展示プログラムと会場構成の一体感が、紙の物質感を視覚を越えて体感させてくれるーー中山英之の会場構成による、takeo paper show 2018「precision」
こんにちは。
アーキテクチャーフォト後藤です。
今日は、建築家の中山英之さんが会場構成を行った、takeo paper show 2018「precision」を見てきたので、その感想を書いてみたいと思います。
会場は表参道のスパイラル。会期は2018年6月3日17時までです。
私は、建築分野を専門としているので、ここでは展示の内容というより会場構成について書いてみたいと思います。
本当に素晴らしい会場構成だったのですが、それには、この展覧会の特徴も関連していると思います。
一般的に、すでにある絵画や作品の展覧会の場合、それらをどのように展示するのかといったレイアウトとというニュアンスが強いと思うのですが、ここで中山さんが行ったことは、決まった作品をどのように見せるかということを越えて、展覧会の内容にもアイデアが及んでいるように思いました。
そうでなければ、これほど、会場構成と展示内容が強く一致したものにはならないはずです。(上記のサイトに詳細なクレジットが記載されていますが、総合プロデューサーとして竹尾稠さん、アートディレクターとして田中義久さんのお名前が記載されていますので綿密なやり取りがあったことが想像されます。)
(第一空間。エントランスから3階のメイン会場につながる階段空間を見返す)
会場は大きく分けて3つのスペースからなります。
第一空間としてのメイン会場の3階まで続く階段のある空間では、既製品の紙を実際に触ることができる仕組みがつくられていました。
実際に使用されているであろう、茶色いクラフト紙で梱包された紙の束が、その物質感を視覚的に伝えると共に、低層部分では、そのクラフト紙が開かれていて、実際にその紙を触ったり、やぶったり、持ち帰ったりすることができるようになっていました。
実際の紙に触れるのはもちろんのこと、大量の紙の存在を想像させる紙のタワーには、展覧会を解説する文字がプリントされていてただそこにあるだけではなく、キャプションとしての役割も与えられています。
文字で書いてはありませんが、紙は、見るものではなく、触って破ったり折ったりすることで、その価値が分かるものだよと、いわれているような気がしました。
第二空間の存在を知らせる矢印も、クラフト紙でくるまれた紙の束・ロールを構成したオブジェにプリントがされています。この既存のモノを組み合わせて鑑賞に耐えうるものをサラッと作ってしまうのも凄いと思いました。(ながめているとメンフィスなどのオブジェにも見えてきます。)
(第二空間、メインの展示室の前に存在している。)
実際の既製品の紙を触ったり破ったりした後には、メイン展示室の前につくられた、第二空間に入ります。
ここでは、メイン展示室に展示されている各デザイナーが考案した紙のプロトタイプが積み上げられています。これらは、第一空間で見た紙達とは、少し何かが異なる、特別なものであることが見ていて感じ取れます。
つまり、第一空間の既製品の紙と、メインである第三空間をスムーズにつなぐ役割、もしくは、メインの展示物を暗示するために存在しています。
(第三の空間をみる。)
メイン展示室となる第三空間は、各デザイナーの考案した紙を展示する細長いテーブルと、それを照らすために意図的に低く配置された照明が印象的です。
実際の天井高は、照明面のはるか上に存在していて暗闇のたまりとなっています。必要なもの(展示物)を照らすためだけにあるような照明による暗さ、そしてその重心の低さは、まるで、どこかの研究所や博物館のような雰囲気を生み出していました。
それが、今回の実験的につくられた紙の展示物を見るということに非常に適しているのです。
(展示デザイナーの一人、原田祐馬さんの作品。)
木製で特別に作られたであろうテーブルには、黒い別珍のようなテキスタイルが張られています。それは光を反射しないことで紙の存在感を際立たせていますし、テーブルの端部は、若干上部に反り上がるようなつくりになっていて、展示物である紙に触っても、下に落ちにくいデザインとなってています(そしてその反りは黒いテキスタイルの存在もあり触ってみなければ視覚的にはほとんど気がつきません)。
また、それぞれのテーブルには、解説の為の専属のスタッフの方が常駐しており、説明を聞くことができます。このような体制もラボ的な感覚を生み出す効果の一因になっていました。
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展示の流れに沿いながら、気になった点を書き連ねてきました。
さらに、この展示は、3つの空間が、それぞれが独立して、意味を持っていながらも、それぞれがお互いに無くてはならない役割を果たしていることも注目すべきです。
メイン展示室(第三空間)で見られるデザイナーによる特別な紙の、その特別さを感じるためには、第一室の通常の紙を訪問者が知っている必要があるのです。
そして第二室は、特別な紙の展示と、通常の紙の展示という異なる展示をスムーズにつなげつつ、気持ちを切り替えさせる役割を担っています。
このスペースが挟み込まれていることで、訪問者は特別なものをこれから見る、という気分に切り替わり始めるはずです。
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スパイラルという美術の展示空間ではないスペース、しかも不定形な個性の強い空間に、それぞれの展示物をフィットさせ、空間を3つに区切り、それぞれに異なる役割を与え、またそれらが相互に補完する役割を持っている。またそれが訪問者を楽しませる展示であると共に、企業のプロモーションとしてもあざとさなしに機能しています。
そして最初にも書きましたが、展示物とその構成がどちらが先かわからないほどに混ざり合い一体化している。
非常に緻密で計算された会場構成を経験して、中山英之さんの構想力に改めて感嘆させられたのでした。
会期は明日までですが、是非ともお勧めしたい展覧会でした。
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