ボイトレは、万能ではない。
というのは、別にボイストレーニングそのものを否定してる訳ではない。
ボイトレは、声の出し方や歌い方を学んで、色んな歌を歌えるようにするような技法を学びに行くところなのであるが。
声質そのものの中には、変えられない要素が幾つもあるから、憧れた人の声と100%同じ声など出せないってのを分かってない人が、相当数いるということを言いたいのである。
その人たちに言いたい言葉が「ボイトレは万能ではありません」ということなのである。天から与えられた声ってのも確かにあるのだ。
というのは。
たまに歌を歌いたいという志の方というか、それも音楽の事などあまり考えた事も無い初心者の方が来た時に、共通に感じる事があって。
「この人みたいな歌が歌いたいんです!」
と言われて、どう答えていいか答えに窮する時がある。
というのは、どんな声も、先生について練習すれば出せるようになる、という大いなる勘違いをしている初心者の人は確かにいる、のだ。
これ、歌の事を良く知ってる方なら、少し考えればあり得ないと、即座に悟れる話なのだろうが、まったくそういうことを考えた事のない人というのは、先生や練習ということについて、過大な期待感をもってしまっているケースが見受けられるのだ。
そんな人いるの?いるんですよ。
結構、いい年した大人の人でも、平気でそういうことを言い出す方はいるのである。これは仕方のないことでもあるのだが。
まず、人間というのは、当たり前だが、体つきが似てる人は、そうそういない。
骨格、肉付き、脂肪、頭蓋骨の大きさ、背、骨密度、体内の水分量。
私が良く言ってる「デブにはデブの声がある。ガリにはガリの声がある。」というやつだ。
例えば、胸を振動させると、肋骨の振動が混ざる人と、肉や脂肪で肋骨の振動が混ざらない人がいる。
前者が歌うと、言わば、ディストーションがかかったような声になる人がいる。そういう人が歌うと、高いんだか低いんだかよく分からないような声になる。
当然、そんな声は、スーパーボインのオネェさんにはだせないかもしれない。大体、その肋骨を何が覆っているのかでも、微妙に響きが変わってくるのだから、同じような歌い方をしてるはずなのに、全く効果が変わってくる。
当然、そういうのは、頭蓋骨の共鳴にも影響する。
昔々、80年代、シマあつこ先生の8ビート・ギャグという、洋楽のミュージシャンをネタにしていたマンガがあったが、その中のネタに「大顔連」というのがあった。(いまでも現役で活動されてます)
発狂する位、笑わせて頂いたが、これが本当によく特徴を捉えておられて、本当に80年代のバンドって、メンバーも背が高くでデカいメンバーのはずなのに、ボーカルは、さらに、何か、これパース狂ってね?レベルで顔から何から全部デカい。特に顔なんか、他のメンバーなんか目じゃねぇよ、位、ぬいぐるみみたいにデカいのである。
シマあつこ先生、ありがとうございます。
私はあなたのマンガに、中学生の頃、ボーカルの重大なヒントを教えて頂いた気がしてます。それが、今まで私を、この場に立たせ続けさせてくださいました。
よくよく考えたら、あらかた顔のデカいのはボーカルだったのだが。当然、写真の中だって「あ、この人がボーカル・・・」レベルで、13歳のガキでも見て分かる位、もう存在感なんか半端ない訳ですよ。
自分、本当に分かりやすい事例を見れたことが経験値になっていたのかもしれない・・・。だって、日本のその頃のミュージシャンで、そこまでパースがおかしい人なんかいないから。
あー、これ、喉だけじゃなくて、顔も体も全部影響してるのか・・・そりゃ日本人がどんなに頑張ったって、あの声が出ねぇわけだ・・・
そんな人を指さして、目をキラキラさせて「この人みたいな声になりたい!」って言われたら、僕どうしよう・・・
「いい事教えようか・・・そこの窓から飛び降りて・・・」
冗談じゃなくて、生まれ変わるしかないのである。
というのは、ボイトレで、歌い方、体の使い方、声の出し方を教える事は出来ても、生まれついての身体に起因する声の質そのものまでは変えられないのである。
肉体改造しかないんだが。
身長160cm 位しかないような人が、往年の和田アキ子さんみたいな「んあんのころうぁ!ふったりとも!」みたいな声だせるかと言ったら・・・無理だべ・・・。
だが、夢に燃える人は、時折、そんな当たり前の事にも気づかない。
あと、それとは別に、年輪の刻む声、というのも当然ある。じーちゃんばーちゃんの声みたいなのは、そりゃ、年取らなきゃ出ないんだよね。
こればっかりは、声優さんが、どんなに頑張って演技しても、違和感が禁じ得ないところなんだよな・・・しゃがれてかすれて弱々しくなった声は、落語家だって厳しいのである。だから、前座みたいな若い人が、年寄りみたいな声を無理やり出そうとしても出やせんから、やらせない演目もあるという。
ましてや歌である。初心者の人が、そんなジサマバサマの声を無理やり出しながら、音程を取ろうなんて事を考えて、まともに上手く行くはずがない。
何かの演技をして声を作りながら、ピタッと音程を取るなんてのは、2つの事を同時にこなす、ということなのである。ギター弾きながら歌うのだって難しいのに、キャラの演技しながら歌うとかできるのか、という話。
作り声は、ほぼほぼ、喉で出ているのだから、負担も半端ない。
それで、ステージを圧倒する響きみたいなのを保つというのは、根性焼きしながら、顔色一つ変えずに笑いながらギャグを言い続けるようなものである。
悪い事言わんからやめとけ・・・自分、ぶきっちょで仕事が苦手だから、会社でも「お前はのろまのカメだ!」みたいに言われてるから、歌えるようになって見返してやりたいんだ!みたいな事をさっきまで言ってた人が・・・会社なんかより遥かにハードでシビアなマルチタスクをこなすのは。
はい。これ、54年間の私の人生の中で、少なくとも10回以上遭遇して、マジで言われた話です。
学校でいじめられた、会社で役に立たない、うんぬんかんぬんの理由は別として、音楽が出来るようになって見返してやりたい、って復讐心が先に立ってる人って、たまにいるのである。
こういう子ほど、もう、その「自分を虐めた人を、上手い歌歌って見返してる」構図が額縁に入ってしまっているので、その目的の達成に協力しない人間も、全て敵扱いしかねないのである。
だから、音楽を何かの復讐の材料に使うなよ・・・それが学歴コンプレックスとか何だか、他知らんけどさ。
こういう人は大方、ハイハイ素直に言う事を聞いて、思い通りにさせないと目の前の味方にすら牙をむきかねないのである。コンプレックスの塊の八つ当たりの相手を務めなければいけなくなる。
つーて、どうにもならんものは、どうにもならんしなぁ・・・。
練習させても、当然、そんな声になりはしない事も分かって、練習させながら、少しずつ音楽の理解を深めさせ・・・徐々に性格も変わってきたところで、声質の話をしながら、とかしたいとこなんだが。
ここに性格がせっかちで、すぐ思い通りにならないと気が済まない、とかなると。
結果が出ない八つ当たりを周りの人たちに開始するのである。
もう、そんなの何十人も見てきて、分かってるんだ。
あー、また来た!
ナンマンダブナンマンダブ。悪霊退散怨敵退散!
はらったま!きよったま!
どうも私も、そういう子を寄せるハメルンの笛を持ってるっぽくて。
おかしいなぁ・・・こんなの俺、自力で気づいたけど・・・。
「Renさん、真面目に相手しなきゃいいのに。」
と仲間にも言われるのだが。
大概、最初は真面目ないい子のふりをして近づいてくるのですけど、何度か話しているうちに、噛みつき出すのである。
私の声や歌は、哀しい人を寄せてしまうのだ、と思った時。
マジでこの声、要らない、と思ってしまったのだ。