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2024年映画ベスト10発表!!


前書き


今年もいよいよこの時期がやってきました。そう、映画好きにとっての1年の総決算である年間ベスト10の発表です。

と、その前に少しだけ今年を振り返ってみましょう。
上半期の時点でその傾向は顕著に表れていましたが、やはり1年を通して洋画の不振が目立ちましたね。興行通信社からの公式発表はこれからですが、興行収入年間TOP10に実写洋画作品が1作品もランクインしないのは確実で、これは2000年から開始された興行収入ランキングで初となる異常事態です。また、アニメも含む洋画作品全般に範囲を広めたとしてもランクインしたのは2作品のみとなります。
2010年代後半から顕著になってきたハリウッドメジャー大作のネタ切れ状態と、それに追い討ちを掛けるように始まったコロナ禍とストライキというダブルパンチによって今やハリウッドは崖っぷちの状態です。とは言え、来年はスト以降に動き出したメジャー大作の公開が多数控えていますし、大作不振の間隙を突くようにして公開された極めて作家性の強い作品の躍進や、何より邦画の活躍が目立つ1年でもありました。
さて、そんな2024年でベスト10に選ばれた作品は果たしてどんな顔ぶれでしょうか。
それではいよいよベスト10の発表です。





第10位

第10位は、社会現象を巻き起こした「ジョーカー」のその後を描く「ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ」。
社会に不満を抱える者たちのカリスマとなったジョーカーことアーサー・フレック。彼の影響力は映画の枠を飛び越え現実世界にも余波を残しました。本作は言わば、こうした制作側の想定を大きく超える影響力を持ってしまった「ジョーカー」という作品への後始末なのです。
ジョーカーではなくアーサー・フレックとして再構築することで、信者たち(熱狂的な観客)に「そんなものは幻想だ」と語りかける。それと同時に、こうした熱狂に巻き込まれた人間が辿る悲劇を描くことで、大衆煽動の怖さと愚かさを説く。実に素晴らしい作劇でした。
また、本作は109シネマズ大阪エキスポシティのIMAXシアターで鑑賞しましたが、フルサイズ画郭による圧巻の映像にも存分に惹き込まれました。




第9位

第9位は、ルカ・グァダニーノ監督の「チャレンジャーズ」。
本作に関しては以前noteを書いていますので、詳しくはそちらを参考にしてみてください。また、上半期ベスト10にもランクインしています。

上半期よりは順位を落としたものの、鑑賞直後はそもそもベスト10に入るほどの評価を得ていなかった作品なので、大躍進ではないでしょうか。
男女の愛憎をここまでくだらなく、それでいて面白く描きながら、映画というフォーマットに完璧に落とし込んだルカ・グァダニーノの手腕は評価されて然るべきです。ゼンデイヤ、ジョシュ・オコナー、マイク・ファイストの演技も素晴らしく、2024年で最も熱狂的な映画のひとつだと思います。




第8位

第8位は、鬼才ヨルゴス・ランティモス監督の「哀れなるものたち」です。
本作も上半期ベスト10にランクインした作品で、同じく順位は落としたものの、鑑賞時の印象が薄れやすい1月の公開であることを踏まえると大健闘かなと思います。

性加害やそれに関連した報道が非常に多い昨今、そうした行為に及んだ加害者への糾弾はされて然るべきである一方で、女性にとっての性行為は同意があったとしても暴力であると言った乱暴な言説も目に付くようになりました。同意のない性行為と、女性にとっての性行為は全て悪とした言説を一緒くたにして語ることは女性が本来持つ主体性の矮小化に繋がります。
本作の主人公ベラは自らの意思で、自らの人生を自由に生きていくという本来的なフェミニズムを体現したキャラクターであり、公開からまもなく1年を迎えるというタイミングで改めて彼女から学ぶことは多いなと実感しました。




第7位

第7位は、クリント・イーストウッド監督の最新作「陪審員2番」。
イーストウッドの新作が全米ですら限定上映のみという扱いを受け、日本では配信スルーになったことで、配信前から大きな話題となった作品です。
つい最近U-NEXTで独占配信されたばかりですが、これが引退作(ソースはなし)とは到底思えない傑作ぶりで、慌てて年間ベスト10の構成を考え直したという人も多いのではないでしょうか(笑)
ソーシャルメディアの普及によって人々は手軽に他者を断罪するようになりました。情報の真偽など確かめることなく、目に入った情報に飛び付き強い言葉で他者を裁く。キャンセルカルチャーとも呼ばれるこうした行為は今後ますます加速していくでしょう。
このような現代社会の現在地をイーストウッドは裁判という舞台を通して見事に観客に示して見せました。そして、(法によって)人が人を裁くことの難しさと恐ろしさを改めて考える良い機会を与えてくれました。




第6位

第6位は、日向坂46四期生をメインキャストに起用した青春映画「ゼンブ・オブ・トーキョー」。
本作は以前記事にしていますので、詳しくはそちらを参考にしてみてください。

下半期、いや、今年最大のサプライズ作品だったかもしれません(笑)
日向坂46はおろか、そもそもアイドルにそれほど興味のない筆者がまさかここまでハマるとは鑑賞前は夢にも思いませんでした…。
日向坂四期生が演じた天真爛漫なキャラクターたちが非常に魅力的なことはもちろん、修学旅行の過程でバラバラになった女子高生グループが友人のために一致団結していくという物語に甚く感動してしまいました。
また、彼女たちの修学旅行の様子と、筆者自身の約20年ぶりの東京旅行がリンクしたことも高評価に結びついた理由でした。




第5位

第5位は、クリストファー・ノーラン監督の「オッペンハイマー」です。
原爆を扱った作品としてこちらも公開前から随分と話題になりましたね。そもそもですが、映画を観るという行為には観客が意識し切れていない一定の加害性が必ず含まれます。今回は世界で唯一原爆被害を受けた国に生きる人間として本作の鑑賞には抵抗があると声をあげるケースが目立ちましたが、例えばホロコーストをテーマにした作品でドイツ軍にも良心のある人間はいたという描写があったとして、日本から同じように声をあげる人はそう多くはないでしょう。ただ、被害を受けたユダヤ人からは批判が起きるかもしれません。
歴史上の出来事や実在の人物を描く以上、或いはそれが完全なるフィクションだとしても、必ずどこかに傷付く人はいます。これが観客が意識し切れていない一定の加害性です。
何故こんな話をするかと言えば、本作がまさにそれを象徴するかのような構造になっているからです。本作を鑑賞していると、原爆の存在を否定したい自分と、いつの間にかトリニティ実験に夢中になっている自分がいることに気付きます。オッペンハイマーの半生を通して観客自らに潜む加害性を露見させる作劇が非常に素晴らしかったです。もちろん、ノーランの専売特許であるIMAXカメラ撮影による映像にも魅了されました。




第4位

第4位は、1996年に公開された「ツイスター」の続編「ツイスターズ」。
前書きで触れたように今年はハリウッドメジャー大作の不振が目立ちましたが、そんな中において往年のハリウッド映画を想起させる本作の存在は非常に印象的でした。また、トム・クルーズの後継者的なポジションを務めているグレン・パウエルをキャスティングしながらも、主人公でありヒロインでもあるケイトを中心に据えた物語を最後まで一貫させていて、古き良きハリウッドを踏襲しつつも現代的な側面も備えた実に素晴らしい作品でした。
ケイトを演じたデイジー・エドガー=ジョーンズの今後の活躍にも期待です。


そして…いよいよベスト3の発表です。



第3位

第3位は、2023年にイタリアで公開され、その年の興行収入No.1を記録した「ドマーニ! 愛のことづて」。
本作はイタリア映画祭2024で限定上映され、また、期間限定でオンライン配信された作品で、当時のタイトルは「まだ明日がある」でした。来年、正式に公開されることがつい先日決定し、それに伴って今回の邦題へと変更になりました。
本作に関しても以前記事にしてありますので、詳しくはそちらを確認してみてください。

女性の活躍が目立った今年の映画シーンの中において、本作はその決定版とも言える作品ではないでしょうか。ネタバレ厳禁案件のため、詳細は伏せますが、第二次世界大戦終了直後、家父長制が今よりも強固に女性の権利を侵害していた時代を舞台に、女性たちが踏み出す一歩の力強さと、そこに至るまでの過程によって観客の内に潜む女性蔑視を浮かび上がらせる構成が抜群でした。
来年の公開をお楽しみに!




第2位

第2位は、𠮷田恵輔監督の「ミッシング」。
上半期ベスト10では第1位の作品でした。記事にもしていますので、詳細はそちらを確認してみてください。

「陪審員2番」の感想でも触れましたが、キャンセルカルチャーがもたらす弊害は非常に深刻です。真偽不明の情報で他者をどこまでも追い詰め、もしその情報が間違っていたとしても誰も責任を取らず、また別の誰かを追い詰めていくのです。その内の何人かは本当に悪事を働いた人間なのかもしれません。ただ、そもそも論として悪事を働いていればそれを免罪符としてどこまでも追い詰めても良いのでしょうか。
本作からは、こうした法的な手続きを一切介さずにソーシャルメディア上で行われる現代の魔女狩りの恐ろしさの一端を垣間見ることが出来ます。
自身の趣味を優先した母親、娘の捜索の熱心さに欠ける父親、軽薄な叔父、彼らの姿をマスメディアやネットというフィルターを介して知った場合、間違いなく彼らは批判の対象となります。しかし、実際の彼らの姿は観客の目にはどう映ったでしょうか。
観客にもこうした偏見が潜んでいることを顕在化させ、また、映画の登場人物もまたそうした偏見を抱えているとした二重構造に大変感銘を受けました。
女優として新たなステージへと上がった感のある石原さとみの演技も素晴らしかったです。




第1位

第1位は、監督塚原あゆ子×脚本家野木亜紀子の黄金タッグによるシェアードユニバースムービー「ラストマイル」。
繰り返しになりますが、今年はハリウッドメジャー大作が不振で、幼い頃からそうした作品群が大好きだった筆者としては非常に歯痒い思いをしていたのですが、そうした状況とは裏腹にベスト10の選定はここ数年で最も悩むほどの豊作っぷり。ただ、10位から2位までがほぼ団子状態という大混戦の中、1位の本作だけはダントツでした。
ハリウッド大作に負けず劣らずのハッタリとカタルシスが備わっているだけでなく、分断が続く現代社会で連帯を呼びかけたメッセージも強く心に響きました。フィクションが持つ力を信じ続ける脚本家、野木亜紀子の作家性が見事に結実した瞬間でした。
本来的なユニバースとは若干意味合いが異なるものの、異なる2つのTVドラマのキャラクターが映画の中で勢揃いするという邦画ではなかなか見ることがなかった企画がついに実現したことも非常に喜ばしいです。
そして、本作も女性の活躍が印象的な作品でした。資本主義のど真ん中で強かさとしなやかさを兼ね備え、信念をもって道を切り拓いていく主人公舟渡エレナの姿に勇気付けられた人も多かったのではないでしょうか。演じた満島ひかりの独壇場でもありましたね。
自信を持っておすすめ出来る素晴らしい作品でした。



後書き


以上が今年の年間ベスト10の結果となります。
上半期から継続してやはり今年は女性の活躍が目立つ1年でした。上半期ベスト10の時点でも女性が主人公の作品が多くランクインしていましたが、実はその全てが男性監督によるものでした。そこに一定の違和感(男性監督に女性は描けないという意味ではないです)を抱えていたところに舞い込んできたのが「ドマーニ! 愛のことづて」「ラストマイル」といった女性監督による女性が主人公の作品です。このおかげでだいぶバランスの良いベスト10が組めたように思います。
もちろん、現代社会では女性だけが権利を侵害されているわけではなく、有害な男らしさという枠組みの中で苦しんでいる男性も多くいます。「ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ」はそうした男性たちに光を当てられたのではないでしょうか。
そして、今後ますます加速していくキャンセルカルチャーが蔓延る現代社会における道標のようなものを「陪審員2番」は我々に示してくれました。
ドナルド・トランプが大統領に就任する2025年、もはや何が起こるか予測不可能ですが、映画を通して人生を生きていくヒントを見つけられたら幸いです。
長々と駄文にお付き合いいただきありがとうございました。来年も気まぐれで更新していく予定なので、どうぞよろしくお願いいたします。それではよいお年を。

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