さらば涙と言おう~Good Looking Guys解散に寄せて~
はじめに
2024.7.13プロレスリング・ノア日本武道館大会。
『Good Looking Guys』ラストマッチを終えた直後、突如現れた外道の導きに応じたジェイク・リーによる、プロレスリング・ノア離脱宣言。
2023年元日から約1年7ヶ月半・560日に及んだジェイク・リーのNOAH参戦は、会場中で自然発生したブーイングと溜息に包まれる形で呆気なく幕を下ろすことになった…。
2024.6.16、プロレスリング・ノア横浜BUNTAI大会。
ジェイク・リーが試合後にリング上で宣言した、ユニット『Good Looking Guys』の解散。
G.L.G.解散に対して、一部からはある指摘が飛んだ。
「ジェイク・リーのいるユニットは短命だ」と。
確かに、全日本プロレス時代から、既に宮原健斗がリーダーを務めていたNEXTREMEを除き、『Sweeper』(約1年5ヶ月)、『陣 JIN』(約1年3ヶ月)、『TOTAL ECLIPSE』(約1年6ヶ月)と、いずれもジェイクがユニットの頭領を張ったユニットは短命に終わった。
『Sweeper』には崔領二や岩本煌史、『陣 JIN』には阿部史典や吉田綾斗、『TOTAL ECLIPSE』にはTAJIRI、土肥こうじ、羆嵐、児玉裕輔らがジェイクの脇を固めるという錚々たる布陣が敷かれていたし、『TOTAL ECLIPSE』時代には自身初となる三冠ヘビー級王座戴冠という結果を残したにもかかわらず、である。
全日本プロレスを退団後、主戦場をプロレスリング・ノアに移して2023年1月に結成した『G.L.G.』も今回の解散で約1年7ヶ月の歴史に幕を下ろすことになった。
この解散もあって、今回改めてそのような指摘が出たのだろうけれど、私個人の抱いた印象は異なる。
そもそも、NOAH参戦前後よりジェイク本人が明かしていた海外志向や「いついなくなるか分からない」という発言から、ジェイクのNOAH参戦自体が奇跡のようなものだったからだ。
私個人としては、「いつジェイクの試合がNOAHで見れなくなってしまうのか」という事を頭の片隅で意識していただけに、約1年7ヶ月もユニットを続けてくれるとは参戦当時には思いもしなかった。
だからこそ、日本武道館であのような結末を見せられて尚、私個人としては感謝の念しか出てこない。
それは、ジェイク・リーやG.L.G.がNOAHに残してきた貢献度が、数字でも計れないほどに大きかったからだと、私は思う。
①外敵を超越した、周囲を引き上げる存在
NOAH参戦当初にジェイクの試合を見た私の感想に対して、このような言葉を私に放つ者が何人かいた。
ジェイクが退団した2022年には、三冠ヘビー級王座戴冠を果たすも、『王道トーナメント』開幕前に防衛0回で諏訪魔に敗れ王座陥落。
全日本プロレス50周年記念大会となった同年9月の日本武道館大会では、セミファイナルで野村直矢に1分経たずに敗れるという屈辱的な結果もあって、そのような見方が生まれていたのかもしれない。
でも、今のジェイクを見ても、そのように言う意見は恐らく少ないのではないだろうか?
何故ならば、ジェイクは新日本プロレスの人気ユニット『BULLET CLUB WAR DOGS』に直接勧誘される所まで、自らの価値を高めて去っていったのだから。
NOAH参戦直後はブーイングを浴びる事もあったジェイクだったが、シンプルながら技の一つひとつで相手を制圧する試合内容で、ファンの心も見事に制圧していった。
2023年3月に清宮海斗からGHCヘビー級王座を奪取した時も、外敵の王座戴冠に対する否定的な反応は意外なほど少なかった記憶がある。
ジャック・モリス、アンソニー・グリーン、YO-HEY、タダスケ、LJ・クリアリーと仲間を増やしていく中で、G.L.G.はヒール的な立ち位置も取れる"外敵部隊"としてNOAHでの存在を高めていく。
2023年6月の『金剛』解散以降は、NOAH内でトップの人気を誇るユニットとしての地位を確保した。
また、ジェイクはNOAHの選手やファンに対するマイクで、周囲のハートを掴んでいった。
「俺は腐っても丸藤だ」と言った丸藤正道に対して最大限のリスペクトを贈ったり、
2024.1.2有明アリーナ大会メインの『丸藤正道vs飯伏幸太』が低調に終わった直後の会場内に熱を取り戻す言葉を発したり、
清宮海斗のマイクの内容を「キレイに纏まり過ぎなんだよ」と指摘して、試合でもマイクでも清宮の壁となったり、
G.L.G.(或いはジェイク・リー)の立ち位置は外敵というよりも、NOAH所属選手を鼓舞する存在になっていった。
その鼓舞は自身にも向けられていた。
2023年10月にジェイクがGHCヘビー級王座から陥落して以降も、G.L.G.メンバーがタッグ王座などを確保する中で「もう1度GHCヘビー級を獲りに行く」姿勢を何度となく打ち出していたし、その鼓舞は「王座陥落したらジェイクは去ってしまうんじゃないか?」というファン側が抱く一抹の不安も解消していた。
だからこそ、2024年に入ってからもGHCヘビー級王座に即挑戦⇒奪還の展開を再三狙った姿勢に私はグッと来たんだ。
そして、ジェイクに手厳しくマイクを指摘されていた清宮も、ジェイクが離脱宣言した後のメインイベントで、YOICHIを相手に壮絶なGHCヘビー級王座戦を展開して会場中を大歓声の渦に巻き込んだ。
2024.1.2有明アリーナ大会メイン後に、マイクで溜飲を下げることしか出来なかった状況を、約半年後に清宮自らの試合で変えてみせたのだ。
ジェイクは自らの価値も高めながら、周囲も巻き込んで相乗効果をもたらした。
彼がいたからこそ、NOAHはまた一つ強くなれたような気がする。
②タッグ戦線で作った軸
個人的に、G.L.G.がユニットとして残した大きな成果の一つは、近年不在だったNOAHのタッグ戦線における軸を担った事だと思っている。
私が本格的にNOAHを見始めた2019年以降の約5年間に限っても、GHCタッグでは『AXIZ』(潮崎豪&中嶋勝彦)、GHC JrタッグではYO-HEY&HAYATAや小川良成&HAYATAといった軸となるタッグチームはいたものの、全体的にユニット解散や欠場による返上等もあり、長期間にわたって王座に定着したタッグチームは少ない。
2019年1月~2024年6月までの間、タッグは延べ21チーム、Jrタッグは延べ26チームが王座戴冠を果たすも、防衛0回で王座陥落したチームもタッグが8チーム、Jrタッグで6チームと多かった。
そんな、長年不在のタッグ王座戦線の軸を担ったのがG.L.G.であった。
GHCタッグ王座はジャック・モリス&アンソニー・グリーン、GHC Jrタッグ王座はタダスケ&YO-HEYが王座を保持し、前者は歴代2位の防衛8回(1位は10回)、後者は第59代王者時代に歴代2位タイの防衛7回(1位は9回)を記録した。
勿論、ただ回数を重ねた訳ではなく、防衛戦の内容も素晴らしいものがあった。
ジャック・モリス&アンソニー・グリーンは、マミーブラザーズやメタルウォーリアーズといった異色派から、名タッグとして名高い『テンコジ』(天山広吉&小島聡)、Jr.階級のドラゴン・ベイン&アルファ・ウルフまで相手にする懐の深さを防衛ロードで見せつけていった。
YO-HEY&タダスケもドラゴン・ベイン&アルファ・ウルフと度々名勝負を展開して、Eita&HAYATAという強敵も崩すなど、いつしか大会のアンダーカードからミッドカード、セミ・メインまで自在に役割を担った。
スクラップ&ビルドが絶えず繰り返された結果、『STINGER』以外の対抗軸が定着してこなかったJrタッグ戦線で、YO-HEY&タダスケは名タッグチームへと定着していったのである。
G.L.G.はジェイク・リーのワンマンユニットでは決して無かった。
2大タッグ王座をユニットで総ナメにした事は、前述したジェイクがGHCヘビー級王座を目指そうとする決意表明にも繋がっているのだから。
③ジェイク・リーのファンがもたらした変化
G.L.G.の存在がNOAHにもたらしたのは、リング内における軸や確固たる地位だけではない。
ジェイク・リーのファンなどを始め、懸命に声を出して応援する女性の存在によって、今のNOAHの会場内の雰囲気をより良いものに変えてくれたという実感が私の中であるからだ。
時期的に2023年1月の本格的な声出し応援解禁と重なってくるものの、2023年春以降、ジェイクを応援する親子連れが増えたり、声が中々出なかったりする時もあった客席から声が出るようになったりしたのは、ジェイクの人気でNOAHに来たであろうファンの方の存在が大きかった。
私が今でも忘れられないのは、ジェイクのNOAH初戦となった2023.1.8後楽園ホール大会の事だ。
この日は昼夜2大会で行われたのだが、昼のメインで行われた『ジェイク・リーvs稲村愛輝』でジェイクに対するブーイングが少なかった様子を配信で観た知人が、急遽夜興行を観戦しに訪れたのである。
その時に私に対して言った言葉が、今でも忘れられない。
知人がこう口にしたくらいだから、全体的に当時の会場内は声が出ていなかったのである。
でも、今ではNOAHの会場は絶えず声援に溢れ、活気に満ちた雰囲気が毎大会形成されている。
それは、ジェイクを始めとしたG.L.G.の面々が客席のコールに素早いレスポンスを返すことも大きいのだろうけど、そうした過程を通じて「声を出すことが楽しくポジティブだ」と思わせてくれたのが大きい。
今回、ジェイク・リーがNOAHからの離脱を表明した事で、ジェイクを推しているファンの方が新日本プロレスを主戦場にするかもしれない。
数字の部分では非常に手痛い事なのかもしれないけど、私はこれを数字で計りたくないんだ。
それは最早、NOAHに無くてはならないくらい会場を盛り上げてくれた人達が去ってしまうかもしれないという、寂しさに似た気持ちが混じっているからだ。
でも、これを誰が責められようか?
ジェイクのファンの人達が全日からやってきて下さった時に、その恩恵は十二分に受けているのだから…。
個人的には、(別ベクトルかも知れないけど)ある意味で武藤敬司が引退した事と同じくらい、ジェイクの離脱はNOAHにとって痛い事だと実感している。
NOAH参戦直後にこのような事を語っていたジェイクだったが、武藤敬司引退後のNOAHが、尻すぼみになるどころか盛り上がりを増していった原動力の先頭に立ち、武藤敬司と同じくらいNOAHにとって重要な役割を担っていたのだと、今になって私は思う。
まとめ
ユニットには始まりがあれば、いずれ終わりが来る。
しかし、『G.L.G.』が素晴らしいのは、ユニット発足から加入こそあれ、解散まで誰一人として離脱しなかった事だろう。
最後の結末は呆気ないものだったとしても、約1年半という活動期間だったとしても、これは快挙だと私は思う。
何故ならば、2023年6月に解散するまで約4年も続いた拳王率いる人気ユニット『金剛』でさえ、1年半を超える頃には発足時のオリジナルメンバーが4人→2人に減ったのだから…。
ジェイク・リーがNOAHに初登場したのは、2023.1.1日本武道館だった。
奇しくも、そこから約1年7ヶ月ぶりに開催された2024.7.13NOAH日本武道館大会で、ジェイク・リーはNOAHから去った。
NOAH初登場の地と離脱の地が同じ日本武道館になったのも、偶然とはいえ出来すぎたドラマチックではないだろうか?
ユニットの解散も事前告知して、ジェイクの裏切りもユニットラストマッチ後に実行された。
G.L.G.が最後までG.L.G.として終われるよう尽くされたエンディングを、私は非難することが出来ない。
それに、プロレスには絶対は無い。
各々が生きてさえいれば、G.L.G.時代の因縁が何処かで線として繋がる機会も訪れるだろう。
ジャック・モリスの怒りが何かしらのタイミングでジェイクに向けられる機会が訪れたなら、それは非常に面白くなると私は思う。
そして、『BULLET CLUB WAR DOGS』に加入して新日本プロレスに主戦場を移す事で、ジェイクの夢だった海外進出にも、IWGP世界ヘビー級王座戴冠によるメジャー3大シングルグランドスラムの偉業にも近づいたと考えれば、その可能性に対して非常にワクワクしている私もいる。
ただ、唯一悔やまれるのは、去り行くジェイクに別れを告げる機会が無かった事だろうか?
(まさか、日本武道館で完全撤退とは予想外…)
だから、そんな思いを吐き出すべくnoteにこうして感想を思い出しながら綴ろうと決めたんだ。
この場を借りて…。
ありがとう!ジェイク・リー!
ありがとう!Good Looking Guys!