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ここからはおまけの人生だと思いながら生きている
あれは6年前のこと。
子供達がまだ小学生の頃、家族4人で秩父へキャンプに行き、武甲山へ登山することにした。
2人の子供達と夫はひょいひょいと軽々と登っていく。それをわたしはふぅふぅ言いながら後をついて行く。汗がどんどん噴き出てくる。ちょっとほんと、辛くて無理!と思いながら登っていると、目の前に70代くらいの年配の女性が一人でペースを崩さずゆっくりと登っていた。
あんなに年配の方も登っているんだから、わたしも頑張らなくては。と思い、軽く挨拶をして抜いて行った。
やっとの思いで頂上についたところ、先程抜かした女性とまた会った。
他に登っている人もいなかったので、夫がその女性に話しかけて自然と会話が始まった。
聞くと、山が好きで旦那様を置いて、一人で各地の山に登っているとのことだった。
夫 「本当に山がお好きなんですね。いつもお一人なんですか?」
女性 「一人で色んな山に登るの。思いたったらすぐに登りにいっちゃうの。」
夫 「すごい行動力ですね。」
女性 「だって、おまけの人生だから…」
と不思議な言葉を口にした。
「わたしね、50歳の時、脳溢血で倒れて生死を彷徨ったのよ。もしかして、死んでいたかもしれなかったの。だから、目を覚ました時、わたしは一回死んだんだと思ったの。そしたら、ここからはもうおまけの人生だと思って、何でも好きなことしよう。と思ったの。だから、大好きな山にたくさん登ることにしたの。だっておまけの人生なんだから、好きなこと何でもやっていいのよ。」
それを聞いた時、すごく衝撃的だった。そしてなんて素晴らしい考え方だろうって感激した。とても大切な話を聞いた気がする。心に何か引っ掛かる。ずっと記憶に残しておこうと思った。
しばらく話して、みんなで写真を一緒に撮った。
別れた後もずっとその言葉が頭から離れなかった。おまけの人生。なんだか羨ましかった。
それから4年後、わたしはうつ病になり、今まで通りに生活するのが困難になった。
復職することも出来ず、途方に暮れた。
何か引っ掛かる…何か大事な言葉があったような…
休養して少しずつ動けるようになってからしばらくして、何かに突き動かされるように行動するようになった。
今までとは違うんだ。家族のためだけに生きてきた人生から自分のためにも生きる人生にシフトしたんだ!ここからだ。ここから、わたしは自分のやりたいことを実現していくんだ。
それから28年間勤めた仕事は辞めた。
自分のやりたいことが出来るような仕事を見つけたいと模索した。時間に余裕を作ってやりたいことが出来るように。
そして、読みたい本は全て買い、好きな作家さんのトークイベントに参加して会いに行き、やりたい講座を受け、会いたい友達と約束して会い、行きたいところに行き、興味を持ったことを全てやるようにした。
今までのわたしなら「やらない理由」を何とか見つけてやらなかったことを、「やる理由」しか考えないことにした。
そしたら、周りの景色が変わった。見えていなかったものが見えるようになった。もっと人に優しく接することができるようになった。他人と同じく自分を大切に出来るようになった。
そこであの山に登った時のあの言葉を思い出した。
「おまけの人生」
それだ!わたしはおまけの人生を生きているんだ。今、あの女性と同じように。
あの時出会ったあの女性に、お礼を言いたい。
あの時のあの言葉、伏線を回収しましたよ。と。
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