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建築のウェブ発信の現在を分析する───apが独自の編集方法を模索した理由


はじめに

architecturephotoという建築メディアは、2003年に編集長がウェブサイトを立ち上げた時から計算すると、今年で19年目に突入しています。

2003年というと、dezeenもarchdailyも存在していなかった時代です。ぼくはこの時代をインターネット黎明期と呼んでいるのですが、この時代から建築をウェブ発信しながら、ネット上の変化を見続けてきました。

そして、2020年以降の建築におけるウェブ発信を取り巻く状況は、それ以前と比べ大きく変わっているように感じていて、その中で、独自の編集方法が必要だと感じるようになりました。

2020年末頃から、チームでの編集体制に移行して、日々対話を続ける中で、編集手法が明確になってきた感覚がありそれをまとめたのが以下になります。

アーキテクチャーフォトの編集手法

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「minimal editing(最小限の編集)」と自身で言っているのですが、これは今ウェブ上で、弊サイトに掲載くださった作品をより遠くまで届けるために考えられた方法論です。

簡単に説明すると、建築家の方から提供いただいた資料を、編集チームが培った経験を駆使して、その建築作品の固有性と特質を見出します。それによって、その特質が伝わる写真をセレクトします(画像キュレーション)。

そして、建築家の方のテキストを読んで、そこで語られている事柄から、作品の固有性を生むための前提条件、独自性のある設計手法、建築家皆さんの伝えるべきヴィジョンを抜き出し、80文字程度という短い一文に圧縮します(コンセプト圧縮)。

そして、それらの写真と文章の相互関係を高めることによって、そのプロジェクトだけが持つ固有性、特別さを引き出したうえで、サイトやSNS上で発信するということを行っています。

これは、様々な建築を見て、編集して、また実務の現場に関わってきた、アーキテクチャーフォトの編集チームだからこそできる手法だと思っています。

2022年の現在、そういうことを考えて、建築メディアの運営に取り組んでいるのですが、その背景には、2020年以降の「ネット上の変化」と「建築界の変化」という二つの要因があると思っています。

2020年代のネット上の状況

2020年に入って、ぼくが実感しているのは、SNSというものが、ウェブサイトと並んで、もしくはそれ以上に重要なものになってしまったということです。

ぼく自身の感覚で言っても、SNSはウェブサイトに従属するものではなく、それぞれが単体として確立したものとして今は感じられます(2010年代にはその感覚はなかった)。

例えば、2010年代を思い返してみると、twitterは「〇〇なう」とつぶやくような牧歌的な場所でした。そしてtwitterを活用する情報メディアの多くは、ウェブサイトの更新情報をtwitterでお知らせするものとしてそれを利用してきました。アーキテクチャーフォトのtwitterの使い方を思い返してもそんな感じでした。ウェブサイトの更新情報をコピペして流す。そういう場として利用していました。

2020年代になりtwitterに変化を感じるようになりました。タイムラインがホームと最新に切り替えられるようにったのですが、ホームという方では、より反響の大きかったツイートが沢山表示されるように変化されています。

これによりtwitter側で、有益と判断されたツイートがより多く表示されるようになっている状況があります。

また、もうひとつ大きいのは、キュレーションアカウントの増加が顕著だということです(ここで言っているのは建築物の画像を貼り付けて投稿するアカウントのことです)。

ぼくは2018年に『建築家のためのウェブ発信講義』という書籍を出して、その中に「誰もがメディアになっている時代」ということを書いていたのですが、これは、自身が発見した一次情報をスマホで、投稿する時代を予想していたものであり、このようなキュレーションアカウントが数多存在するような未来は想像していませんでした。

そして、それらのアカウントを見てみると、紹介されているのは、既に著名で評価が確立されている建築家の作品が多いような印象を受けます。それは、もしその投稿の目的が、注目を集めリアクションを多く得ることが目的だとすれば、理解は簡単です。

既に評価が確立されている建築家や建築物を紹介する方が反応が良いのは間違いありません(その気持ちはメディア運営者としても理解できると思っています)。

そして、それがtwitterのアルゴリズムと相まって、著名な建築作品が、SNS上で拡散され更に有名になっていく。という状況が起こっているように思います。

これが、ネット上で今起きていることで、これを前提に、メディアだけでなく、建築家も自身の作品を発信しなければいけないということです。

建築家のつくる作品も変化

さて、もうひとつは、建築家側の変化です。

ぼくは、先日よなよなzoomという若い建築家主宰のイベントに参加させてもらったのですが、その時の対話で実感したことがありました。

それは、もはや彼らは、写真上だけで伝わる建築をつくろうとしていないのだということです。

2010年代の建築家を取り巻く状況を回顧してみると、リノベーションや店舗というものが仕事として当たり前になったということがあります(これは日本建築学会の建築討論でも少し書いたので良ければ参考ください)。

リノベの仕事は、新築と比較すれば面積は小さいですし、大胆に空間を構成することもしにくい。そんな限られた条件の中だからこそ、出来ることを建築家たちは探していったと思っていて。その中で材料の来歴にこだわる姿勢が生まれたり、プロダクト的にオブジェクトをデザインして、その組み合わせで、空間をつくったり、施主の人柄をも与条件として空間に反映したりと、色々なアプローチが生まれています(これは、ぼくは作品を掲載するごとにコメントのやり取りをさせて頂いている中で実感していることです)。

そういう姿勢が建築家の中で醸造されていったのが2010年代のように思っているのですが、先に書いたように、そういう建築アプローチの作品って写真のみで伝えるのが難しいと思うのです。

前提となる条件や、建築家の思考に触れてもらったうえで、写真を見てもらわないと、それぞれの作品の特質が伝わりにくい。

そういう建築作品を如何に、メディア上で伝えられるかということも常々考えていたことでした。

それを解決するためのアーキテクチャーフォト独自の方法論

これらの二つの状況を踏まえて、アーキテクチャーフォトが考えて実践しているのが、最初に書いた方法論です。

この方法論に思い至ったヒントは、スターアーキテクトのプレスキットにありました。

世界的な建築家たちの作品をアーキテクチャーフォトで紹介しているのですが、その写真を見て文章を読むと、単に写真を見た時には気づかない、納得感と説得力があることに気づきました。

それは、写真単体でも、文章単体でも、湧きおこらない感覚で、それらの相互関係が高い時に生まれる感覚で、「凄い!!!」という高揚感を感じました。

これを、アーキテクチャーフォトというメディア上で生み出すことができないか?

そして、著名な建築物が再拡散されるネット上の状況の中で、建築家の皆さんの作品をこの、納得感と説得力を生み出すことで、より遠くまで伝える事が出来ないかと考えたのです。

そして、アーキテクチャーフォトという建築メディアだから出来る事ではないか、と思ったのです。

建築家の構想を理解し、その伝達を担う

建築家の皆さんのテキストや作品を日々拝見していて、気づくのは、自身で自身の作品の固有性に気づくのは難しいということです。

これは、ぼく自身もそうで、実務経験のある人が建築メディアを運営しているということが自分の強みであると認識するまでに、凄く時間がかかりました。それくらい自分の強みというのは気づきにくい。

だからこそ、我々のチームが、建築家の代わりになり、その思想や構想を文章から読み込み、数多の建築を見ている俯瞰的な視点で、ここを伝えるべき!という固有性を引き出し、文章にまとめることで、建築家の皆さんに貢献できるのではないか。

でも、我々の編集行為が前に出てはいけないと、常々思っています。伝えたいのはあくまでもその作品の特質であり、編集行為ではないからです。

終わりに

2022年現在、これが、我々の考えていることです。

思い返すと、2010年代は牧歌的な時代でした。今と比較すればネット上の情報量も少なく、ウェブ上に情報があれば見てもらえる時代だったと言えるかもしれません。

それがこのように変化してしまった。恐らくこの流れは遡ることは内容にも思います。そんな中で、アーキテクチャーフォトが建築メディアとして、建築業界に貢献できる部分として、この発信を担えれば良いなと思っています。

ではでは、今後ともよろしくお願いいたします。





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