセンター・中

   卓球に興じる益子、深雪。香帆里は遠くから二人を眺める。益子、強烈なフォアをお見舞いする。深雪、球を取りこぼす。益子、ガッツポーズ。

益子「チョォレェイィィ!」

   汗だくの深雪、取りこぼした球を拾い上げる。

深雪「誰の真似?」

益子「昔の卓球選手」

深雪「変なやつ」

   間。

   ベンチに座る香帆里、深雪(香帆里が中央で、深雪は向かって左側に座る)。深雪、股を開けてベンチに座る。

香帆里「深雪ぃ」

深雪「んっ? なに?」

   香帆里、深雪の足に視線を落とす。深雪も自分の足に視線を落とす。深雪、不敵に笑う。

深雪「いまどき女にもチンコついてる時代だよ。なにをいまさら」

香帆里「はしたないよ」

深雪「貴族の常識を持ち込むなー」

香帆里「(優雅に笑う)なにそれ」

   深雪、不敵に香帆里をちらと見やり、視界の端に益子をとらえる。益子、両手にペットボトルや缶を持つ。深雪、益子に手を挙げる。香帆里、深雪の視線を追って益子を見る。益子、深雪に缶の炭酸飲料を投げて渡す。益子、香帆里の隣に腰掛け、香帆里にペットボトルを手渡す。

香帆里「ありがとう」

益子「おう」

   深雪、プルタブを引き上げて、炭酸飲料を飲む。

深雪「うっめぇ! この時のために生きてる!」

   深雪を見て笑い合う益子、香帆里。益子と香帆里もそれぞれ飲み物を飲む。

深雪「はぁ……」

   益子、香帆里、深雪の横顔を見る。

深雪「ずっとこの日が続けばいいのに……」

   益子の怪訝な顔。


◯  スポーツセンター・外

   深雪と香帆里、益子に手を振る。それぞれの間に距離あり。

益子「バイバイ!」

深雪「げぇ……。ガキみたい」

   香帆里、益子に手を振る。

香帆里「ばいばい」

   深雪、いやいや益子に手を振る。

   間。

   益子の背中、遠くにある。深雪、香帆里の腕に自分の腕を絡める。

深雪「帰ろう」

香帆里「うん」

   二人、ほとんど夜に入った街を歩く。


◯  大通り(朝)

   深雪、通勤ラッシュの大通りを歩く。深雪、学校の制服姿。電話、鳴る。深雪、右手首に嵌めたスマートブレスレットを起動し、空中に光学画面を表示させる。葬儀師庁の官僚で、籾木班の上司に当たる芳賀玄飛(三十六歳・男性)からの電話。

深雪「あーあ。また厄介な仕事まわしてくるんじゃ」

   深雪、電話に出る。深雪、スマートブレスレットを耳にあてがう。

芳賀「もしもし芳賀です」

深雪「仕事?」

芳賀「おぉ……話が早い」

深雪「あんたから仕事以外の話題を振られたことないから」

芳賀「(苦笑い)あはぁ……」

   行き交う人。

芳賀「それがですね」

深雪「ん?」

   深雪、ビルの大型ビジョンに目をやる。大型ビジョン、朝のニュースを流す。

女性アナウンサー「二〇五五年付けで葬儀師庁を懲戒免職に処せられていた佐伯春樹氏が昨夜、遺体で発見されたことが、警視庁への取材で明らかになりました。同氏は、葬儀師庁の機密文書を異界のスパイに漏洩させたとして職責を解かれていましたが、一昨日の深夜、自宅アパートにて自身の妻と幼い子供をともなって無理心中をはかったことが、我々の独自の取材によって明らかになりました」

   深雪、目を見開く。深雪の瞳のアップ。


◯  霞ヶ関・葬儀師庁本庁舎

   葬儀師庁本庁舎、ガラス張りの高層ビル。それを見上げる深雪。

   間。

   深雪、受付に葬儀師手帳を手渡す。受付の女、微笑んで深雪に葬儀師手帳を返す。深雪、エレベーターに乗る。エレベーターには数人の同乗者。横溝誠司(五十六歳・男性)の姿も。横溝は身長一九〇センチ、長身痩躯。

横溝「お嬢さんはなにしにここに?」

   深雪、横溝を見上げる。深雪、横溝を無視する。横溝、目を剥く。

M(横溝)「(怒り)最近のガキは……」

   間。

   エレベーター、深雪の目的の階に到着して、扉が開く。まず横溝がエレベーターを降りる。横溝、降りがけに深雪を威嚇する。深雪、威嚇し返す。

   間。  

   横溝が降りたフロアに降りる深雪。エレベーターの扉が閉まる。行き交う葬儀師庁の職員たち。電話をする職員。談笑する職員。スマートグラス(あのアップルのビジョンプロのようなやつ)で作業をする職員。深雪、フロアの廊下を歩く。

   間。

   芳賀の執務室に着く深雪。芳賀の執務室は個室で、ドアに『葬儀師庁第二安全保安部副室長 芳賀玄飛』の文字が。深雪、したり顔。

M(深雪)「へっ。出世したな」

   深雪、ドアをノックする。くぐもった芳賀の声。

芳賀「はい。どうぞ」

   深雪、ノブを回して中に入る。

深雪「芳賀ぁ。また出世したねぇ。今度の席はさぞ座り心地がいいだろうねぇ」

   巨大なはめ殺し窓を背に、大きな机に肘をついてやや前傾になる芳賀の姿。芳賀、苦笑い。

芳賀「いいやぁ、出世コースを外れないように日々研鑽を積んでおりますよ」

   深雪、芳賀の目の前に歩み寄る。

深雪「うちら籾木班に便宜を図ってもいいんじゃないんでしょうかぁ? 芳賀さん」

芳賀「そうしたいのは山々ですが、やっちゃったら減俸処分は避けられない……」

深雪「いいんですかぁ。この前の事案も籾木班の手柄だったのにぃ」

芳賀「(苦笑い)あははぁ。悪い人だ」

   芳賀、立ち上がり、部屋の隅のキャスター付きの椅子を引いて深雪に差し出す。

芳賀「まあ座って」

   芳賀、ドア側の部屋の隅に目をやる。

芳賀「横溝警部補も」

   深雪、横溝を振り返る。深雪、横溝、目を合わせ、目を見開く。

M(深雪)「さっきのジジイ!」

M(横溝)「さっきの小娘!」

   芳賀、キョトンとした顔。

芳賀「お二人とも、どうかされました? ……」


◯  同・芳賀の執務室

   深雪、色をなして立ち上がり、横溝を指差す。

深雪「なんでうちがこいつとチームを組んで殺人の捜査をしなきゃいけないのぉ!」

   横溝、目を剥く。

M(横溝)「なんてワガママな子だ……」

芳賀「まあ落ち着いて」

   深雪、椅子に座る。

芳賀「ここは我々葬儀師庁に共同捜査を依頼した横溝誠司警部補にお話を伺おうじゃありませんか」

   横溝、小さく頷く。横溝、立ち上がり、警察手帳を開き、メモを読みながら説明する。

横溝「えー、まず、被害者の佐伯春樹氏は、異界の、ああ、葬儀師庁では幻想界……ですか、そこのスパイに国の重要な機密情報を漏洩させたという罪に問われ、職責を解かれています」

   芳賀と深雪の顔。

横溝「佐伯氏は五五年付けで葬儀師庁を懲戒免職され、独自に幻想界に関する情報を集めていたといいます」

芳賀「そこで怨恨説が浮上した」

横溝「ええ。裁判によると佐伯氏が異界のスパイに情報を手渡したことは立証されず、そこは推定無罪でした。えー、しかし、葬儀師庁のデータベースに侵入し、機密文書のコピーをとったこと、これは立証され、窃盗罪と特定秘密保護法違反の廉で検察側が懲役十年の刑を求刑しましたがぁ、佐伯春樹氏が検察側との司法取引に応じたため、最終的には懲役十年執行猶予七年の刑が確定しました。えぇ、つまり、裁判の結果から、佐伯氏は異界の者たちと共謀したわけではなく、何か別の目的で機密文書をコピーし、持ち出したと考えられます」

深雪「で? なにが言いたいの?」

   芳賀、うなずく。横溝、咳払い。

横溝「つまり、佐伯氏は異界の異邦人たちの、なにか都合の悪い真実を知ったために、彼らの手によって殺されたのではないかと推察したのです」

   深雪、頭の後ろで腕を組む。

芳賀「(咳払い)なぜ佐伯氏が処分覚悟で機密文書を漏洩させたのかまでは分かりませんが、佐伯氏は異邦人らに恨まれる正当な理由がある」

深雪「なに?」

芳賀「彼は機密文書にアクセスできるだけの地位にあって、つまり異邦人らの都合の悪い情報を知っていた。さらに彼は福岡戦役の際、その掃討戦の指揮をとっていた」

   深雪、目を見開く。

芳賀「そう……。初めて異邦人への人権侵害が表沙汰になった、あの掃討戦……」

   深雪、考える。

M(深雪)「そうか。今までは国に守られていたけど、職を失って警護が付かなくなったから、復讐を……」

深雪「でもなぜ異邦人の仕業と断定できるの?」

   横溝、したり顔。

横溝「現場にこんな紋章が残されていたからだ」

   横溝、警察手帳を開き、中の写真を深雪に見せる。深雪、その写真を見た瞬間に目を剥く。

深雪「これは……」

   横溝の写真は、血で書かれた三本足のカラス(ヤタガラス)の紋章。これは日本国内に潜伏する異邦人の地下組織で、日本の国家転覆を目論むとされる。

芳賀「ヤタガラス」

   深雪、芳賀を見やる。

芳賀「我々も手を焼いています。幻想界からやってきた異邦人らを束ねる地下組織。彼らはこの日本国の国家転覆を目論んでいる」

   深雪、絶句してうつむく。しばし沈黙。

深雪「じゃあ、じゃあさぁ……」

   横溝、芳賀、深雪を見る。

深雪「ニュースでやってた、妻と子供を道連れにしたっていう無理心中ってさぁ……」

   芳賀、目頭を揉む。

深雪「全部あいつらの仕業じゃん!? ……」

   横溝の覚悟の眼差し。


◯  芳賀の執務室・外

   芳賀の執務室のドアを背にして並んで立つ横溝、深雪。しばし無言の二人。

横溝「災難だな。俺みたいな捨てられた世代とチームを組むなんて」

深雪「人と協力したことあんの?」

横溝「あるさ。これでも一応警察官なんだ」

   横溝の怜悧な眼差し。横溝のスマートフォン、鳴る。横溝、ズボンのポケットからスマートフォンを取り出していじる。深雪、物珍しそうにスマートフォンを見る。横溝の薬指に結婚指輪が光る。横溝、深雪をチラと見る。

横溝「珍しいか? スマホ」

深雪「ううん。指輪見てた」

横溝「これか」

   横溝、結婚指輪をまじまじと見る。

横溝「結婚して二十五年はたつなぁ……。色白で、今もきれいだ……」

深雪「どうやって出会ったの?」

横溝「なんだ、やけに興味津々じゃないか」

深雪「いいから話せよ」

横溝「さあな。たまたま住んでた部屋が隣同士で、いろいろあって……」

深雪「ナンパ?」

横溝「まさか」

深雪「そうだろ」

横溝「違う」

深雪「違くない」

横溝「そんな不純なことは!」

深雪「ナンパが不純なんて、いつの時代だ!」

横溝「なんだと⁉︎」  

   取っ組み合う二人。

望月「すみません」

   深雪と横溝、望月花(二十八歳・女性)を見る。望月、長い黒髪を腰まで垂らし、目尻には泣きぼくろ、色白の瓜実顔の美人。

望月「芳賀副室長は公務がありますので、どうかお静かに」

   望月、深く腰を折る。横溝、デレデレして弁明。

横溝「いいやぁ。捜査のことで行き違いがぁ……」

   深雪、横溝を睨む。

M(深雪)「コイツ! 嘘や威嚇はお手のものか!」

   望月、顔を上げる。笑顔の望月。望月、会釈して立ち去る。横溝と深雪、望月の背中を見つめる。


◯  葬儀師庁本庁舎・外

   本庁舎の外に出る深雪と横溝。深雪、背伸びをする。横溝、ポケットに手を突っ込む。

横溝「よろしく。お嬢ちゃん」

深雪「深雪」

   横溝、深雪を見る。深雪も横溝を見る。

深雪「私の名前は深雪」

横溝「そうか。よろしく。深雪ちゃん」

深雪「気安く呼ばないで」

横溝「(憤懣やるかたない)んん……生意気なぁ……」

   深雪、笑い出す。横溝、深雪を怪訝そうに見るが、やがて自分も笑いだす。しばし笑う二人。

深雪「なんか上手くいきそうな気がする。警部さん」

横溝「警部補だ。階級を上げてくれてありがとさん」

深雪「はいはい。横溝警部補」

   大胆不敵に笑う深雪、横溝。

   (エンディング)




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