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【天野川小学校の夜】①~すべての亡くなった子供たちを偲んで~ 黒田 勇吾

「星が動いているように見えない?」
一緒に歩いているトンコに、グルッパは尋ねた。
「グルッパ。星は消えることはあっても、動くことはないでしょ。流れ星が見えたのかな?」トンコが不思議そうにグルッパを見た。
「トンコ。んだよね。僕が少し寝不足だからかもしれない。何しろ昨日から寝てないんだ」グルッパはポケットから目薬の小箱を出すと、立ち止まって顔を上に向けた。
トンコはスカートのひとつだけあるポケットから、ティッシュ袋を出すと一枚だけ丁寧に取り出して、グルッパを見つめた。目薬をさし終えても顔を上に向けたままのグルッパの片手に、ティッシュをそっと持たせた。グルッパの手は冷たかった。トンコはちょっと迷ったあとに、思い切って両手でグルッパのもう片方の手を包み込んだ。そして丁寧にゆっくりと擦った。
「グルッパ、寒くない?手がとても冷たいよ」
グルッパはトンコの温もった手に少し戸惑ったが、そのまま手をトンコに預けたままにした。そしてティッシュで目を拭いた後の反対の手をズボンのポケットにゆっくりと仕舞った。そしてグルッパは再び歩き始めながらトンコに微笑みかけた。トンコもそれに気づいて笑顔になった。
トンコは歩き始めながら、静かに話し始めた。

「私たちはこうして手をつなぐこともなく、あの日まで過ごしてしまったのを、今でも後悔しているの。私は3月12日の卒業式に、グルッパに告白しようと思っていた。小学校を卒業する前に、自分の思いをグルッパに伝えようと決めていた。中学生になったら、もう会えなくなるのが分かっていたから、恥ずかしいと思ったけど、グルッパに好きな想いを伝えようと決めていた。だから、だから、、」
「トンコ、わかってるって。もう何度も聞いたさ。だから今、ヤスッペと、ヨモカだけには何とか会えないかなと思って、こうしてあの年から7年経ったクリスマスイブに小学校に戻ってきた。ここだったら、二人にもう一度出会えるんじゃないか、と祈るような気持ちで。トンコ、寒いのに無理に誘ってごめんな」グルッパの口から白い息が出ているのが暗くなったあたりを暖めているようにトンコは感じた。
トンコは、グルッパを見つめてから、大きく首を振った。
「私は平気よ。ていうかこうして二人で小学校のそばを歩くだけで楽しいのよ。寒さなんて気にしない。あの時の寒さに比べたら何でもないもの」
トンコはグルッパの片方の手を少し強く握りながら、空を見上げた。
もう片方に持っている懐中電灯を空にかざしながら。
学校の裏山のほうから、鳥の鳴き声が囁くように二度聴こえた。
フクロウのようだった。

   ~②に続く~

⁂当作品は、これからnoteサイト上に連載を始める予定ですが、その場合も不定期連載になることをお許しくださいませ。内容はすべてフィクションです。上記の小説は始まりです。   作者