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「素直」という短所 〜退職面談編〜

24年間生きてきて、自分のことはそれなりに理解してきたつもりでいた。

社会人になって、仕事を一心不乱に頑張って、(中略)さて仕事をやめるぞと決意した。

社内では恐れられていた、結構偉い人に呼び出された。怖かったけど、数回しか話したことないけど、なんとなく言動や立ち振る舞いからたぶん尊敬できる大人だなと思っていた人だった。

えっ、店長と話つければ退職出来るって聞いたのに、偉い人出てきた。どうしよう。

ボイスレコーダーをオンにし、制服の中に忍ばせ、恐る恐る着席。

「あのね、あなたを引き止めるつもりはないの。」

「ただ、辞めるって店長に聞いてね。あなたと前から少し話がしてみたかったのよ。」

自分が若い時感じたことや、人生観、色んな話をしてくれた。私が発した言葉の節々を丁寧に拾い上げて、しっかり咀嚼して受け止めてくれた。気付いたら、私も話すつもりがなかったこの会社の展望についてや、何が退職理由か、どこが好きだったか、全て洗いざらい吐いてしまったのだった。

「あなたは、とっても素直なんだね。素直すぎるくらい。きっとそれがあなたの首を絞めてきたんだろうね。」

「苦しいよね。生きにくいよね。私もね、こう見えて人情ある方だから。あなたのように入りたての頃は、頭に来ることばっかりでね。」

と、笑ってくれた。

退職の面談とは思えないくらい、充実した時間だった。やっぱりこの人は素敵な大人だと思った。この人にならついて行きたいし、そう言った。

ありがとうと、ごめんねを沢山貰った。

勿体無いし、残念だけど、あなたの気持ちは、あなたにしか大事にしてあげられないから否定はしたくない。これからも頑張ってね。

その後、なぜかまた別の役員にも面談され、

残念だわ。話は聞いたけど、あなたのことを活かすことが出来なくてごめんなさいね。あなたならどこに行っても上手くやれるわ。絶対出世する。

と、手を握られた。

いい会社だった。(そのへんは)

辞めた理由は沢山あるけど、学ばせてもらったことも沢山あったし、仲間は今でも大切だし、先輩は今でも連絡をくれる。

2社目は、もう何もかも大変な会社だったけど、直属のたった1人の上司は、私を気に入ってくれていた。

退職したいと告げると、理由を聞かれ、私はある程度の本音を話した。上司はなぜか笑っていた。

「〇〇ちゃんのそういう所、可愛いのよね。」

「ふつう、辞めたいって言う時は、みんなキャリアアップしたいだとか、やりたいことがあるだとか嘘言うもんだよ。本当に素直で、いい子だなって。だからこの仕事が辛いんだもんね。仕方ないね。素直すぎるんだよ。もっとテキトーに生きなよ。」

ざっくばらんに話すタイプの上司だったので、私もそのスタンスで行った方が印象がいいというのは分かっていた。

だから下手に取り繕うより、これが辛かった、これが合わなかったとある程度ボヤいた方が受け入れてもらえると思った。

案の定上司は納得し、むしろなぜか上機嫌で、残念だなあ。さみしいなあ。と笑っていた。(それもどーかと思うけど)

24歳にして2度の退職をしてしまい、何もかも終わりだなと思った。

そして脳内には、店長や、役員や、上司や、とにかく何人もに言われた「素直すぎるんだよ」「そんなに考えない方がいいよ」が響いていた。

もうこの頃には、素直と言われると、悪口だなと感じるようになった。

「あなたは優しすぎるのよ」って言われる男の人みたいな。ちょっと違うか。

素直、は褒め言葉のはずなんだけど。

「融通が利かない」「そんなんじゃ社会ではやっていけない」が裏にある気がして。

例えば、実際あった例を挙げると、「このメニュー、本当はこういうコースだけど、時間がないからやらなくていいから。でもそのコースでお金は取ってね。」というような指示を受ける。

時間の都合上、別のお客様を無視するわけにもいかないので、指示通りにする。

そういうのが、一生忘れられない。

ミーティングを提案する。改善しない。謎にポジティブ。なんで?

「次来た時に、多めにやってあげれば、大丈夫。」

商売だからそういうことも確かにあるだろう。

「お客様も、それで文句言ってないんだから、また来てるんだから大丈夫。」

まあ、また来るということは確かにそうなのかな。

いや、本当は少しずつ、嫌になっているかもよ。

対応雑だな〜って気付いてるかもよ。

今日クレーム来なかったけど、明日は来るかもよ。

ていうか、汗水垂らして働いたお金で来てくれてるのに、その対価が得られていないのはそもそも、おかしいでしょう。

私にそんなこと言うあなたは、もし自分が高いお金払って、今回はできなかったけど次はちゃんとやりますからねーで許せるの?どうなの?

そんなことを考えると、すぐお腹を壊してしまうのであった。お客様に申し訳なくて、接客が不自然になっていった。

お金払って後悔させるような商売なんて、今すぐ潰れてしまえと思っていた。

そういう私の中の「絶対にゆるせないこと」は、今後の人生でも許すつもりがない。

そんなことしてるから、率先して残業したり、儲けの出ない仕事に追われたり、それを笑われて、すぐストレス性胃腸炎になるし、自律神経失調症になるし、適応障害になるのだ。

じゃあ、まあこんなもんでいいでしょ!って仕事できる人が羨ましいかと言うと、何も羨ましくないのだから困る。

「素直すぎるんだよ」と私に言う人は、大体そういう、ビジネスとしての引き際というか、上手くしれっとやる方法とか、なんかそういうのができる人なんだよな。わからんが。

じゃあ利益が出ない仕事をしたらいいじゃないの、と経歴的にもよく言われるのだが

私はボランティアや非営利の人助けを何よりも自分の中で大切にしてきた。

人が困ったら手を差し伸べる親の背中を見て育った。

それを人生の大軸に据える勇気がないのだ。

大切すぎて、自分のアイデンティティすぎて、下手に仕事に絡めて、絶望したり、精神が簡単に狂ってしまうのが心底怖いのだ。

同じ環境にいる人が、同じ志とは限らない。

人助けは、自分の心の余裕があるから出来るもんだと思う。

そうじゃなきゃ、自分が人助けにぶら下がってしまって本末転倒なのだ(経験あり

世の中そんなに綺麗事言ってられないから、綺麗事は、綺麗なままでいて欲しいのだ。とんでもないエゴだけど。

さて、テーマとしては、「働きやすく」なるには、「素直」は向いてないらしい。

どうしたもんかね。誰か教えてくれないかな。

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