ニセモノの街、ホンモノの街
「東京に疲れた」
この言葉が頭から離れなくなってやっと、
金券ショップに走ることができた。
リリーヴをやっていることで、自身について
いろいろとメディア等に取り上げてもらう
機会があっても、生活不安でまだ
バイトを辞められずにいる。
そんなバイト先から
一番近い金券ショップの中で、
一番安そうなところを探した。
コツは
「特別価格。お尋ねください」
を見つけること。
連なっている店たちは、
暗黙のルールで他と同じ底値で販売する。
でも昔からそこにある老舗なんかは、
こうやって表示していて、
聞くとこっそり電卓で
数十円安い価格を提示してくれる。
長年そこに座ってるから、
今更居心地が悪いもクソも無いんだろう。
腹を割って他人と話さない。
他人の目を気にして、
口に戸を立てて、
自分にとって必要なときにだけ口を開くこと。
それこそが合理的で、傷つかなくて、
自分の美味しいところをいただけるコツ。
東京のそういうところに、
逆に傷つき疲れていた。
流行りを、つまり経済の発展を、栄誉を
本当にごく僅かな人だけが
恩恵を受けられるような環境を
欲して誰もが手を伸ばし、
その為だけに言葉が紡がれる、建物が立つ。
その瞬間求められるものだけを見つめて
ハリボテでも耐えられれば成り立つ
ニセモノがホンモノの街。
高層マンションは次々に建てられていくけど、
路上で眠る人も同じくらい次々に生まれる。
空は狭くなるけど、人の手の平だけは無限だ。
指先一つで映画も夢も見られる、見せられる。
誰もが誰にも関心が無くて、
それがとても心地よいけど
「路上で酔い潰れて凍死する人は
熱中症の死亡者より多いらしい」
と聞いてからちょっと気持ちを改めた。
なにより、
「余暇の時間」が何なのか
わからなくなる感覚。
SNSはチラシや便所の壁に書く
落書きポエムになって心を助けてくれる。
最近はただのタスクにもなって、
誰かの欲求を満たすことで
自分の隙間を埋めるだけのものにも
成り下がる。
それならいっそ
一方通行の落書きのままであるほうが、
よっぽど救われる気がする。
「東京にはホンモノがある」って、
きっと多くの人は思っているし、
実際そうだと思う。
美味いもの、綺麗なもの、高名なもの。
人工的なものや流通させられるものなら、
変に旅行するより東京に居た方が接しやすい。
でも、人の心だけは
そういう強い光の影になってしまう。
とにかく。
東京が初めてこんなにもつらかった。
歌舞伎町で毎晩飲み歩いてたあの頃には
考えもしなかった。
一番優しい街だと、信じていたから。
朝6:00 の新幹線は、思ったより人が多かった。
ほとんどがスーツ姿で、
何かを食べ飲みすることもなく
すぐ眠ってしまう。
静かな車内。
人の気配はあるのに声がしないのは
寂しくも、煩わしくもなくて丁度いい。
真っ暗な中、家から駅に急いだときは
夜逃げしたみたいな
後ろめたさと高揚感があった。
飼い猫にだけは、たった一泊とはいえ
申し訳なさすぎてたくさん話しかけたし
自動給餌器の設定も3回は確認した。
でも今回は
「さようなら、すべての人」
って気持ちだったから、
昨日の今日で旅に出ることは、
ほとんど誰にも知らせなかった。
最低限、仕事についての簡素な表明と
旅に出るとき恒例
「万一のときの意思表示」だけ
一筆残して出発した。
朝日が強く窓から差し込んで、
「あぁ本当に自由なんだ」
と口の中で小さく呟いた。
生まれ変わるような、
年越しの初日の出のような、
不思議な晴れやかさ。
もう何度目かわからない京都一人旅。
前回は刺青を入れただけで帰ってしまった。
一年半ぶり、すっかり勝手を忘れていた。
ロッカーの場所すら思い出せなくて、
重たい荷物のまましばし歩いた。
でも忘れるって、
強くてニューゲームみたいで
ちょっと良いもんだな、ふふ。
歩くほどに空気がじぶんに馴染んで、
バスの乗り方を思い出して、
しかも誰も知り合いがいないから
無敵だった。
わたしは、わたしにしか
時間も気もつかわなくていい。
京都に居る観光者は、
なぜかみんな行儀がいい。
歩き方というか、互いへの配慮というか、
そういうので不愉快になったことが少ない。
千年の時を経た建物や植物がそうさせるのかも
なんてふと思う。
霊験あらたかな、結界のような膜に守られて
澄んだ空気が、居住まいを正させる。
目を光らされている窮屈さとは違う、
見守られるような距離感から生まれる自律。
なんとなく
「善きじぶん」を裏切れないような感覚。
そういう意味で
「ああやっぱり京都って、"ホンモノ"の街だ」
って安心したのだった。
旅行についての詳しい話は
ぜひ 11月14日(日)22:00〜 ツイキャスで。
ニコニコチャンネル放送、始まります。
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初回放送:11月17日(水) 20:00〜
※最初の20分間は無料視聴可能!