
異世界産業医~労災から始まる異世界ホワイト化計画(第十六話)
⭐︎AIを用いて作成した労働衛生異世界ファンタジーです。
十六話 鉱山のカナリア
ギルドの一角で悠斗が書類に目を通していると、鉱山の現場監督ガルドが不機嫌そうな顔でやってきた。
「先生、ちょっと相談があるんだが……」
「どうした? また採掘現場で何かあったのか?」
悠斗は書類を置き、椅子の背もたれに身を預けた。
「いや、実際に何か起きたわけじゃねえ。ただ、最近妙に気になるんだよな。鉱山の窒息事故対策のことだ」
「窒息事故?」
悠斗は眉をひそめた。
「まさか、現場で有毒ガスの発生が頻発してるのか?」
「いや、頻繁にはおこらねぇよ。ただ、鉱山の狭い空間で原因不明の窒息事故がたまに起こるんだよ」
「なるほど、それで?」
悠斗の頭の中には酸欠か、有毒ガスかの鑑別が思い浮かんだ。
「今、現場じゃカナリアを使ってるんだよ。鳥が鳴かなくなったら危険だってやつだ。でもよ、カナリアが鳴き止むのを待ってたら手遅れになるんじゃねえかって気がしてな」
悠斗は少し考え込んだ後、頷いた。
「確かに、カナリアは簡易的な警告装置としては使えるけど、信頼性は低い。状況によっては反応しないこともあるからな」
「だろ? だから他にもっと確実な方法がねえかって聞きに来たんだ」
「そうだな……酸欠か有毒ガスか、どちらにせよ、まずは状況を正確に把握する必要がある」
悠斗はペンを手に取り、簡単なスケッチを紙に描き始めた。
「この場合、優先すべきは空気の質を定期的に測定する装置を導入することだな。たとえば、酸素濃度や有毒ガスの濃度を測れる携帯型の測定器を使うといい」
「そんなハイカラな道具、こっちじゃ見たことねえぞ」
「確かにこの世界じゃ珍しいかもしれないけど、魔導技術と組み合わせれば似たようなものを作れるはずだ。たとえば、魔石を使って空気中の成分を反応させるような装置を作れればいい」
悠斗はさらに紙に詳細な設計図のようなものを書き込み始める。
「魔石で作れるのか?」
ガルドが目を丸くする。
「魔石は反応性が高いから、うまく加工すれば酸素濃度や毒素の存在を感知する仕組みを作れるはずだ。ただし、実用化するには資金と時間が必要だな」
「そんなに手間がかかるのかよ……」
ガルドはため息をついた。
「だからと言って、カナリアだけに頼るのは危険すぎる。ひとまず現場に設置できる簡易な換気装置を増やしてみるのも手だ。これなら即効性がある」「換気装置か……それは今すぐできそうだな」
ガルドは頷き、少し表情を明るくした。
「ありがとうよ、先生。相談してよかった」
「いいってことさ。俺の目標はみんなが安全に働ける仕組みを作ることだからな」
悠斗は微笑みながら答えた。
「後で魔石を使った測定器の案もギルドに提出してみる。案外、採用されるかもしれない」
「そいつは頼もしい話だな!」
ガルドは笑顔を浮かべて現場に戻っていった。
悠斗は彼の背中を見送りながら、再びスケッチにペンを走らせた。
「……これで少しでも事故が減ればいいんだけどな」
と小さくつぶやいた。
「エリザ、いるか?」
悠斗は研究室の扉を軽く叩いた。中から「入れ」と少し不機嫌そうな声が響く。扉を開けると、エリザがカウンターに寄りかかりながら何かの設計図を眺めていた。
「なんだ、悠斗。頼みごとか?」
エリザが振り返り、手を止める。
「ああ、少し難しい話なんだが、鉱山で酸欠や窒息事故が発生している。原因はおそらく酸素不足か有毒ガスだ。それを感知できる魔道具を作れないかと思ってな」
「酸欠か……また妙なものを作らせる気だな」
と言いながらも、エリザの目が輝き始める。
「どんな仕組みを考えてるんだ?」
悠斗は少し考え込んでから答えた。
「俺の世界では、電気を使った仕組みで酸素濃度を測る機械があったんだ。確か、酸素が反応すると電流が発生する仕組みだったと思う」
エリザは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに得意げな笑みを浮かべた。
「それだけ情報があれば十分だ。魔石を使えば、電気の代わりに魔力を利用した感知装置が作れそうだな。酸素の反応性に合わせて魔力の流れを調整する感じだ」
「作れるのか?」
「当たり前だろう!」
エリザは胸を張り、紙とペンを手に取ると、設計図を書き始めた。
「これはボクの専門だ。数日もあれば試作品を用意してやる!」
「助かるよ、エリザ」悠斗はほっとした表情を見せた。
「その間、俺は鉱山側でできる対策を進めておく。現場には換気装置を増設して、空気の流れを良くするのが優先だな」
「それも重要だな。試作品ができたら、すぐに持って行ってやるよ」
とエリザが答える。
悠斗はその後、鉱山に向かい、換気装置を増設するための段取りを整えた。作業員たちにも、異変を感じたらすぐ避難するよう指示を出し、現場での注意喚起を強化した。
数日後、エリザが完成した魔道具を持ってギルドに現れた。
「できたぞ! 酸素濃度を測る魔道具だ。この結晶が青く光っていれば酸素は十分だが、黄色や赤に変われば危険だと思え」
エリザは自信満々に説明する。
「さすがだな、エリザ!」
悠斗は魔道具を受け取り、実際に動作する様子を確認した。
「これで鉱山の安全も少しはマシになるだろ」
とエリザが呟く。
悠斗は試作品の酸素濃度計を手にすると、具体的な対策を講じるべく作業員たちを集めた。
「みんな、カナリアに頼らない酸欠対策がようやく始動する。でもそれだけじゃダメだ。現場で安全を確保するための追加の取り組みを導入する」
悠斗はそう言うと、いくつかの道具を取り出した。
「まず、酸素濃度が低下している危険区域には、明確に立ち入り禁止の札を設置する。これで注意を促す」
悠斗が手作りした札にはこの先酸酸欠区域立ち入り禁止の文字が大きく書かれ、ドクロの絵も添えられている。
「次に、酸素不足の場所で作業する場合、これを使ってもらう」
悠斗は布と木材、そして魔石を組み合わせた手作りの送気マスクを見せた。
「このマスクには、外部から新鮮な空気を送るための簡易ポンプがついている。魔石を小さな風魔法で動かし、呼吸を助ける仕組みだ」
作業員たちは興味津々にそれを覗き込む。
「これなら、長時間作業しても息苦しくならなそうだな」と一人が感心したように言う。
悠斗は説明を続けた。今回の酸欠対策で、特に重要なテーマに触れる。
「次に考えなきゃいけないのは、二次被害のリスクだ。これが一番厄介で、見落とされやすい問題だ」
作業員たちは不思議そうな顔をする。
「二次被害ってのは、酸欠で倒れた仲間を助けようとして、救助に向かった人が同じ目に遭うことだ。パニックになって不用意に現場に突っ込むと、救助する側も命を落としかねない」
その言葉に、一部の作業員たちはハッとしたような表情を浮かべる。
悠斗は準備していた道具を取り出し、説明を続けた。
「まず、救助に行くときは必ずこの送気マスクを装着すること。これがない場合は絶対に救助に向かわない。生存率を上げるためには、酸素供給を確保した状態で行動するのが鉄則だ」
悠斗はさらに
「エリザが考案してくれた簡易酸素ボンベも追加で用意する予定だ。緊急時にはこれを使って酸素を補給しながら救助できる仕組みだ」
と付け加える。
用具の説明が終わった後悠斗は大きな板に書かれた救助手順を掲げた。
「救助は一人ではなく、必ず複数人で行うこと。役割を分担する。例えば、酸欠者を引き上げる人、送気マスクや道具を管理する人、周囲の安全を確認する人だ。この分担を徹底することで無駄な被害を防げる」
悠斗はポ1つ1つポイントを押さえ丁寧に説明をする。
「救助が必要な場合、このベルを鳴らして周囲に知らせる。ベルの鳴り響く音を聞いたら、全員が直ちに救助体制を取る準備を始めるんだ」
「こういった手順を覚えるだけじゃなく、実際に訓練をして体で覚える必要がある。これからは定期的に酸欠状況を想定した救助訓練を行う」
一人の作業員が手を挙げて質問した。
「でも、救助する側も怖い思いをするんじゃないですか?」
悠斗はその言葉に頷いた。
「その通りだ。だからこそ、準備と訓練が必要なんだ。いざという時に安全に動けるようにするために、こうした対策を整える。命を守るための行動には、慎重さと冷静さが何より大事だ」
説明を終えた悠斗はエリザの元へ向かい、新たな相談を持ちかけた。
「エリザ、酸欠対策は形になりつつあるが、二次被害を防ぐための救助用具ももっと改良したい。酸欠者を引き上げる簡易な巻き取り装置とか、酸素を短時間で供給する仕掛けとか、そういったものだ」
エリザはふんと鼻を鳴らし、自信たっぷりに胸を張る。
「また無茶ぶりかと思ったけど、それならできる。魔法を抑えめにしても、そういう機械仕掛けは得意分野だからね。少し時間をくれれば、もっと使いやすい道具を作ってみせるよ」
悠斗はほっとしたように笑みを浮かべ、エリザに感謝を伝える。
「頼もしいな、さすが発明家だ」
エリザの笑顔とともに、悠斗の鉱山での安全対策は着実に進展していった。「さて、最後にカナリアをどうするんだ?」
安全対策が一区切りしたところでエリザが悠斗に聞いた。
悠斗は微笑みながら、籠の中のカナリアを指差した。
「これから自由にしてやるんだ。エリザのおかげで、この子たちに頼らずとも済むからな」
エリザと悠斗はカナリアの籠を開け、空に放った。カナリアたちは美しい声を響かせながら、青空に向かって飛び去っていった。