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青木淳さんの「矛盾を見つけてそれを解決する」という建築の作り方を、アドルフ・ロースで考える

こんにちは。
アーキテクチャーフォトの後藤です。

今日は、青木淳さんのほぼ日での糸井重里さんとの対談中の言葉を紹介してたいと思います。
そして、丁度最近a+u誌で2号に渡って特集があった、アドルフ・ロースの建築について、青木さんの言葉で読み解くことができる部分があったなあ、と思い返したことを書いてみたいと思います。

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(青木淳さんは日本を代表する建築家で、ルイヴィトンの表参道店をはじめ多くの建築設計を手掛けていることでも知られています)

(アドルフ・ロースは、オーストリア・ウィーンを中心に1900年頃活躍した建築家で、「装飾と罪悪」など今でも読み継がれている論考を発表したり、近代における代表的な建築家のひとりとして今も参照され続けています)

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タイトルでも紹介した言葉は、2006年にほぼ日刊イトイ新聞に連載された対談中での言葉です。(これは今読んでも凄く面白いので未見の方にはお勧めしたいです)

矛盾を見つけて
それを解決するというのが、
初歩の建築のやりかたなんです。

(青木淳)

2006年というと約12年前で、私は当時大学院を卒業してすぐでした。

なぜ、この言葉が印象に残ったのかはハッキリと覚えていないのですが、理屈ではなく直感的に、腑に落ちたのでしょう。今でも、この「矛盾を見つけて解決する」という考え方を建築を見るときに意識しているような気がします。

ちなみに、青木さんの最新著書『フラジャイル・コンセプト』では、「くうき」を作るということに結構な部分が割かれていて、それは、上記の問題解をスタートにする(青木さんいわく)「初歩の」建築の(デザインでもそうかも)方法から離れて、より繊細な建築をつくる方法が緻密に語られています。
こちらも凄く面白いのでおススメです。

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この「矛盾を見つけてそれを解決するというのが、初歩の建築のやりかた」という言葉を読んで以降に、私はオーストリア・プラハとアドルフ・ロースの主要な作品を見て回ったことがあるのですが、実際に見てみると、そこの色々な部分に関して腑に落ちるデザインをロース建築の中に発見したのです。そのことを、先に書いたロースの特集号を見ていて思いだしたのでちょっと書きたいなと思って、PCに向かいました。

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これは、1911年に完成したロース設計の「ロース・ハウス」と呼ばれている建築です。初期には服飾店舗の複合施設として建てられたのですが、現在は銀行として使われています。上部の装飾の排除されたファサードの作り方が建設時に話題になったようですが、今回は「矛盾を解決する」という視点で見てみたいと思います。

私がこの視点でなるほど、と思ったのは、エントランス部分の作り方です。

よりアップの写真がこちら。

建物を横に二分割するように、素材に変化を付けており、低層部には模様のハッキリとした石材を使用しています。
そして、古典建築を想起させる柱が並べられており、建物ボリュームをくり抜いたかのような天井高のあるポーチのような空間を作り出しています。そして、その中央奥に、建物内へ入るドアが設けられています。

このデザインを実際に見たときに、青木さんのいう矛盾を解決したデザインだなと感じたことを覚えています。

その時に考えた事を書いていきます。

このロース・ハウスのような都市の中にある建築物の場合、都市的なスケール(より大きなスケール)でデザインすることが求められます。
例えば、建物のエントランスが何処に位置しているのかが都市的なスケール(例えば遠方からでも)分かりやすいことが求められますし、広い前面道路の広いスケール感にも合致するデザインでなければ、違和感が生まれてしまいます。

しかし、その逆に、建物というのは人間が使うものでもあります。ヒューマンスケールという言葉があるように、建築の各部分が、人間の体の大きさに合わせたデザインでなければ使い心地が悪くなってしまうのは、誰しもが想像できるでしょう。

ここに、矛盾があると言えます。
この敷地における建築というのは、都市的なスケールでデザインしなければいけないけれど、同時に訪問する人間のスケールも意識したものでなければいけないのです。

どちらかを満たす最も簡単なデザインというのはすぐに想像がつきます。
例えば、めちゃくちゃ大きなドアをデザインすること。そうすることで、その巨大さから、その建物のエントランスは何処からでも認識可能ですし、都市のスケール感にも合致するでしょう。(しかし、扉は非常に大きくなってしまったり、重くて開けるのにも一苦労といった不具合が容易に想像できます。)

逆に人間が使いやすいサイズだけに注目してもデザインすることは簡単です。一般的な人間が使用するサイズのドアを調べて(もしくは既製品を)、建物に設置すればよいのです。(しかし、これでは、半公共的な建物の入口が何処にあるのか分かりにくく、訪問者が混乱してしまうのが日常化してしまうでしょう)

というように、片方だけを満たすことは簡単ですが、どちらもうまく機能されないことが容易に想像されます。

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この都市的スケールでありながら、ヒューマンスケールにしなければいけない、という矛盾を実際のロースハウスは上手く解決し、デザインとして表現していると思います。

まず、建物の一番目立つ角に、高い天井高を持った、ポーチのような大空間を空間を作ったこと。これによって、建物のこの場所が、入口であることが都市的なスケールの中で誰にでも認識することができます。
そして、列柱を配置することで、道路と敷地に境界を暗示させつつも、内外の連続性は保たれています(この列柱のデザインはこの面だけに採用されているところもポイントです。しかし同種の石材で仕上げられているため外観全体の連続性は保持されています)。

そして、ポーチの奥の面はガラスの仕上げとし、その中心にヒューマンなスケールのドアが取り付けられています。
この建物を訪問した人は、視覚的に迷うことなく道路からポーチ的空間に移動し、適切なスケールでつくられたエントランスから建物内に入っていくことができるように設計されているのです。

(もちろんですが、ロースはこの矛盾を解決するという、ある意味機能的な問題ではなく、建築の歴史性や、彼自身の思想、社会背景、などを複合して考えて、このロースハウスを設計しているとおもいます。その一要素を取り出して解説してみました。)

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ロースに限らず、建築の名作と呼ばれる作品を訪れてみると、様々な矛盾を解決するために考案された構成やディテールに出会うことがあります、それらのディテールは時に複雑で、現代のシンプルに解いた建築に比べて、インパクトという視点では欠ける部分があるという見方も出来るかもしれません。
しかし、じっくりと眺めて、その設計者の気持ちになってみる設計プロセスを想像してみるという追体験が可能ですし、訪問者に学びを与えてくれる建築であるとも言えます。

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「矛盾を見つけてそれを解決する」という考え方は、建築のみならず、様々なデザイン分野でも応用可能だと思っています。

是非、皆さんもデザインする際の参考にしてみてください。

アーキテクチャーフォトの後藤でした!


皆様に、有益な情報をご紹介できるよう活用します!