夢と融合する その4
風邪をひく日は海の夢を見る。
夢は、覚めても夢かのように揺蕩っている。さっきまでの夢の中は、まるで現実かのように肌を感ぜられる。どちらが夢か、どちらが現実か、果たして見当もつかない。
波打ち際でぼくはヤドカリ。せっせと歩いたりしている。時々は波をぼーっと見ていたり、していると、ざんっ、と膨らむ波に飲み込まれる。
泡だ。水だ。苦しみだ。海底に行けばこんなに動揺することないのかな。わからない。この表面的な波に揺らされているのが楽しいのかもな。わからない。
仮初めの宿から引き剥がされないように必死に、だってぼくの腹は弱いから、だれにも晒したくない。
ヤドカリは体が弱いから、とにかく宿を探すのに心血を注ぐ。時には汚いマネもする。
進化。知らない。そうなっただけ。人間と一緒。不便だから改善すればいいのであれば、個性は統合されていくのでは。けれどもあなたはあなたの痘痕を甘やかすだろう。
胡蝶の夢。じいさんがよく話していた。死ぬ手前のじいさんは記憶が曖昧だったのだろう。何度も俺に話した。あの世へ半身浴すれば、記憶も水に溶ける。その出汁からまた新たな命が生まれるだろう。
俺はじいさんが好きだった。じいさんは92歳だった。身体は細くて丈夫だった。よく歩いていた。呆けても肝心なところはしっかりしていた。強そうな細い筋肉と張りのある顔と、確かなシワ。92歳だった。92年間も生きていた、と改めて想像するだけで、ちょっとすごいな。今の自分より、60年も生活を日々を重ねていたわけだ。まあ世の中全部、そうっちゃそうなんだけど。
私の今は、今の私しか持ちえない。他の誰とも同じでないし、違う。過去の自分とも未来の自分とも違う。今の私を決められるのは今の私だけだ。
土から離れるのは、あまりよくないと思う。だから風邪をひいたらミカンを食べたらいいと思う。ヨーグルトを食べたらいいと思う。でもポカリもなんだか美味しいよね。
朝起きたら、トーストを食べたい。でも和食もいい。味噌汁納豆鮭に海苔、ほかほかの白飯。
たまには掃除をしたらいいと思う。窓を開けたらいいと思う。新鮮な空気を吸ったらいいと思う。吸ったあと吐いたらいいと思う。
陽の光を浴びたらいいと思う。散歩したらいいと思う。朝早く起きたらお昼寝すればいいと思う。夕方まで寝ちゃって少し切なくなったっていいと思う。夜になったら美味しいごはんを食べよう。いいと思う。
おなかがぽかぽかする。
ごはんをいっぱいたべたんだ。
寝なきゃと思うけど寝たくないと思う。
たまに顔が火照る時がある。
咳が出たりする。
くしゃみだってするさ。
いいじゃないか。
明日が来る。お日さまとお月さまが、くるりと回れば、明日が来る。
明日は明日の夢が吹く。
悲しいことがあったらどうしよう。
そんな日はウルトラマンがやってくる。シュワッチ飛んできて、戦いのポーズさ。そのカッコがさ、なんともダサくて、可愛くてさ、ありがとう、ウルトラマン。
フォッフォッフォ。彼がやって来て、心がバッサリ断ち切られそうになる。たすけて。助けてよヒーロー。
でも、彼にも彼の正義があるんだね。フォッフォッフォ。
中洲。川が二つに分かれている。分かれた片方は未来でもう片方は過去だ。じゃあ後ろから流れてくる一本の源流はどこから来ているのだろう。すべての川は海へと流れ込む。けれど海は満ちることはない。そんな夢。
雪が溶けて川になって流れて行きます。
川だったぼくは海に。
かぜを長く引いて波がざっぱん、高く高く熱波、押し寄せる押し寄せる。
朦朧として体が重力に溶け込む、何度も何度も海底へ沈み込む。
沈むリズム。気付くと音なんて無くて。でも記憶の音楽が鳴り続ける。
沈むリズム。雫が体から溢れて。でもすぐに海に混じって誰にも知られない。
悲しいね悲しいね。嬉しいね嬉しいね。
生まれるってことは星になるってことさ。引力を持つってことさ。
暗くて明るい宇宙。漂う。流れる。そうしたら突然やってくる。星や、小石や、その他の塵や。不用意に、勢いよく、ぶつかってくる。望むと望まざるとに限らず。
どんぐりころころどんぶりこ お池にはまってさあ大変
それが歓びでもあり、空しさでもあるんだね。
運命。
ざばん。ざばん。海を踏み越えてあなたに会いに行く。
うろん。うらん。産みを踏み越えてわたしに会いに行く。
ヌカラカヌカラカ。生まれちまった。おぎゃらおぎゃら。爆発。そして残虐。
芸術と処世術。
生きていくんだ。生きていくんだ。泳げ。泳げ。
泳げ泳げ泳げ泳げおよげおよげおよげおよげ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?
どこ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?
魚に足が生えたなんて信じられない。
トカゲに羽が生えたなんて信じられない。
鳥と僕たちが兄弟なんて信じられない。
信じられない。
脳の裏、ひたひた、濃密な顔料の残像、ひたひた、頭蓋骨の洞窟の壁面、ひたひた、張り付いて景色、ひたひた、時間と共に薄れ記憶、ひたひた、画は古び解釈は新たにひずみ、ゆく。ゆく。
おもいでのうた。
プランクトン、サカナ、サンゴ、そのほかの生きものたち。
いろいろなものが生まれ、生きていく。海。
海だ。
海だ。
海だ
海だ。だ。だ。
海の音が聞こえるか。
砂浜に書いたよ頭の中。書いてるそばから消えてった。
波しぶき。塩からい。
地平線その向こうにたくさんの知らない生き物たちがもぞもぞしているなんてね。わくわくさん。
くだらない考えばかり頭を過る。
異性の体ばかり思ってしまう。
海か?
ああ
ああ。
どうしようもないことは分かっている。
でもパズルのようにそれはパチリとはまってしまう。
すきだから好きなんだ。
あたま。こころ。からだ。たましい。
眠らない。死なない。
眠い。生きてる。
ダンスは踊れない。ダンスは踊れない。
彼女はダンスを踊ってる。
いや違う。でも知ってる。
本当は踊れる。
踊れる。
わたしにはわたしの踊りがある。
知らぬ間に踊ってる。
踊り続けていたんだ。
それを踊りと呼ばない人がたくさん居ようとも。
わたしにはわたしの踊りがある。
あなたにはあなたの踊りがある。
生まれた時から。生きて。生き続けて。そして死にゆくその日まで。
おどる。
踊っているんだ。
わたしたちは。
踊っている。
おどっている。
踊っている。
およいでいる。
もがいている。
おどっている。
そしたらだれかが言うんだ。
「あなたのおどり、すてきね。」って。
ああ、
この瞬間のために、生まれてきたんだ・・・!
そう思える、その日まで。
残像。
それはだれかであり、じぶんでもある。
でも言えるのは
これは自分のための物語。
この人生は。
夢かもしれない。夢でもいい。
なんだっていいんだ。
だっておどってる。
おぼれてる。
およいでる。
いきている。
ああいきているんだ。
いきてるんだ。
いきてる。
いきてる。
いきてる!
(加藤催青)