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物語をつむぐ、デニムのかたち。 | REKROW TALKS #01

繊維産業で最近注目されている反毛(はんもう)※1 ではなく、役目を終えたデニムの傷やアタリを新しい素材として見つめ直すプロジェクトREKROW(リクロー)。

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今回は、プロジェクトアドバイザーとしてSmiles代表の 遠山 正道さんとデニム生産量で国内トップシェアを誇るデニム生地メーカーカイハラ株式会社の代表取締役会長 貝原 良治さんを迎え、プロジェクトマネージャーの山口と黒木による進行で行われたトークイベント「REKROW TALKS #01」の様子を残します。

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役目を終えたデニムのワークウェアが生む、新しいデニムのかたちを探していきます。

(※1 衣類や裁断くずを回収し、解毛機や反毛機にかけて、わた状に戻した繊維のこと)

REKROWの始まりは、デニムの思い出から。

トークライブはプロジェクトメンバーの黒木が司会進行を行い、大きく3つのテーマで進めていきました。

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 “Hi, We value origin, attachment and succession for your special person from Hiroshima.”

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黒木:今日はみなさん、よろしくお願いします。今回はREKROW TALKS 1回目として、カイハラデニムの貝原さん、スマイルズの遠山さん、そしてプロジェクトマネージャーの山口さんにお話を伺いたいと思います。

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REKROW / 黒木 美佳

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黒木:まずはゲスト紹介です。カイハラデニムの貝原さんは糸づくりから一貫したデニム生産をされていて、品質も含めて国内でもトップシェアを誇り海外の有名ブランドからも信頼が厚いデニムメーカーです。

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カイハラ株式会社 代表取締役会長 / 貝原 良治さん

黒木:遠山さんは、スープストックトーキョーやPASS THE BATON、100本のスプーンなど、ユニークなビジネスを次々成功させるSmilesの代表取締役社長です。REKROWへはアドバイザーとして参画いただいています。今日はZOOMでご参加いただきます。

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Smiles 代表取締役社長 / 遠山 正道さん

黒木:そして、プロジェクトREKROWの発起人でもあるプロジェクトマネージャーの山口を紹介します。広島県福山市で長年縫製の現場に携わりながら、ものづくりの現場を支えています。

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REKROW / 山口 和也

---まずは、REKROWの紹介から。

黒木:REKROWを私たちは「産地型サーキュラーエコノミー」と呼んでいます。広島県福山市は日本でも屈指の繊維産地で、私たちは作業着のアップサイクルを目標にプロジェクトを開始しました。

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黒木:壁に掛けているのが、プロジェクトを分かりやすく伝えるためのパッチワークです。

廃棄される作業着を解体し、パーツ化して縫い直しました。繊維まで戻す反毛(はんもう)ではなく、あえて使い込まれたデニム生地の表情を活かすことがREKROWの特徴です。

---テーマはデニムの思い出へ。

黒木:ここまで私ばかりしゃべって恐縮です(笑)

では、まず初めにトークテーマに沿った「原点」について伺いたいと思います。デニムへの愛がREKROWにおける原点と思っているのですが、貝原さん。今日の服装がとっても素敵ですね。

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貝原:ありがとうございます。今日身に着けているものは、時計からテーラードジャケット、コサージュまで全てデニムでできています。仕事上、この服装が一番アピールできるので今日もこのセットで伺いました。

黒木:時計もですか、素晴らしいですね。確かにお客さんに対してはわかりやすいですね。とても素敵です。

遠山さんはデニムをよく穿かれますか?

遠山:そうですね、あと僕のデニムの思い出は中学生の時に上野のアメ横で買ったLeeです。デニムはいろいろ穿いてきて、大人になってからはギャルソンや変わったデニムも穿きましたよ。

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遠山:デニムを穿き始めたときって、「洗っちゃいけない」みたいな雰囲気なかったですか?穿いてお風呂に入るとか、都市伝説的なものもあった思い出があります。あれって、どうなんですか?(笑)

山口:実は私も洗わないほうがいいと思っていたのですが、専門的に言うとやっぱり洗ったほうがいいですね。 

---会場 笑い

山口:実際に洗ったほうが、デニムに綺麗な色落ちが生まれます。というのも、デニムの生地は汚れによって痛むので、洗わないと黄色く変色してしまうこともあるんですよね。

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遠山:なるほど。黄色いデニム、僕は嫌ですね。デニムのセットアップなんかも着るので、デニムには愛着がありますよ。セルビッチデニムみたいな色落ちのこだわりはありませんでしたが。

---デニムの洗い方にはいろんな意見があるみたいです。

黒木:その点でいえば山口も、デニムへのこだわりは強いですよね。REKROWの構想もデニムへの愛から生まれてたと聞いています。

山口:そうですね、大量生産品が多い現代で、大事に長く着られるデニムが昔から好きでした。造船業に関わるデニムの作業着を作るとき、どう変化していくのかワクワクして。

役目を終えたデニムを見たときに、捨てるのがもったいないと思ったんです。そこで作業着を引き取って、捨てられない何かに変えたいと思った。それがREKROWの始まりです。

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黒木:補足すると、REKROWの第一弾は造船所のユニフォームですよね。デニムの表情が一点ずつ違うのは、塗装や溶接などを請け負う人や、最終工程の人など造船業の多種にわたる作業工程がそのままデニムに表れるからです。この違いがとても面白いと感じています。

山口:あとは、ONOMICHI DENIM PROJECT(※2)があったことも大きいですね。

2013年にプロジェクトを始めて8年が経過し、色々な気づきがありました。尾道のいろいろな人に無料で1年間穿いてもらったデニムを販売するのですが、リアルユーズドデニムに本当に価値が出るのか不安視する意見もありました。

でも、尾道という町の方々に穿いてもらいながら、デニムが生まれる瞬間がわかり始めて。するとデニムの表情が生活や仕事のキャンバスに見えてくる。そこに物語があって、価値に変わる。人と交わりながらものづくりが生まれるこの取り組みが、尾道を知るきっかけにもなっている。貝原さんのところで働く人の声を元にデニム生地を試作できたのもよかったです。

ここで大事にしたいものが、REKROWにつながっていると思います。

(※2 尾道の街で暮らし働く人々がデニムを実際に穿き込むことで、加工では表現できない、1本1本に豊なストーリーと個性を刻んだユーズドデニムを育てる世界初の取り組み。 ONOMICHI DENIM PROJECT

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黒木:REKROWの素材に関して、お二人からも初めて見たときの感想がもらえたらと思います。どうでしょうか?

遠山:ONOMICHI DENIM PROJECTは5年ほど前に拝見していて、印象的でした。とはいえ自分で穿きつぶすことも好きなので、その楽しさが味わえないさみしさも在りましたね(笑)私が取り組むPASS THE BATON(※3)も、前に使っていた人のストーリーを載せて販売する新しいリサイクルショップみたいなものです。

たとえば今私が乗っている車は13年乗り続けたトヨタのクラウンなのですが、黄緑色に全塗装しています。中も革張りで変わったスタイルですが、13年も乗れば普通に販売すると0円だと思います。でも僕は、100万円で売る自信がありますよ。

---会場 笑い

遠山:製品は基本的に減価償却になりますが、ヨーロッパの建築などはむしろ使い込まれることで価値が上がったりもしますよね。尾道デニムは、それをプロジェクトとして行ったことがすごい。デニムへの興味もあったので、REKROWは魅力的でしたね。常石造船さんをはじめ、地域の経済圏も巻き込んでいる点も面白いと思います。

(※3 NEW RECYCLEをコンセプトに、個人から集めた想い出の品物や、
愛用されていた品物を、大切に使ってくれる次の方へ持ち主の顔写真とプロフィール、品物にまつわるストーリーを添えて販売するプロジェクト)

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黒木:なるほど、貝原さんはいかがですか?

貝原:常石造船さんからお話があったときに、職場や仕事の激しさでデニムの色合いが変わってくるのは初めての試みでした。こんなことがあるのか、と。

火花が散れば穴が開くし、作業の部署ごとに変わる。改めて、色々な場所と人に穿かれるのがデニムだと感じました。そう考えると、いい試みをさせてもらったと思います。

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貝原:穿く人同士がデニムの色の違いをきっかけに話が弾む点は、ほかの衣料とは違いますよね。もともとはアメリカでワークウェアとして始まり、日本ではカジュアルとして始まった。

現在は、デニムで様々な技術変革も起こっています。今日着ているセットアップの糸はマカロニのようになっていて、中心がスカスカで軽い。見た目は同じ生地でも、着心地は全然違います。デニムも、変化している。

私たちも新しいものをマーケットに出していきたいと考えています。

黒木:なるほど、非常に面白いですね。着古して穴が開いても価値がある素材はデニムしかないのではないかと、私も普段感じています。

今日穿いている山口のデニムも、だいぶボロボロになりましたね。

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山口:今日のジーパンはタンスの中にずっと入っていたのを見つけて、みなさんに見てもらいたくて穿いてきました。

私が福山の縫製工場に入社して1週間後に先輩がくれたもので、今までは東京で買っていたデニムが自分が入る工場で作られていたことにすごく驚いて。毎日反物を担いだり作業をしてボロボロになる度に、継ぎはぎをして20年以上穿いています。

改めてこのデニムを見たときに、マジックのキャップを付け忘れてできたポケット染みとか、擦れて空いた穴とか。新しいものを穿いて仕事をすればいいんですが、愛着や好きなミュージシャンが着ていたのを思い出しながら穿き直すんです。

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山口:そしたら、私の子どもがこのデニムをみて「なんでこんなボロボロを穿くの?」って聞くわけです。その時に、自分のルーツを語るきっかけが生まれました。もしかしたら、この話を子どもたちが覚えていて、同じミュージシャンの曲を聴くかもしれない。

そんな、カルチャーの源だと感じています。

黒木:確かにデニムの表情には、そういう人の歴史や想いが積みあがっているように感じます。新しいものは素敵だけど、使い古されたものにも愛着という価値が生まれますね。

使い込まれたデニムに、呼び名が欲しい。

---話は次第にデニムの価値について進みます。

黒木:価値づくりでいうと、遠山さんに以前の打ち合わせの際「プロパー)越え」のお話をしていただきました。製品そのものが持つ価値を超えていく価値づくりを、REKROWでも進めていきたいと思っています。

価値の作り方について、改めてお話を伺いたいです。

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遠山:最初のきっかけは、「もったいない」からでしたね。

私も古着好きが好きなんですが、以前友人の仲人をやった際に江戸の骨董品をプレゼントしたことがあって。骨董屋さんって面白くて、高額なものでも新聞紙に包んでコンビニ袋で渡してくるんです。それを新郎に渡すとき、どうすればいいか悩んで。

結局、そのまま渡しました。そうすると、新郎から見ると製品が良いかどうかわからないんですよ(笑)

そのとき、山口さんのデニムみたいに、モノの価値を伝える方法が通っていないなと感じて、そこをどうしようかと考えました。

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遠山:骨董品までいくとまだわかるんですが、もう少し手前のものもありますよね。

例えば倉庫に眠っていた昭和の洋風ティーカップとか一見するとダサくも見えます。だけど、それをただの売れ残りではなく、例えばPASS THE BATONのロゴと梱包を加えると魅力的に見える。そこにお菓子を置いてパッケージすると、人気商品になりました。

要するに、見せ方一つで価値がちゃんと伝わると思ったんです。

循環型経済やSDGsには興味はあるのですが、どちらかというともったいないからやっています。電気がついてたら消すし。物は分別して捨てる。そのくらいのことでした。再生すればいいわけでもなく、愛着がよくて好きだから使う。ダサければ使わない。魅力があるからちゃんと伝える。それが、重要です。

12年前から始めたPASS THE BATONは、企業でやるとリサイクルが目的化してきます。在庫や人が大切にしていたものを扱うので、逆に言えば理由がないと扱えない。新品の民芸品は扱えません。

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黒木:なるほど。

遠山:ほかにも例えば、パタゴニアのトートバッグが色移りの原因から6000枚在庫になって相談されたことがあります。

僕たちはそれを後染めして、念のため布を縫ってポケットで隠しました。そしたらいろいろ不思議なデザインになったけど、普通プロパーじゃない製品が作れた。

そして、この製品は6000枚しかない。こういうのが楽しかったんです。愛着あるストーリーと共に丁寧に届けることですね。なので、REKROWにはとても共感しました。

後ろの壁にあるパッチワークも、縫うのは簡単なのに解くのは凄く大変だと聞いて。なんでそんなことするのかと思ったけど、そこがまさに時間を可視化するような価値で重要だと。時間の堆積化をうまく伝える手段が考えられたらなと思っています。

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黒木:ありがとうございます。貝原さんは遠山さんのお話や価値の伝え方について、どう感じられますか?

貝原:遠山さんの言う通りで、デニムを解いて改めてリプロダクトすることは本当に多くの時間がかかります。その価値をどれだけ消費者の皆さんが認めてくれるかだと思いますね。

黒木:貝原さんはよくお分かりですよね。

貝原:わからない人にはわからないんですけどね。価値観は人それぞれが持っていますので。その中でも、良いと思ってくれる人が手に取ってくれると嬉しいですね。

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遠山:そういえば、漆でいうと根来(ねごろ)でしたかね?赤い漆を使っていると表面が剥げて下地の黒が見えてくる。それってアンティークの世界ではすごく高価なんですよね。古びたことで現れる価値を体系化ができている。

デニムも、同じように表面の生地を解いた後ポケットに残っている色みたいな状態を、デニム業界として言葉で価値づけないでしょうか。言葉があれば、みんなが価値として鑑賞しやすくなりますよね。そうすると説明が省けますよ。

黒木:確かに、貝原さんもよくご存じですがデニムの生地見本は無加工のものから色落ちの段階を数枚セットにして準備されていますよね。

貝原:そうですね。

生地は数枚セットで準備しないと、デニムの変化を理解しにくいですから。色の変化がデニムの良さでもあって、逆に色が落ちない特徴を持たせることもできる。その場合は分散染料を利用します。

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貝原:シンプルな染めのインディゴ染料を使うと、色も徐々に変化します。通常の衣服であれば、色が落ちると消費者からクレームがきますよね。でも、デニムでは色落ちが価値になるんです。

遠山:ちょっと聞き取れなかったですが、分散染料?色が落ちる染料と落ちない染料で違うんですね。

貝原:ポリエステルのように色が落ちないものを分散染料、色が落ちるシンプルな染めをインディゴ染料、直接染料と呼んでいます。染めるものによって変えています。

遠山:なるほど。そういえばデニムの最初の生地は「生」って言いますよね?でも、普通「生」なんていわないと思うんですよ。野菜やお肉なら言いますけどね(笑)

---会場 笑い

遠山:デニム生地のことを「生」と表現することは、ちゃんと言葉が流通したから僕でもわかることですよね。でも、これだけプロがいても色落ちについての言語が無いじゃないですか。そこを、伝える言葉が欲しいですね。「良い感じに直接になってきたねぇ」みたいな。

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遠山:生からブリーチの段階を、わかんないですけど暦でいう「さつき」みたいな風情ある名前にしてみたり。

黒木:そうですね、面白い。

遠山:男の子が好きなプロの専門用語みたいに流通させてほしいです。プロの言葉を上手にね。

貝原:色がフェードしちゃった、とかでしょうか?

遠山:フェードアウトのフェードですか?デニムで使うんですか?

山口:そうですね、使ったりしますよ。

遠山:いいですねぇ。「良いフェードしてるね」とか、言いたいですね。

---会場 笑い

貝原:染料によって落ち方が違ってくるし、コストも違ってくる。プロダクトが求める品質によって、染料も変わってきます。良いものを作っても、コストが高ければマーケット性がないですからね。そこの工夫が必要ですね。

遠山:そうですね。後ろのデニムパッチワークで、ポケットが外された部分が濃く残ってますよね。そこを例えば「ロックされている」とか、「このロックの際が良いんだよね」みたいなことを言いたいです。

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黒木:いいですね。REKROWが作った新しいフェードの名前があると面白いですね。

遠山:そうそう、我々が共通の言語を持たないと、例えば職人の人に穿いてもらっても伝えきれないですよね。言葉があれば、例えば「もう3フェードして欲しいんだよな」みたいな(笑)そしたら職人さんも穿きごたえもありますよね。

黒木:たしかに。

遠山:アートでいう抜け感とか、薄塗、厚塗りみたいな。絵画っていうとすごく抽象的だけど、言語化することでアーティストの過程を読み解きたいんですよ。アーティストとの共通認識を持って共通言語で話しながら、だからこの絵は凄いんだよねって言いたい。

苦労や時間の経過を、山口さんが20年穿いてるデニムみたいにね、そのフジツボ感いいよねぇ、やっとクサムラができたねぇ。みたいな。そういう嗜好品として、ワインや料理を言語化するようにデニムも言語化することが重要だと思います。

続けることが価値をつくる。

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--- 会場も、時間と共にフェードしてきました。

黒木:言語化というのは、すごく面白いですね。名前があると、みんなが共有できる。貝原さんは今の話いかがでしたか?

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貝原:とても面白かったですね。ところで、ここまで話してきて、REKROWという言葉の語源についてまだ聞いていなかったですよね。

黒木:本当ですね、ありがとうございます(笑)

貝原:WORKER(ワーカー)という字を一度書いてもらって、それを反対から読んでもらうとREKROW(リクロー)になりますよね。

山口:そうなんです。文字を逆さにするリバースからや、REの文字には循環や再生の意味も込めています。

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黒木:この単語はもとからあるわけではなく、私たちが作った造語です。逆さ読みの造語はたくさんあるのですが、ワークウエアとして一度終わったものをもう一度蘇らせるこのイメージがピッタリだと思ったんです。

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---ここから、プロジェクトメンバーで考えた質問を2人へ投げかけました。

黒木:お二人にお聞きしたいのですが、REKROWのように産地からプロジェクトを発信することについてどう思われるかを教えていただきたいです。

遠山:すごく面白いと思います。今、僕はよく仕事について考えていて。

大変じゃないですか、会社も副業の時代なんて言っていて、会社としてこれだけやっていれば安心ということがなくなった。会社すら副業をやたらいいと思うし、一人一人の働き方や生き方も変わってきた。安泰がなくなってきたと思うんです。

会社に依存する働き方ではなくて、もっとグラデーションのある働き方が増えて、仕事もプロジェクト化していく。

私であればスープ屋がネクタイ屋になって、リサイクルショップやってホテルやってのり弁屋やってみたいな。関係ないといえば関係ないけれど、自分たちの興味でいえばすべてが繋がっているんです。

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遠山:逆に言えば、業界や領域は関係ないわけです。

これからはもっとプロジェクト化し、企業から個人の時代になり、働き方も一つの会社に依存せず住み方や働き方をコミュニティの広がりが必要なはずです。今は2拠点生活もありますよね。

本拠点がなくなって、移動しながら暮らす人もいます。本体が薄れてグラデーションある生き方を獲得する時代だと思っていて、その一つのキーワードが地方だと思っています。そして、一つの産業や仕事にとらわれすぎない。そういう多様性をもちながら、自分の心や体に嘘をつかないことが大切だと感じますね。

黒木:なるほど。

遠山:仕事なんてちっともうまくいかないんだから(笑)

それでも好きだからやって、何とかなる面白いプロジェクトがいくつか同時並行している生き方になっていく気がしています。

私にとってはデニム、広島、福山とかがキーワードとして、切り口になって、こんご福山駅前のプロデューサーも声をかけていただいた。それは、REKROWの話をインスタか何かで書いたからですよ。

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遠山:そうして、福山で2つのプロジェクトが繋がりました。宿泊させてもらっているNIPPONIA(※4)の人たちも面白そうだから、そこでまた何か繋がりそうだし。私も6社くらいの会社を経営していたり、コミュニティ運営もあって、いろんな引き出しが絡んでくる感じがしています。

その一つの切り口が地域ですね。コロナ禍の前から僕は北軽井沢に行って不便と孤独を楽しんでいるんですけど、東京だけじゃない価値観が楽しいんです。

---働き方や価値観、生活の多様性ですね。

黒木:一つの枠を超えた話がたくさん出ましたね。貝原さんは、REKROWというプロジェクトを聞いてどう思いましたか?

貝原:私は、この名前を浸透させるためには続けていくことだと思いました。そうしないと、みんなにわかってもらえないと思います。

(※4 福山市の鞆の浦にある宿泊施設。その昔鞆を訪れた船が潮待ちをしたように、自然の流れに身をまかせる宿。)

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貝原:続けることには、非常に大変なエネルギーを使うと思いますし、それだけの情熱をもってやらないと、成功できないのではないかと思います。

いろんなものに手を出すのではなく、まずはREKROWという名前を通し、知ってもらってから世の中への太いパイプにしていけばいいと思います。私はちょっと古い考え方なんですが(笑)

黒木:いえいえ。やはり続けるのはとても大切なことですよね。

物語をつむぐ、デニムのかたち。

---トークライブも、いよいよ終盤。

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山口:僕にとってREKROWは、やっぱりデニムの素晴らしさが際立っているプロジェクトだと思っています。時間や手間ひまをかけてここまで作られわけですが、その価値をお金に換える上で例えば上代の設定とかも難しいですよね。

アート作品であれば、有名アーティストがびっくりする値段を提示しても通用すると思うのですが。量産品でかつ目的が違ったもののカタチを変えて循環させるためには、市場であったりお金に変換される必要があると思います。

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山口:その中で、REKROWを事業化し、循環させるためにはどう市場化、つまりマーケットづくりを進めるべきかについてお聞きしたいです。お二方なら、どんな形にされますか?

遠山:ビジネスはよく客数×客単価みたいに量の話がありますが、あまり量を追う仕組みにすると無理が出てきそうかなと。なるべく元々のコストは下げながら、アートピースのように扱うことでもないので。むやみに高価にするのもどうかな、と思います。

1/1の人生とよく言うんですが、分母を小さくすれば分子も小さくて成立します。これで儲けたり大きくしたりをあまり考えず、とはいえ赤字では継続できないので。自分たちにとってやりがいあるプロダクトを、丁寧に届けながら細く長く続けることが良いのかな、と思います。

福山のデニムがインターネットで海外に広がっていくのは、ワクワクしますね。

山口:なるほど。貝原会長はいかがですか?

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貝原:やはりね、ブランドを売っていく、ということは相当な努力が必要です。

そのために作り手本人が売って回りながら、お客さんの反応を感じることが大切だと思います。そこを誰かに任せてしまうと、成功しないのではないでしょうか。

自分の商品を、自分の手でお客さんに届けていく。それが大切だと私は思っています。

黒木:ありがとうございます。いろいろと興味深いお話をいただきましたが、お時間も迫ってきましたので会場の方からもご質問を受け付けたいと思います。いかがでしょうか。

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質問者:お二人に伺いたいのですが、まず貝原会長からお願いします。10年ほど前からカイハラデニムのブランドを発信し始めたと伺っているのですが、そのきっかけを教えてもらえますか?

貝原:まず初めに、値段と量で競争すれば日本は海外に勝てないと思っています。我々としては、常に新しい商品を作り続けることが、日本でものづくりをしながら生き残れるチャンスだと思っていて。

デニムメーカーは、世界を見れば私たちより大きな会社がいくつもある。その中で日本で生き残るためには、さらにリードタイム(製品を注文されてから届けるまでの時間)を早くし、生産期間を短くすることも大切だと思います。いくら良いものを作っても、遅れてしまうと価値が薄れてしまう。値段は後からついてきますから。

そのうえで、最初はカイハラデニムをどこで買えるのか聞かれることが増えて、自社ブランドを作ってクラウドファンディングなどを使ってマーケットに入り始めました。

質問者:よくわかりました。遠山さんには、話の中で何かをすれば価値が生まれるという話で、福山でも工場がどんどん海外に移っている現状があり、産地が厳しい状態になりました。

その中で、特に素晴らしいブランドを手掛ける縫製工場が価格競争になっているので、どう産地をブランド化していけばいいと思われますか?

遠山:これは私の好みによる意見ですが、私なら間違いなくオリジナルブランドを作りますね。もちろん縫製等の分業があるので1人ではできないと思いますが、私は自分の中に見たいシーンが最初にあるタイプなので。

仮に私がデニムメーカーの3代目だとすると、自分たちで企画デザインしないのはとてももったいないと思います。私ならウキウキしてやっていると思います。

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遠山:さっき紹介した仲人の話の新郎は、松山油脂というマークスアンドウェブという石鹸を作っていて、もともとは石鹸の下請け工場でした。彼の父が2代目で、もう石鹸工場は閉めると言ったときに彼は「閉めるのはいつでもできるから、僕が継ぐ」と言って仕事を辞めました。

最初は工場で作業を経験して、そこからオリジナルブランドを作って東急ハンズやロフトに持ち込んみ売れるようになった。次にブランドを更に突き詰めて、丸ビルに6坪のお店を出して大繁盛していきました。

この間は高知県かどこかで柚子の山を購入して、地域と一緒に柚子の栽培をしながら柚子を原料にした精油製品を作ろうと作って4年くらい試行錯誤していました。とても楽しそうで、かつ製造から販売まで全て世界観を一気通貫でしているところがすごい。

事務所ではスタッフが離籍するときのルールなど美意識を統一していて、一方で工場の作業服リスペクトを込めて当時のままだったりする。そこで、ブランドの魅力も伝わってくる。彼らは請負を辞めて、何を伝えたいか突き詰めてやってるんです。

彼も常に自分の中に責任と、見たいシーンがある。その根っこには下請けで培った技術と経験、実績がある。皆さんにも同じようにデニムの知識がたくさんあるわけです。さらに、地域としてのブランドもある。

きっとワクワクしてオリジナルブランドを作っていると思います。

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質問者:ありがとうございます。貝原さんはこの地域で世界のカイハラブランドを作られたことと、いろんな産業がある中で外からの力も必要だと私自身が感じています。

その点でREKROWは遠山さんにアドバイザーになっていただいたと思うので、ぜひ今後も地域の技術と価値を見ていただいて、地域を元気にしていただけたらと思います。コロナが明けたら、またぜひお越しください。

遠山:ぜひまた行かせてください。

黒木:まだまだお話を聞いていたい感じなのですけれども、お時間が着てしまいました。これからREKROWを継続し、繋いでいきたいと思っています。みなさんのご協力をお願いして、今日の回を終了したいと思います。

遠山さん、貝原さん。今日はありがとうございました。これからもよろしくお願いいたします。

---あっという間の1時間半でした。

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初めて開催されたREKROW TALKS。物語はまだまだ始まったばかりで、今後もデニムを軸に福山の中と外から物語を紡いでいきます。どんなかたちが生まれるでしょうか。

今後もREKROWを、どうぞお楽しみに。

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(準備のヒトコマ)

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(オンラインでもご参加ありがとうございました)

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Youtube アーカイブはコチラhttps://youtu.be/r1YqPOe7_zs
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■REKROW TALKS #01
日時:2021年4月29日(木・祝) 18:00-19:30[開場17:30]
場所:ONOMICHI SHARE & Online配信
参加費:無料
定員:30名(会場)
Online:https://youtu.be/r1YqPOe7_zs

■GUEST
〇遠山 正道さん / Masamichi Toyama
株式会社スマイルズ 代表取締役社長
2000年株式会社スマイルズを設立、代表取締役社長に就任。現在「Soup Stock Tokyo」のほか、ネクタイ専門店「giraffe」、セレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」、ファミリーレストラン「100本のスプーン」など多くの事業を展開する。
https://www.smiles.co.jp/

〇貝原 良治さん / Yoshiharu Kaihara
カイハラ株式会社 代表取締役会長
広島県福山市で1893年に創業、2003年に代表取締役会長に就任。デニム生地生産量は国内トップシェアを誇り、その品質は日本はもとより海外からもその実績を高く評価される。デニム生地メーカー「カイハラデニム」はユニクロをはじめとし、世界のトップブランドにも生地を供給する。
http://www.kaihara-denim.com/

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