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【製本記】 かえるの哲学

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『かえるの哲学』(アーノルド・ローベル 文・絵/三木卓 訳)丸製上製・半革装ができるまで
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2022年8月の記事一覧

【製本記】 かえるの哲学 04 | 古い糸と新しい糸

背を仮固めした『かえるの哲学』を化粧断ちする。「化粧断ち」とは本文を仕上げ寸法に断裁することで、天、地、前小口(本文の開く側)の三方を手動の断裁機で切る。この断裁機は10年ほど前に「えいやっ」と購入したものだ。わたしにとっては高い買いものだった。 こうして道具を増やすたび「死ぬまで製本をつづけるのだから」といいわけめいたことをつぶやく。死ぬまでつづけることに迷いがあるわけじゃないのに、なぜそうしてしまうのだろう。 製本家は、大小さまざまな道具を必要とする。ルリユールなら、

【製本記】 かえるの哲学 03 | 職人ことばは粋なれど

目引きした穴を使って『かえるの哲学』を綴じていこう。麻糸を用意し、蜜蝋の上を数回すべらせて蝋引きする。製本用の先の丸い針に通し、するりと抜けないように針の根もとで留める。いざ、かがりはじめ。 この本は「フレンチ・ソーイング」という手法でかがることにした。これはわたしが最初に覚えた糸かがりで、ロンドンの製本教室で習ったものだ。フレンチと聞いて、教室の誰かが「フランス生まれの手法ってことですね?」と尋ねた。すると、熟練の製本職人である先生は「知らん」と答えた。 この正直な職人

【製本記】 かえるの哲学 02 | 本づくりの中空を漂う

プレス機から『かえるの哲学』を取りだす。2枚の板紙で挟み、折丁の背側を突きそろえる。「背」というのは、本の綴じられている側のことだ。それならば本の開く側は「腹」と呼びそうなものだが、そうではなくて、こちらは「小口(こぐち)」という。 平らにそろえた折丁の背を上にして、手締めプレスという道具に挟む。2枚の板の間隔を2本の大きなねじで調節するもので、手製本では何かと出番が多い道具の一つだ。こうしてしっかり固定して、事前に割りだしておいた6箇所に線を引く。この線が「糸かがり」のた

【製本記】 かえるの哲学 01 | ローベルおじさんの孤独

いま、取りかかっているのは『かえるの哲学』だ。文庫サイズの「並製(ペーパーバック)」として流通している本だが、これを「上製(ハードカバー)」に仕立てる。せっかくなので、糸でかがろうと思う。並製の本はたいてい背が糊でがっちり固められていて、それを糸かがりに仕立て直すには、本を解体するところからはじめなくてはならない。状態によっては、背の部分を断裁機でバッサリ切り落とすこともある。そうやって大胆に解体しておきながら、再びちまちまとつなぎ直すわけで、不毛な感じがする。製本に興味のな