一度カーテンが閉まると…
あの部屋に入る時は、冷静に、慎重に。
それが鉄則だ。
私は数枚の衣服を抱きかかえ、その部屋を見つめていた。
入口には門番が威圧感のある笑顔で立っている。一度入ってしまうと手ぶらで出ることは不可能なのではないかと思わせるほどの気迫だ。
もちろん、私もその気でここにやってきたのだが、いざ、あの部屋を前にすると本当に必要なのか、自分の身の丈に合っているのかを考えてしまう。何度も入口の前に立っては、また離れてを繰り返す。
薄い壁に仕切られた小さな個室。
正面に置かれた大きな鏡。
カーテン一枚で閉じ込められてしまう簡易的な空間。抜け出すことは容易だ。
ただ、一度入るとタダでは出られないような独特の空気がある。
だからこそ、今一度慎重にならなくてはならない。
入口の周りをウロウロしていると、どこからともなく現れた見張り役の女が、これまた輝くような笑顔で、私のもとに歩いてくる。
後ずさりする私を逃すまいとその女は溌剌とした声で言った。
「ご試着されますか?」
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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