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【掌編小説】サンタクロースの冬休み

「さて、今年も無事配り終わったぞ」
 毎年、この瞬間の何とも言えない解放感と適度な疲労感を味わうのが好きだ。もう200歳を超えたが、この世界ではまだまだ現役といえる。
 プレゼントは、毎年九月下旬に手元に揃う。それから3か月間は、世界中の子どもたちに効率よく配るための振り分けの作業に明け暮れる。まずは、ヨーロッパ、北米、南米、アフリカ、アジア、オセアニア、南極の地域別に分けた後で、国ごとに整理し、最後に戸別に準備するのだ。もっとも、私は最大で三六〇人に分身できるので、振り分けも手分けすれば多少は楽なのだが、人数が多いと同じ人間なのに喧嘩などが始まるので、振り分けは一人ですることに決めている。
 こうしてプレゼントの用意が整うのが、毎年12月20日を過ぎてからだ。いつもギリギリの生活をしている。毎年多くの子どもたちが私を待っているJapanでは、その頃にパンプキンを甘くて小さな豆と煮たものを食べるらしく、私も去年から試している。口には合わないが、年に一回だと特別な感じがする。

 そしてクリスマスがやってくる。クリスマスはいつも雪が、白く、冷たく、消えそうになりながらも明らかに、そしてようやく消えてゆく。消えた雪はいつしか積もり、舞っていた時の存在を誇示しているようにさえ見える。
 この時ばかりは私の分身にもしっかり働いてもらう。ヨーロッパに四三人、北米に三四人、南米に二二人、アフリカに六五人、アジアに一九〇人、オセアニアに五人が回る。南極は私の担当だ。
 南極は人が少ないと思われがちだが、ペンギンもプレゼントを期待している。毎年「飛べる翼」の注文が多い。しかし、毎年配って、毎年廃棄されている。これは、親ペンギンが「飛べないからこそ分かる世界がある」という教育を徹底しているからだ。

 ペンギンは、人間を仲間だと思っている。二足歩行で、大きさもエンペラーペンギンとさほど変わらないからだ。そして、ペンギンは人間の発展を肌で感じている。それまでペンギンの王国だった南極に人間が来たと思ったら、苦しみながらも基地を作り、一定の人数が住まうようになったのを目にしている。
 親世代のペンギンの教育はこうだ。
「人間はあんなに頭が小さそうなのに、こんな文明を築いた。海を渡りたいから船を作った。空を飛びたいから飛行機を作った。できないことがあるからこそ、克服の方法を研究した。
 飛べる翼があったら、飛行機なんて発明されていない。飛行機にも問題はあるかもしれないが、努力によって夢を現実に変えたという意味では、素直に賞賛すべきだ」
 しかし、私は南極に行くたびにペンギンたちに伝えている。
「確かに、人間は夢を実現するための努力をしてきた。しかし、夢を現実にすることが、必ずしも成功したわけではない。
 早く移動しようという希望を叶えた結果、人や地球に負担をかける乗り物を作った。油や蛋白源を得ようとした結果、クジラやイルカの個体数が減った。クジラを殺すのはいけないという優しさを持った結果、小さな魚がクジラに食べられやすくなり、クジラを失った海洋民族が更に魚介を食べにくくなった。化学反応を自分のものにした結果、人をいっぺんに殺す武器を作った。何が正しいとか間違っているとか、何が地球を守るか守らないかとか、そんなことは、神のみぞ知る。サンタクロースだってそんなことは知りません。
 夢は、叶えても叶えなくても、いつか限界が来ます。初めから禁じるのではなく、一旦与えて自覚させた方が抑止効果が生まれるということもあります」

 クリスマスが終わると、長い冬休みがやってくる。三月まで、「サンタクロース」という夢を現実に置き換えてしまった"元"子どもたちを、配達先から削除する作業が続く。
 夢を見ることは、それほどいけないことだろうか。こうして実在するサンタクロースなのに、他の空想とまぜこぜにして「ないもの」とされてしまっているのは、とても寂しい。私たちは「夢のような存在」でありたいが、「夢」でありたくはない。「夢」は、私たちが届けるだけで十分だ。

 つい先ほど、最後の分身が帰ってきた。
 泣いていた。
 私は「Ericaちゃんも、僕たちの夢だったと思おうよ」とだけ伝えた。
 彼は少し頷いて、消えた。


今回の「勝手に文体模写してみた!」は、以前より私の投稿を読んでくださっているくにん(秋野紅人)さんの文体を模写してみました。

出版もされていて、非常に精力的な方と認識しております。私も折に触れてくにんさんのnoteを拝読しています。ただ、定期的に連載小説を一気読みしているので、「スキ」を付けるに付けられず……(すべてに「スキ」するとうるさくてかえって迷惑かと思い)。

ぜひぜひ、くにんさんのnoteにも訪れてみてくださいね。

くにんさんへ:いつもありがとうございます。くにんさんの小説は、非常に読みやすくて癖がなく、正直なところ全く模写できていませんね(くにんさんの文学的表現は少し似通わせる努力をしましたが)。そこで、「ちょっと不思議な物語」「ちょっとほんわかな物語」の軸で攻めています。今度機会があったら、私のnoteに書き溜めた駄作も出版させてください!(駄作すぎるので、9割9分9厘冗談です)

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Hal
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