ゴジラ生誕70周年記念作品「ゴジラ-1.0」
〝ゴジラ生誕70周年記念作品〟映画『ゴジラ−1.0』を鑑賞しました。
2016年公開の『シン・ゴジラ』では、初のフルCGにより迫力あるゴジラを現代に蘇らせ、さらに徹底してリアルを追求した政府と官僚の危機管理描写が際立った名作でした。あれから7年、そんな名作のあとを受けて、果たして今回はどんなゴジラ映画になるのか、期待と不安のなか劇場に足を運びました。
〜以下、ネタバレ注意〜
今回の時代設定は、終戦直後に焼け野原となった日本の復興期。冒頭で主演の神木隆之介演じる敷島浩一が操縦する零戦が緊急着陸するシーンでは、昔祖母から聴いていた戦時中の哀しい情景が胸に去来するほどリアルな映像でした。しかし、この時代設定では、前作でリアルタイムの現代を舞台に自衛隊が駆使した21世紀型の最新兵器に比べて戦時中の武器が見劣りするのではと心配していました。ところが映画『ALWAYS 三丁目の夕日』や『永遠の0』など世界的に突出したVFXで定評ある山崎貴監督の手腕は、そんな私のちっぽけな杞憂をあっさり吹き飛ばしてくれました。
大迫力の映像と恐ろしいゴジラのリアル感はこれまでの「ゴジラシリーズ」の中でも群を抜いていました。前作の『シン・ゴジラ』ではゴジラの動きとモーションキャプチャーの狂言師野村萬斎の身のこなしがオーバーラップし、ところどころで怪獣離れした動作が気になったものでした。しかし今回、海と陸の両方の戦場を縦横無尽に暴れ回るゴジラは、ただただ恐ろしい凶暴な生物としてスクリーンを蹂躙しました。それは前作で成長するごとに不気味に形態を変えながら気を衒う進化を見せた怖い死神のようなゴジラとは違い、まさしく70年前の初代ゴジラから脈々と受け継がれた王道を行く正統派の凶暴なゴジラでした。
オールドファンとしては新しいゴジラの造形がどんなフォルムなのかはいつも気になるところです。昭和ゴジラのイメージを壊さない範囲で、いかに現代風にバージョンアップされているか。私がこれまで一番気に入ったバージョンは、2002年公開の釈由美子主演『ゴジラ×メカゴジラ』の〝機龍ゴジラ(釈ゴジ)〟。アクションスーツながらシャープなフォルムと表情豊かな瞳、エラのはった首元が印象的でした。今回の『ゴジラ−1.0』バージョンは私の苦手なハリウッド版「Godzilla」のイメージと少し重なる部分があり、私としてはギリ納得できる造形でしたが、迫力満点のVFX効果の妙で違和感なく鑑賞できました。
今作で私が注目していたのが、映画「シン・仮面ライダー」の緑川ルリ子役で〝瞳の微妙な動き〟だけでセリフの何倍もの情感を演じてみせた、そんな繊細な演技力にすっかり魅了されてしまった浜辺美波でした。今回も神木隆之介演じる敷島浩一と戦後の闇市で邂逅する大石典子役として、その関係性の微妙な距離感を見事に演じ分けつつ、とかくゴジラの動向だけに惹きつけられがちな観客の目をしっかりと物語の中に引き戻してくれました。二人の役者が引き起こす化学反応は、間違いなくこの映画を単なる怪獣もののスペクタクル映画からワンランク上の人間ドラマへと引き上げていました。
主演の二人以外にも個性溢れる脇役たちの秀逸な演技が光り、物語の展開に小気味良いメリハリを生んでいます。映画『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズで何度も私の涙腺を決壊させた吉岡秀隆、朝ドラ『なつぞら』での純朴な演技が印象的だった山田裕貴、私にとってはドラマ『白い巨塔』での個性的なキャラが際立っていた佐々木蔵之介、そして、浩一と典子が育てる孤児の明子を演じた子役の演技は、セリフはほとんどないのに要所要所で私の涙腺を崩壊させました…
ゴジラ映画で全編を通じこれほど何度も心揺さぶられ、鳥肌の立つような感動に襲われた作品はありませんでした。これは単に私の年齢のせいだけではなく、この映画がこれまでのゴジラ映画では中途半端になりがちだった人間ドラマをしっかりと描ききる〝名作映画〟に仕上がっていたからだと思いました。怪獣映画の域を超えてこの映画を人間味ゆたかな情緒的な作品に纏め上げたのは、これまでも人情味あふれる名作の数々を遺してきた、山崎貴監督の手腕の賜物にほかならないと感服しました。
個人的に人生の断捨離に向かう年齢となり、最近は家の中もできるだけシンプルな生活空間を心がけ、趣味のライブグッズなどもできるだけ買わないように戒めているので、今回もこの映画のパンフレットを買うことは思いとどまりました。それでも名作映画を見終わった余韻にほだされ、終演後には定番のクリアファイルにコースター、ブックカバーまで購入していました。
前作の『シン・ゴジラ』 はゴジラ映画として12年ぶりの制作ということもあってか、それまでのゴジラ映画の中で破格の82.5億円の興行収入を上げました。ところがなんと今作の『ゴジラ−1.0』は、公開初日の15時時点で、その『シン・ゴジラ』の初日観客動員比で265%の観客を動員するという、華々しい大ヒットスタートを切りました。スペクタクル映画と人間ドラマが融合した名作映画に仕上がっていた新作『ゴジラ−1.0』は、新しいゴジラ映画の1ページ目を切り拓いたのかもしれません゚・:,。☆
(追記1)12月1日より『ゴジラ-1.0』は全米でも公開。全米の週末興行収入ランキングで堂々の第3位。公開3日間でこれまで日本製作ゴジラ映画の全米歴代最高興収だった『ゴジラ2000 ミレニアム』(1999)をあっさりと超える1100万ドル(16億円)という破格の記録を叩き出しました。国内では公開1ヶ月で248万人を動員し興行収入38.2億円。〝ゴジラ生誕70周年記念作品〟としてこのまま爆走を続け、ゴジラシリーズ未踏の興収100億円超えの金字塔を樹立してほしいものです。
(追記2)国内では12月21日までの49日間で観客動員293万人、興行収入45億円を突破。そして、さらにアメリカ、イギリス、アイルランドでは邦画実写映画の動員歴代1位を記録するなど海外での評価が極めて高く、全世界興行収入はついに〝ゴジラシリーズ〟として初の100億円(為替レート換算)を突破しました。また、第96回アカデミー賞視覚効果賞のショートリストに日本映画として初めて選出されました。
人間ドラマを充実させた今回の「ゴジラ-1.0」は、何故だか日本人受けは芳しくないようで、国内での興収は伸び悩んでいるようですが、どんなサスペンス映画にも必ず家族愛を織り込むハリウッド映画好きの、家族愛を大切にする愛情豊かな欧米人には広く受け入れられているようです。
いつしか家庭を顧みず、仕事や会社ばかり優先させてきた日本人には、この映画の人間ドラマの楽しみ方が解らないのでしょうか。いまだに男性優位の序列社会にどっぷり浸かった日本人の「働き方改革」「ワークライフバランス」は、欧米に比べれて稚拙なのかもしれません。日本人が戦勝国の欧米並みに余暇を充実できないのは、まさに「敵国条項」による戦後賠償の呪縛を見ているようです…
(追記3)年が明けた1月12日より『ゴジラ−1.0』は、70年前に初公開された初代ゴジラが白黒映画だったことへのオマージュから『ゴジラ−1.0 / C』《モノクロ版》を劇場公開しました。それと同時に国内での公開後70日間の興収が52.1億円(観客動員399万人)、さらに日本を除く世界興収は40日間で6110万ドル(88億円)を突破、全世界興行収入が遂に140億円に到達したとのニュースが飛び込んできました。海外だけで前作『シン・ゴジラ』の興行収入を軽く超えた今作は、文字通りゴジラ映画史上空前絶後のモンスター映画となりました。
(追記4)そして、2024年1月23日、ついにビッグニュースが飛び込んできました!『日本映画初!映画賞の最高峰である米アカデミー賞視覚効果賞部門に山崎貴監督の『ゴジラ-1.0』(英題:Godzilla Minus One)が選出!!』全米公開後に早々とショートリストに名前は挙がっていましたが正式にノミネート。視覚効果賞部門として過去には『スター・ウォーズ』『タイタニック』『アバター』などの大作が受賞した賞に、日本映画として初めてノミネートされるという快挙です!
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