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憂いを帯びた表情で静かに客人を待つ"不忍池のスワンボート"
屋外、ディスタンス、近場、子どもが楽しめる、という条件が何となく揃う不忍池のボート場へ行った。
池沿いに建ち並ぶタワーマンションをバックに彩り鮮やかなスワンがシュールでまたいい。
不忍池は大きく3つに分かれ、ボート池はそのひとつ。面積は30,000m2、深さは86cmでボート場としては昭和6年から運営されている。戦時中にはなんと埋め立てられ田んぼになっていたそうだが昭和26年に再開して今に至る。
スワンボートは長年、ほぼ姿やカタチを変えずに人々から愛され続けるロングセラーデザインのひとつ。私が感じるその理由は、
1.初期のフォルムが美しく、進化の余地を与えない
頭部から首、羽にかけてのラインがとにかく美しい。乗り場部分と頭部のバランスも良い。このスワンボートは群馬県に所在する造船会社の「スナガ」が高いシェアを占めて製造しているらしい。
スワンボートというとノスタルジーを感じるが、今見てもモダンで洗練されている。必要な機能のみが装備され、スワンのフォルムがキープされている。あらゆる技術革新が入る隙がない。
2.どんな状況下でも列を乱さず池に佇む
スワンボートを見るとどこか安堵を感じる。それは子どもの頃から変わらぬ姿で人々や地域を見守っているからなのか。コロナや自然災害で世界が震撼し、不安、不満が募って人々が傷つけ合うような世の中にあっても、列を崩さずに一点を凝視するその姿に私は勇気をもらう。その表情は嬉しいのか悲しいのがどちらともとれるが、家族やカップル、様々な客人を分け隔てなく出迎える。
3.水面が近くスワンの気持ちを味わえる
思ったより水面が近い。水中に生息する生き物をスワンはやや上から眺めることになるが、ボートを漕ぐひと時、スワンに感情移入ができる。もっと池の透明度が高かったら、水中の魚と目が合ったかもしれない。ただこの不透明度を持ってして、タワーマンションの外観の池への映り込みを楽しめるのかもしれない。などなど、スワンは日頃、考えているのかもしれない。
長く愛されるデザインには、様々な理由がある。その理由を考えるのもまた楽しい。