駅前のラーメン店と、郊外のラーメン店の強みの打ち出し方から、設計事務所の経営を考える
先日、自動車で、駅から少し離れた郊外に出かける用事があり、そのついでに最寄りにあった、チェーン店系のラーメン店に寄った際の気づきを書いてみたいと思います。論文ではないので、勢いで書いていた駄文ですが、ご容赦ください。
京都ラーメンを謳っているお店で、ラーメンの種類としては少し前時代的なつくりでしたが(この分野の進化は早い、、。)、濃い目の醤油のスープに背油が載っていて、ある程度のコッテリ感があり、十分に満足できる味でした(偉そうにすいません)。
お昼時に入ったのですが、僕が出るころには、少しの行列ができているくらいの、賑わいっぷりでした。
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ぼくが東京に出てきてからの話ですが、事務所の最寄り駅前に、エリアでも有名なラーメン店があり、それを食べた時の美味しさの衝撃が大きくて、しばらくそこに通ったり、大規模な駅の最寄りにある、ラーメン店に寄ることが多くなり、先に書いたような郊外のお店に行くことは少なくなっていました。
そんな状況だったので、郊外のラーメン店が、自身が想像するよりも、にぎわっていたことに、ちょっとした驚きがあったのでした。
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その時の経験を色々と考えていて、いつもながら理屈付けをしていたのですが、改めて、「同じラーメン店と言っても、それぞれの強みを生かした戦い方がある」という事に気づかされたのでした。
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ぼくが一時期足蹴く通っていた、駅前のラーメン店。こちらのお店は、商品自体が強みです。現代的な透き通って上品なスープと見た目にもきれいな盛り付け。駅の近くなので、遠方からもお客さんが通って、日々行列ができています。また、そのクオリティと比較し、値段が少しお安めに設定してある事も魅力です。
一方、ぼくがこの文章を書こうと思ったチェーン店系のラーメン店。こちらのラーメンは十分おいしいのですが、その商品は少し前時代的。でも背油の量も選べてヴォリュームはある。そして、郊外立地とチェーン系の資金力を生かして、駐車場も完備。また、4人以上が座れる対面ソファー席も複数完備されています。
両者に大きな違いはあるモノの、実際に両方のお店が繁盛しているんです。このように、事実を羅列していくと、それぞれのお店が、その強みや立地を活かして、目には見えない世の中の要望に応えて戦っていることが分かります。
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ここからは、僕の感じている強みを見ていきたいのですが、まず「駅前のラーメン店」。こちらは、その商品力が最大の武器です。そして、その武器がある事で、雑誌やメディアにも注目され、どうしてもそれを食べたい。並んででも食べたいという状況をつくりだす事ができます。
そうなると、このラーメン店の商圏というのは、かなり広くなると思います。遠方からのラーメン愛好家も想定客とすることができる。そうなった時に、駅前に立地するという事が重要な訳です。東京の交通網は発達しているので、かなり遠くからでも来てもらう事が出来る。
では「郊外のチェーン店系のラーメン店」を見てみると、その商品力は、劣ります(でも十分おいしいんですよ)。でも、駐車場が完備されていることで、そのエリアで、自動車移動で働く業種の人たちの集客を集めることができています(やはり建築系の職人さんは道具の持ち運びが必須なので車移動が多い。あと営業系の人たちも商材を運ぶ手前、車移動が多いですね)。
そして、ゆとりのあるソファー席は、週末のファミリー層にとっても利用しやすいことが想像できます(カウンターだけのラーメン店に子連れは厳しいですよね)。
簡単に書き綴っただけですが、それぞれが、自身の強みを自覚して商売をして、どちらも繁盛しているという事に気づかされます。
ここで書いたことは、もう当たり前の事ではあるのですが、やはり自分が体験した中で「なるほど」と実感した事なので、僕自身の中の納得感が非常に大きかったのです。
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さて、ここからは、この話がどう設計事務所の在り方に応用できるのか。という事も考えてみたいと思っています。
我々の建築設計業界にとって、商品というのは、「設計する建築物」であると思いますし、その商品のクオリティを如何に高めるかという事が、依頼に繋がっていくという事はあり得ます。
これは、最初に書いた駅前のラーメン店に近い考え方のように思います。商品力が高まることで、遠方のお客さんにも情報が届き、仕事を得ることができる(建築の場合は、設計者が敷地に赴くという違いはあるのですが)。そうやって、海外までも仕事のレンジを広げている方も沢山おられますよね。
これは、設計者としては、非常に正統で間違っていない方向性だと思います。
ただ、先のラーメン店のお話で、チェーン店の方を思い返すと、それだけではない設計事務所の戦い方、というのも存在するのではないかと思えてきます。
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建築設計というものは、その目的を、超単純化すれば、「お施主さんの為に良い建築を設計して建てる」というように言えると思うのですが(超単純化していますよ)。
逆に、建築設計の完成までの業務を超微細に見ていくと、様々なフェーズがあります。企画段階・初回打合せ・現場調査や法規チェック・打ち合わせでの合意形成のプロセス・現場監理・アフターケア・数年後の点検、、、、。超膨大な業務を行っています(設計者時代を思い出します)。
そうやって、細分化してみると、「商品(作品)のクオリティを上げる」とは、異なる、其々の設計事務所だからこその強みみたいなものが、見つけられると思うんです。郊外のラーメン店が、駐車場やソファ席を完備して、商品だけでないサービスでお客さんを集めているように。
もちろん、商品クオリティを上げる努力はしなくて良い。と言っているわけではなくて(郊外ラーメン店もその努力はしている)、その努力に、違った強み(サービスやメリットとも言い換えられる)が視覚化され掛け合わさる事で、強みを持った設計事務所になっていくのではないかと思うんです。
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ぼく自身の活動(アーキテクチャーフォトという建築専門メディアの運営)を振り返っても、同じように考えて、自身の強みを見つけて生き残ってきたという自負があります。
業界には既に歴史があり地位を築いている存在が沢山ありましたし、ネットが一般化する中で、資金力を持って同じ土俵に入ってくる存在もあります。そういう状況に、手持ちの強みを駆使してどうやって生き残るか。そんな事を考え続けてきました。
運営していく中で、ひとつのキーとなったのは、僕自身が設計実務に携わっていて、また設計事務所の経営についても関わった経験があったという事です。これを経験して、メディアの運営者・編集者として活動している人は、恐らくほぼいないという事にある時に気づきました。
設計していたからこそ、設計者の立場で考えることができる。経営に関わってきたからこそ、事務所の運営という視点からでも建築を見ることができる。
アーキテクチャーフォトはそういうメディアであり、だからこそ、掲載くださる建築家の立場に立った対話ややり取りができているのだと思います。
それが、アーキテクチャーフォトが、この業界で戦うためのひとつの武器になっています。
ここでは、書きませんが、僕自身が書籍を執筆していて、編集だけはなく、文章を書いて構築できることもまた強みになっていると思っています。
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文章は長くなってしまいましたが、ある程度文字にできたかなと思います。自身の強みを、自分で見出すのは、とても難しいことだと思います。僕自身もながらく、自分が何が得意で、何ができるのか、分かっていませんでした。
でも、暗中模索でも、動き出す中で、これ得意かも。とか、他の人より上手くできるかも。という様に、強みが自覚できるようになった感覚があります。
ここで書いている様な文章もそうで、美しい文章ではないですが、思ったことを簡単な文にするのは、苦も無く早くできるんです。でもこれが、自分の強みだとは思っていませんでした。
編集作業で、様々な方とやり取りする中で、誰もがスラスラと文章を書けるわけではないという事を知り、自覚した強みです。
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今回、想像以上に長くなってしまいましたが、何か皆さんが「おっ」と少しでも思ってくだされば嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします!
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