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白い椅子

私は、今、狭い部屋の中にいる。
もう一時間程、この部屋から出られずにいるのだ。

目の前に見えるドアノブにはしっかりと鍵がかけられている。
内鍵だ。

一時間前、私は突然、ただならぬ衝動に駆られた。
お気に入りの本を手に取り、吸い寄せられるようにこの部屋に入った。

一畳ほどの部屋の中央には、白い椅子が一つ。
これに座ったのが悪夢の始まりだった。
私はその椅子から立ち上がれなくなったのだ。もう用は済んだのに。

座面の暖かさ、閉鎖的な空間、誰にも見られていない安心感。
妙に居心地の良さを感じてしまう。
オレンジのライト、足元に敷かれたマット、片隅に置かれた造花。
彼らが、私の立ち上がろうとする気力を吸い取っていく。

一層このままでもいいと思いかけたその時、

コンコン

「パパ~、早くしてよ。いつまで入ってるの?」
我が子の声がする。我に返った私は、水を流し、ドアを開けた。

部屋を出て、気付いた。
本を持って入る必要はなかった。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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