18匁「すべてのものには意味がある」製作後記#atgm_2020
「2020GW運営のあんたがたに挑戦します」で、18匁の音楽カテゴリ「すべてのものには意味がある」のメイン作問を担当いたしました、Renと申します。
「誰?」というかたも多いと思うので簡単に述べますと、謎解きが好きで、たまたま絶対音感持ちの一般人です。特にどこに所属だとか謎製作経験があるわけでもなく、GWに本家に初参加し、ノリと勢いだけで空気を読まずに飛び込みました。 その節は他GMの皆さん、本当にありがとうございました。
このnoteには、18匁の製作過程そのものを書いてあります。
作問に込めた思いなどは、既に公式解説のほうでこれでもかというほど書きましたので、そちらをお読みいただければと思います。どっちも長いのでご注意くださいね。
まず、本家27匁「よく聴いて、よく見て」のパロディをどういうふうにしようかと、GM陣から音楽経験者が集まります。
最初は様々な案が出てましたが、とにかく新世界の聴き分けで熱が出るほど苦労したので、何かを聴き分けさせてやろうという挑戦的な方向に。
聴き分け→暗号なら何でもやりようがあるなぁ、というときに、サブ作問者が思いつきで提案しました。
「展覧会の絵のプロムナードを延々聴かせたい」
さてここから悪ノリ開始です。
「プロムナード5つ重ねて逆再生するの?()」
「本家と同じく移調する?」
「音色の違いを混ぜる?」
「単音でずらす?」
言いたい放題。
で、とりあえず重ねて逆再生した音源を聴いてみようということになるのですが、著作隣接権の関係で音源を自前で用意しなければなりません。
Renは音楽ソフトが使えません。
というかそもそもITに強くありません。正確に言うと、情報が15年前で止まっていました。
なので、作問の進捗もここで2週間止まってしまい、もう諦めようかと思ったときに、サブ作問者が音源を作ってきてくれて、二人体制で再度動き出します。
この時点で、「間違い探し」で数字を出したいというところは固めていて、はたして人間に聴き分けが可能なのかどうかと、その数字をどう現地に繋げるかが課題でした。
先に「展覧会の絵に関係ある現地」を探し始めます。
作曲者のムソルグスキーが、友人の絵を見たその展覧会は、ペテルブルク美術アカデミー(現・サンクトペテルブルク芸術アカデミー)で開催されていたので、そこと関係がありそうな日本国内の現地を検索すると、交流プログラムを実施している武蔵野美術大学と、かつてペテルブルク美術館として営業していた現・似鳥美術館が見つかり、このどちらか付近を現地にしようと考えます。
また、当初、第一~第五プロムナードを重ねて5桁の数字を導く予定だったので、郵便局の取扱店番号が候補でしたが、本家に倣い楽典どおりに復号するためには数字にゼロを含むことができないため、なかなか定まりません。
さらに、第一と第五の調は同じなのでさすがに聴き分けが無理、ということもあり第四までの四桁になり、今度は銀行コードが候補になります。
似鳥美術館は旧・北海道拓殖銀行小樽支店でしたので、その銀行コードを調べてもやはりゼロが含まれていて、うーん、と思ったときに目に飛び込んできたのが、東証コードの8312。これなら行けます。しかも似鳥美術館のw3w「ふりこむ・ゆきみ・まぜた」が、この問題に驚くほどピッタリです。
ただし、東証コードだけでは小樽支店を確定する要素がないので、また調べまくると、小林多喜二というよく目にする名前が出てきました。ということで、かつて多喜二が勤務していたという情報をどう足すかを考えます。
それはそれとして、間違い探しで8312+多喜二で現地、では短かすぎるので、そこに暗号を挟みたいと思います。本家に寄せることも考慮し、ドヴォルザーク→dvorak配列のように、ムソルグスキー配列みたいなのがないかと(あるわけがない)探していると、展覧会の絵をオーケストラアレンジしたラヴェルが「ハイドンの名によるメヌエット」と「フォーレの名による子守歌」という曲で使用した暗号が見つかりました。これは使えそうです。
そして、これまで集めた情報のピースを繋ぎ合わせたり嵌め込んだりして、間違い探し→ラヴェルを示す一文&蟹工船、という謎の流れができました。
蟹工船の曲も、当初は楽譜を載せようとしてたんですが、たまたまサブ作問者が「H=シをスネアドラムの音で示す」という仕様で音源を作ってくれたので、これ音感班なら普通に採譜できるなと思って、軽率にファイルのみになりました。音感班の中でもファイル別に難易度を分けた形となり、しかも同時進行が可能という親切設計に。(そもそもこの問題で音感班が頑張るのは2つのファイルの聴き取りだけで、あとは楽譜がちょっと読めれば、検索でゴリ押せたはずなんです。※個人の意見です。)
初期の出題イメージがこちら。
はい、実はこの段階ではタイトルは、本家のヒントそのまま、「逆再生に意味はない」でした。
そしてここから、ほんの思いつきで、解く側も作る側も難易度が爆上がっていくことになります。
「暗号も逆再生にしちゃえば、『逆再生に意味はある』にできるじゃん」
「いっそのこと『すべてのものには理由がある』でもいいじゃん」
思いつきってコワイデスネー。
これにより、
・ファイル2も逆再生にしよう
・英語にする意味がないから、各作曲家に関連する言語にしよう
・本家に寄せるため、暗号文は一文にまとめて、スペースは詰めよう
・本家と同じく、暗号文だけは先に復号できるように、文頭大文字とピリオドを設置して順再生(?)であることを示し、アクサンテギュを残してフランス語であることを示唆しよう
・フォントにも意味がいるので、似鳥美術館公式サイトと同じにしたい……有料フォントで誰も持ってない? じゃあ本家と同じにしよう
ここまで一息でした。
……正直、ここでやめとけばよかったかなぁと、終わった今では思います。
見つけちゃったんですよね。「ハイドンの名によるメヌエット」の余白に書かれたラヴェルのメモを。
五線譜に逆さに書かれたト音記号を。
曲名で画像検索すれば出てきます。
「楽譜を上下逆さまに見て演奏」というやり方自体はバッハの頃からあるわけで(反行カノン。練習曲で広く知られるインヴェンションの1番の一部にも見られる。あとは蟹のカノン(逆行カノン)……は、まぁいわば左右の逆再生ですけど、面白いからぜひ検索を。奇しくも蟹だし。)、何ら不自然ではありません。ありませんてば。
というわけで最後に、「ハイドンの名によるメヌエットでのラヴェルのやりかたに従って」楽譜をひっくり返し、これで完成しました。完成日は6/8。止まってた期間を除けば約2週間です。イベント全体からしても、とても早いほうでした。
こう振り返ると、我ながらよくこれだけ綺麗な流れにできたなぁと思うんですが。……ですが。
全問デバッグ班に指摘された、「↑8↑3→1↓2を、四桁の数字として捉えるという導線が弱い」(タイトルから、1234でも2536でもなくこの数字でのずらしかたであることに意味があると読み取る、以外にない)ということを、他の導線もあるから丹念に検索すればわかるだろうと修正無しで押し切った結果、正に懸念の通りになってしまって、ここは本当に、私の先入観のせいで、反省点です。むしろ最初に気づかれてメタられることを恐れていたくらいでした。
他にも、私が画像処理ソフトの操作をミスしたせいでゴミを残してしまっていたり、実は出題直前に「dropboxにGoogleアカウントでログインしていたせいでGM名がバレる(百歩譲ってバレてもヨシとしても、問題を解くにあたり「意味がない」のでダメ)」ことが判明して差し替えたりと、技術不足により周囲を振り回しまくりました。ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。
所々において、もっと丁寧にできたなぁとは思いますが、謎の流れとまとまりそのものは、本当に気に入っています。管弦楽の魔術師や蟹工船が出てきたときの驚きも、味わっていただけたんではないかと思っています。
改めまして、本家の作問者様、解いてくださった皆様、本当にありがとうございました。
さて、人生初のGMかつ人生初の大型作問で1プロムナード=19時間55分という名誉なんだか不名誉なんだかよくわからない記録を樹立させてしまった私は、次のときにはどういう立場でどういう謎と向き合っているんでしょうかねぇ……