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【本の展覧会】 製本好きのためのレビュー

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製本好きによる製本好きのための、本にまつわる展覧会情報
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【本の展覧会】 内藤コレクション 写本 — いとも優雅なる中世の小宇宙

上野の国立西洋美術館といえばクロード・モネの「睡蓮」やオーギュスト・ロダンの「考える人」がハイライトだが、本好きなら見逃せないのものがある。「写本」のコレクションだ。いつだったか常設展の一角で額縁に収められた写本の零葉たち(本から切り離された紙葉)を見て、釘づけになった。本という全体から引き剥がされ、にもかかわらずその面影を残す紙葉たちは、ゴシックの様式を伝える美術品の一つとして堂々と光を浴びていた。 今夏、その写本ばかりを集めた企画展「内藤コレクション 写本 — いとも優

【本の展覧会】 本の芸術家・武井武雄展

数年前、とある取材で長野県岡谷市の「イルフ童画館」を訪ねた。このちょっと変わった名前の美術館は、童画家として活躍した武井武雄の絵画や刊本を所蔵している。武井作の小さな本たちは、まるで工芸品のようで、いつかもう一度見たいと思っていた。そんな武井の刊本作品が神奈川近代美術館にやってくると知り、いざ「本の芸術家・武井武雄展」へ。 明治生まれの武井武雄は、大正から昭和にかけて活躍した人物だ。いまの職業に当てはめるならば「イラストレーター」ということになるのだろうが、この一語では到底

【本の展覧会】 芹沢銈介の絵本と挿絵

子どもの頃から出不精なわたしは、休日には(できれば平日も)一歩たりとも家からでたくない。しかし、芹沢銈介美術館は別だ。この美術館で新しい企画展がはじまると、片道2時間の道のりをいそいそとでかけてしまう。 芹沢銈介は明治生まれの染色家で、大正から昭和にかけて活躍した。匠を極めた人間国宝であり、柳宗悦率いる民藝運動の中心的人物でもあった。「染色家」と聞くと、来る日も来る日も布を染めているように思ってしまうが、芹沢の仕事は暖簾や着物地に留まらず、本の装丁やポスター、店舗の看板や包

【本の展覧会】 世界のブックデザイン 2021–22

本は、いつ生まれたのか —— この問いに唯一の正解を求めるのはむずかしい。なぜなら、何をもって本とするかの線引きが困難だから。しかし、粘土板でもなく巻物でもない、わたしたちがよく知る「冊子」の形態の誕生については、紀元1世紀頃に古代ローマで発明されたとする説が有力だ。 つまり、本の基本形はおよそ2000年前にできていたのだ。コップや皿ならまだわかる。ワインを飲むため、あるいはパンをのせるための器について、その機能が最もよく果たされる形態が2000年前に発見されていたというの

【本の展覧会】 活字 — 近代日本を支えた小さな巨人たち展

みんながみんなとはいわないが、製本をする人の多くが活字あるいは活版印刷に興味をもっている。手製本をするなら本文は活版印刷でと考える人もいるし、表紙に意匠をほどこす方法の一つとして活版印刷を取り入れる人もいる。またルリユールでは、革装の表紙に箔押しで題字を入れる場合が多く、自ずと金属活字の世界に足を踏み入れることになる。工芸的なアプローチで本に迫ろうとしたとき、活版印刷と手製本は分かちがたい関係にある。 そんな活字および活版印刷にまつわる展覧会「活字 — 近代日本を支えた小さ