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【製本記】 かえるの哲学

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『かえるの哲学』(アーノルド・ローベル 文・絵/三木卓 訳)丸製上製・半革装ができるまで
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2022年9月の記事一覧

【製本記】 かえるの哲学 08 | かえるもいいけど、ふくろうも

表紙と本文、それぞれにできあがった。これらを貼り合わせれば『かえるの哲学』は上製本になる。まずは溝入れの作業から。「溝入れ」とは溝を貼ることで、「溝」とは表紙と背表紙の間にある凹みのこと。ここに隙間があることで、本がすんなりと開閉する。 溝をしっかり入れるため、銀杏の葉の形をした道具を使う。この道具は、そのまま「いちょう」と呼ばれている。軽くあたためて溝にあてがうのだが、革が焦げないようにとびびってしまい、少々温度が低かったか。溝が浮いてこないよう、念のため、凹みに竹ひごを

【製本記】 かえるの哲学 07 | これが文学者というものか

背継ぎの素材を用意する。『かえるの哲学』には革を使うことにした。インド産の山羊皮で、イギリスで製革されたものだ。製本には牛革や豚革なども用いられるが、柔らかく風合いに富む山羊革が最良とされる。 革剥(す)き職人さんに「コバ」と呼ばれる折り返し部分を機械剥きしてもらったあと、さらに革剥き専用の包丁を使って手作業で仕上げる。背から平はスムースに、折り返しはできるだけ薄く。なだらかに、なだらかに。 一枚革で全体をくるむ「総革装」が本の正装だとすると、背を革で継ぐ「半革装」はやや

【製本記】 かえるの哲学 06 | 紙染め、ことはじめ

表紙に取りかかる。『かえるの哲学』は「背継ぎ」にしよう。背と平(ひら=表紙の平らな部分)の一部を異素材で継いだもので、例えば、表紙が紙で背とその周辺が革や布でくるまれている本、といえばピンとくるだろうか。 平の素材が本の印象を左右するのだが、ファンシーペーパーか、マーブルペーパーか、それともクライスターパピアか。どういうわけか、いつまでたっても決められない。どれもしっくりこなくって、無謀にも自分で紙を染めることにした。染めの知識も技術もないくせに。 紙染めにはさまざまな手

【製本記】 かえるの哲学 05 | もしも失敗したときは

バッキングを終えた『かえるの哲学』の背を固める。寒冷紗を貼り、さらに花布(はなぎれ)を貼る。製本経験のある方ならすでにお気づきだろうか。前回まで、わたしが見返しを貼り忘れていたことに……。やってもうた。 本当なら化粧断ちの前に貼っておくべきところを、きれいさっぱり忘れたままで断裁し、丸みをだし、ハタと我に返ったときにはバッキングまで進んでいた。この段階でどうにか貼り込むが、ここまできちゃあ本文と見返しのサイズを合わせるのが至難の業で、わずかなずれが解消できない。職人たちが練