素人でもわかる永世中立国#6 ~軍隊なき変わり種 コスタリカ~
「歴史の悪魔チャンネル」へようこそ!
今回はシリーズ「素人でもわかる永世中立国」の第6回でコスタリカの中立政策について解説していきましょう。
【前回の記事】
第1回: https://note.com/rekishinoakuma/n/n9ef917c745ed
第2回: https://note.com/rekishinoakuma/n/nbf75b7523edc
第3回: https://note.com/rekishinoakuma/n/n06fa584ad8b4
第4回: https://note.com/rekishinoakuma/n/n35ce83a18cf8
第5回: https://note.com/rekishinoakuma/n/n710cd5eeae63
軍隊なき変わり種 コスタリカ
【国家概要】
コスタリカ国旗
◎コスタリカ概要
正式名称: コスタリカ共和国
首都: サンホセ
人口: 約499万人(2018年)
面積: 5.1万㎢ ※四国+九州: 6万㎢
コスタリカの地理
北西にニカラグア・南東にパナマと国境を接する
コスタリカは中央アメリカに位置する国家であり、陸では北西にニカラグア・南東にパナマと国境を接するのみとなっております。また、地理上北アメリカの大国であるアメリカ合衆国(米)の影響を大きく受けてきました。
【軍隊なき国家づくり】
コスタリカは1848年に独立を果たして以来、対外的孤立政策と二大政党政治によって中米諸国の中でも比較的安定した政治的風土を保ち続けてきました。またコスタリカは経済面でも政治面でもアメリカとの関係を強化してきました。
しかし、冷戦初期のコスタリカ情勢は不安定なものとなってしまいました。元々コーヒー・バナナなどの一次産品に依存していた経済が脆弱であったのに加えて世界恐慌・第二次世界大戦の影響で経済不振や政治不安が続き、また当時のカルデロン政権による不正選挙も浮上しました。さらに共産党勢力が当時のカルデロン政権と結びついており、社会主義・共産主義勢力がその勢力を拡大していました。
コスタリカ大統領 フィゲーレス(1908~1990)
コスタリカ内戦でカルデロン政権を打倒し常備軍を廃止した
そして1948年にコスタリカ内戦が勃発しフィゲーレス率いる社会民主党勢力がアメリカの支持を受けカルデロン政権を打倒して政権を奪取しました。内戦に勝利したフィゲーレスは反共路線を取り共産党を非合法化するなど親米路線を取っていきました。さらに政敵であるカルデロン派を排除するために当時強力なカルデロン支持派であった軍・共産党の精鋭歩兵部隊を解体し1949年の新憲法で常備軍の所持を禁止しました。
コスタリカの非武装路線は前回話した通りルクセンブルクが非武装中立路線を取りドイツに二度にわたり中立を侵害されたように自国を守るうえでは不十分に見えるかもしれません。しかしここで忘れてはいけない3つの重要点があり、それらは
①コスタリカは自衛権を放棄したわけではない
➁コスタリカの脅威となる国が殆ど存在しない
③コスタリカは資本主義陣営の国家であり中立国ではない
ということです。
立法議会の警備にあたる警察部隊
コスタリカでは軍隊が存在しない代わりに警察が国内の治安維持を行っている
①コスタリカは自衛権を放棄したわけではない
1949年の新憲法第12条では常設機関としての軍隊の保有を禁止していますが、それと同時に米州の条約及びその他の取り決めによる場合と国家の安全が脅かされた場合に限り軍の再編成が可能であると規定しております。また軍を廃止した代わりに治安警備隊(1996年に公安省直轄の市民警察)を設置しており、比較的強力な装備を持った警察組織で国内外の軍事的脅威に備えております。
コスタリカの地理
コスタリカに直接陸路で攻め込める国はニカラグア・パナマの2ヶ国に限られる
➁コスタリカの脅威となる国が殆ど存在しない
コスタリカと陸で国境を接している国はニカラグアとパナマのみとなり、そのうちニカラグアは1948年のコスタリカ内戦以降カルデロン派を支持しており度々カルデロン派がニカラグア経由でコスタリカへの侵攻を図っており、コスタリカとの間に国境紛争をも抱えております。その一方でパナマは長らく米軍の支配下にあり、米軍撤退後の1989年には軍備を放棄していることからコスタリカの軍事的脅威となる国はニカラグアのみとなります。
しかし、そのニカラグアもアメリカの抑止力を無に出来るほどの軍事大国ではなく、またコスタリカへの侵攻も国境紛争地帯にとどまり、その枠を出なかったためニカラグア軍がコスタリカの領土へと本格的に侵攻することは現在に至るまでありません。
アメリカ合衆国国旗
コスタリカの外交を語るうえで欠かすことのできない国家である
③コスタリカは資本主義陣営の国家であり中立国ではない
先述した通りコスタリカは親米国家であり冷戦を通してアメリカの資本主義陣営についており、米州の集団安全保障の枠組みである米州相互援助条約(リオ条約)に加盟することで自国の安全を守っております。その点では集団安全保障への加盟が許されていないスイスとは違い、厳密な意味での永世中立国とは言えません。
シリーズ『素人でもわかる永世中立国』で中立国ではないコスタリカを取り上げるのは不自然に思われますが、次回このシリーズでコスタリカを取り上げた理由が明らかになります。そこで次回はコスタリカを襲った危機と中立宣言について解説したいと思います。それでは皆さん次回お会いしましょう!
【参考文献】
◎コスタリカ基礎データ|外務省
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/costarica/data.html
◎小澤卓也「コスタリカの中立宣言をめぐる国際関係と国民意識 -モンヘ大統領の政策を中心に-」『ラテンアメリカ研究年報』1997 (17):29-53
◎山岡加奈子「コスタリカの非武装と対米関係 -小国の国際関係-」『アジ研ワールド・トレンド』2013 218:12-15
◎山岡加奈子「第2章 コスタリカ外交 –理念と現実-」『岐路に立つコスタリカ : 新自由主義か社会民主主義か』2014 :18-40
◎山岡加奈子「第3章 コスタリカをめぐる国際関係 米国との関係を中心に」『岐路に立つコスタリカ : 新自由主義か社会民主主義か』2014 :77-97
◎足立研幾「常備軍なきセキュリティ・ガヴァナンス -コスタリカの事例-」『立命館国際研究』2018 30 (4):23-43