今日も働く、人類へ
野崎まど『タイタン』
至高のAI『タイタン』により、社会が平和に保たれた未来。
人類は≪仕事≫から解放され、自由を謳歌していた。
しかし、心理学を趣味とする内匠成果【ないしょうせいか】のもとを訪れた、
世界でほんの一握りの≪就労者≫ナレインが彼女に告げる。
「貴方に≪仕事≫を頼みたい」
彼女に託された≪仕事≫は、突如として機能不全に陥った
タイタンのカウンセリングだった――。
(講談社BOOK倶楽部より引用)
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000326715
いやはや、どこから書こうか。
とにかく凄すぎる。
この作品は、『仕事』の話。
あらすじにもあるように、作品の舞台となる2205年では、人類はほとんど≪仕事≫をしていない。
どういう世界なのか。いきなり出だしからハッとさせられる。
内匠成果は≪ウォーキング≫をしてみようと思う。しかし人類は≪ウォーキング≫をしなくても生きていける。移動用のタイタンに乗ればどこへでも行ける。家の中でも移動機がどこへでも連れて行ってくれる。≪ウォーキング≫はあくまでも健康に気をつかって少しやってみるというものだ。
内匠成果は≪コレクト≫をしようと思う。雑貨屋で良いと思ったものを鞄に入れる。服屋で良いと思ったものを鞄に入れる。家具屋では「これを」とタイタンに伝えれば配送手配が完了する。商品を作るのも、運ぶのも、コレクトモールに並べるのも、全てがタイタンの≪仕事≫。支払いはない。というか通貨がない。支払われるということも支払うということも何もない。人類はタイタンの用意したものを≪収集(コレクト)≫するだけで良い。
そうなるのか。驚きと同時に納得してしまう。人類がしていた≪仕事≫をすべてAIが行えるようになると、何もかも概念が変わってしまう。
そうして気付く。身の回りには≪仕事≫によって成り立っているものがこんなにも多いのかと。目に入るあれもこれも、すべて≪仕事≫だ。
この世界には、≪仕事≫がたくさんある。
だからこそ、作品を通じて問いかけられるテーマ。
『仕事』とは何か。『働く』とは何か。
人類が≪仕事≫をすることのない世界で問いかけられるそのテーマは。
決して遠い未来でも、別の世界の話でもないなと思った。
ストーリーについては、是非読んでいただきたい、とだけ書いておこう。
上に触りをちょっと書いてるので、後はあまり書かない方がきっと良い。
どう転ぶか分からない展開。次に待ち受けるのは何か。
人類と、AI『タイタン』の未来は。
なにせ「野崎まど」だから。
予想とか、想定とか、常識とか、概念とか、そういうものは野崎まどの前には皆無です。諦めてください。
諦めててもなお創られる新しい世界に振り回されるのよ。
さて、自分は。
『仕事』をしようか。
今日も働く、人類として。