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秘密の魔法少女

※即興小説トレーニングで書いたお話です。
お題:暴かれた、と彼は言った
制限時間:1時間
文字数:1864字
掲載元:http://sokkyo-shosetsu.com/novel.php?id=605313

 放課後。
 教室で荷物をまとめたところで、さて帰るか、となったところで僕のスマホが通知を告げた。
「今日、この後用事ある? ちょっと話したいことがあるんだけど」
と、あいつから連絡が入った。
 今日は病欠を理由に学校を休んだあいつ、から。

「なあ聞いてくれよーーー!!」
 河川敷の公園で落ち合ったと同時に、僕は私服姿のあいつから叫ばれながら抱きつかれた。
「なんだよそんな大袈裟に」
「大袈裟にとはなんだよ!」
「お前の話って、十中八九盛ってるからな」
「そんなことないって、っていうか今回は割とマジでやばいんだけど」
 言いながら、あいつの声音がだんだん弱々しくなっていった。
 うん? どうやらいつもと調子が違うな? 
 僕は勘づいた。
「で、話ってなんだよ」
 言って、近くにあったベンチに二人で座った。
「俺の、正体……どうやらバレちゃったみたいなんだよね」
「え、……は?」
「マジでマジで」
「は? 誰に? まさか敵対陣営にとか……」
「まさにその通り」
 ベンチの上で三角座りあいつは、頷いて顔を伏せてしまった。
「マジかよ……」
「マジもんのマジ、こればっかりは本当」
「うっそだろ」
「こんなところで嘘ついたってしょうがねーだろうが!」
 あいつは、がばっと顔を上げて僕の方を見た。目が若干潤んでいた。

 実をいうと目の前にいるこいつ、世界の危機から人々を守る魔法少女なんです。
 魔法少女? どう見たってこいつ男の子じゃん? と思われるかもしれませんが、いえいえ、ちゃんと立派な変身魔法少女なんですよ。周りには秘密ですけどね。
 平日日中は学校があるので、活動時間は主に平日の夜間や週末祝日がメイン。1日の戦闘時間は1時間まで、と決めて勉強との両立もバッチリ。なんで戦うのに制限時間があるのかというと、1時間が経過すると変身が解けて魔法が全く使えないただの軟弱男子中学生に戻ってしまうから。
 世界を滅ぼそうとする敵対勢力と必死に戦う魔法少女の姿というのは、僕が言うのもなんですが結構見応えがあるんですよ。おまけになかなか出来ない体験ですから貴重でもありますしね。
 ちなみに僕は、もっぱらこいつの戦いを見守りつつ後方支援を時々やらさせてもらってるただの一般男子中学生です。

「そもそもあいつらはどうやってお前の正体を暴いたんだ……?」
 僕がポツリと言うと、あいつは意気消沈といった声音でこう言った。
「ストーカーされてたみたいで……」
「す、ストーカー?」
「朝の通学から帰宅まで、ひっそり尾行されてたっぽいんだよね」
「マジかよ」
 地道な活動にも恐れ入るが、それぐらいに相手はこちらに対して執念を持っているとも取れる。
「俺の制服姿の写真とかいっぱい入った封筒がおととい急に送られてきて……めっちゃビビった」
「それはダメージでかいよな……」
「ネット上で写真がアップされてるかどうかは、怖くてまだチェックできてない」
「いやそれはすぐに確認しろって」
 俺は制服の胸ポケットからスマホを取り出して検索を始めた。その傍で、あいつは弱々しく言う。
「どうしよう……俺の正体これでモロバレじゃん……どうすりゃいいんだよ」
「めっちゃ弱気じゃん」
「当たり前だろ……学校行くのもこわいし」
「でもこの外出は?」
「これはお前に話を聞いてもらいたいから、思い切って」
「あっそう……」
 これはこれ、それはそれ、ってやつか。お前それでいいのか? とも少し思うけど、そこにつっこんでいる場合ではなさそうだ。
 話しながら検索をかけてはみたものの、特に引っかかるものは見当たらなかった。まだネット上ではリークはされていないっぽい。
「今の所、ネット上は特に写真とか見当たらないみたいだな」
「そっか。……でも時間の問題だよなあ」
「それはそうだけどな」
「まさか向こうがこんな精神攻撃仕掛けてくるなんて思わなかったわ……」
「最近もっぱら肉弾戦だったもんな、お前。ひょっとするとあいつら、今後心理戦に持ち込んでくる可能性もあるってことじゃね?」
「えーーー、マジかあ」
 あいつは空を見上げながら大きな声でぼやいた。
「いつもの戦闘なら、頭であんまり考えずに反射的に体が動いてたから戦えてたけど……心理戦かあ」
「戦いのレベルがまた一段上がったってわけだ」
「はあ……」
 陽がだいぶ傾いてきて、空がオレンジ色に染まりつつある。
 あいつの声に耳を傾けながらも、やっぱり世界を救うのって並大抵のことじゃないんだな、と僕はぼんやり考えていたのだった。

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