Obey Me!(おべいみー) L60までの元ネタと考察
今年にはいってからすっかりハマっているスマホ向けゲーム「Obey Me!」。
最初は「はいはい堕天使、七つの大罪ね、ふーん」程度で進めていたのですが、本編ストーリを読み進めていく内に、特に第3章突入後は聖書をもとに各キャラクターの設定とんでもなく練られているな!と感動してしまい、おもわず参考文献等引っ張り出して、元ネタと思われる内容や考察をまとめてみました。
あくまで私見ですので、「こういう考え方もあるんだな〜」程度で読んでいただければと思います。
※L60までのネタバレあり
1.主人公について
1-1.デフォルト名について
どんな性別でも違和感のない名前であるということが前提につけられたのだと思いますが、日本語版の「伊吹=息吹」とすると、その時点で人間であることが明瞭な名前ということになります。例えば旧約聖書には、以下のような記述があります。
創世記1章-2 7
神である主は、その大地のちりで人を形造り、その鼻にいのちの息を吹き込まれた。それで人は生きるものとなった。
他の生き物に対しては、主が息を吹き込んだという記述は見られません。
ちなみに英語版のYukiは……これも性別を問わない名前というのと、比較的どの言語でも発音しやすいという理由以外、特に由来がわかりません。なにかご存じの方がいたら教えてほしいです。
1-2.リリスについて
リリスの主な伝承は、以下の2つです。
(1)バビロニアに起源を持つとされる女神
夢魔として男性を襲ったり、身籠った女性を襲ったりする悪霊に近い神。『イザヤ書』などに言及があります。
=ユダヤ教・キリスト教にとっては異教徒の、排除すべき存在
(2)アダムの前妻
創世記1章では、神は「神のかたちとして人を創造し、男と女に彼らを創造された」と記載しているのに、2章ではアダムの肋骨からイヴがつくられ、「これを女と名づけよう」という、あたかも2章ではじめて人間の女性がつくられたかのような記載があります。この矛盾を解消するために、イヴの前にリリスが人類最初の女性として存在していたのではという説が生まれたようです。
性に奔放で、女性優位の体位をアダムに強いて仲違いをし、アダムと別れた後は悪魔の妻になった逸話が多く見られます。その後、イヴに知恵の実を食べるよう唆した蛇張本人とも。
1-3.人間と天使の関わりについて
『エチオピア語エノク書』に記載のあるエピソードで、地上の人間たちが増え始めた頃、その中でも美しい娘たちを200人の天使(グリゴリ)が人間界に降りて娶り、人間に様々な文明を教えてしまった、というエピソードがあります。
OBMではこれを男女反転して、リリスが禁忌だった人間との恋に落ちてしまい、天界の食べ物を与えてしまったことに対して制裁を加えようとした神に叛逆の狼煙を上げたのが兄弟たちだった、という設定にしたものと思われます。
リリス本人だったときには人間を、リリスの血を継ぐMCはリリスがエデンの園を追われた後のように悪魔たちを誘惑して恋愛関係になる設定もリリスの伝承を活かしていて面白いと思います。
2.兄弟たちについて
これは完全に私見ですが、ルシファーとサタンを除き、もとは皆(ユダヤ教、キリスト教にとっての)異教徒の神、あるいは、神のように畏敬の念を払われていた存在だったのではないかと思います。以下、マモン〜ベルフェゴールの伝承等のまとめです。
2-1.弟たち
(1)マモン
旧約聖書と新約聖書の間(中間時代)に採用されていた「収賄金」などを意味する悪魔の名称のようです。ミルトンの『失楽園』では、天界にいるときから金銀財宝のことばかり考えているようなキャラクターとして描かれています。
(2)レヴィアタン
海に住む巨大な怪獣です。蛇や鰐、竜のような生き物と思われる記載が多々あります。地獄の入口として、レヴィアタンが大きく口を開けているイラストが有名です。聖書では神に剣で刺されてしまいますが、非常に強い獣という描写が多々あります。
OBMではこの獣の特徴はレヴィアタン本人ではなくそのペット・リタンの持つものです。リタンとはウガリット神話に出てくる、同じく竜のような見た目の海・川を神格化した獣のようですが、この辺の神話は私はまるでわからず。OBMではレヴィアタンを人格化するにあたり、似たような設定や響きを持つリタンにこの獣の役を譲ったのだろうと思います。
また『ヨブ記』では「徹底的に恵まれないものは神を信じないのではないか(=神を信じるのは結局自分の利益のためなのではないか)」という仮説検証のために、サタンにあらゆる財産を奪われ病にまで冒された非常に不憫な人物ヨブが、いよいよ自分が生まれた日を呪おうと歌った詩の中に「レビヤタンを巧みに呼び起こす者たちが、その日に呪いをかけるように」という句があります。
強い獣という元ネタから天界では戦いの将軍、魔界でも地獄の海軍大将を任されながらも、「どうせ自分なんか……」と自分を卑下する所以が『ヨブ記』からも読み取れて面白いです。
(3)サタン
通常は悪魔を統べるもの(魔王)や悪魔の総称として使われるイメージですが、サタンとは別にルシファーもいる物語では、OBMのようにルシファーの下に置かれることが多いようです。サタンについてはルシファーの段で詳しく記載します。
(4)アスモデウス
ペルシア周辺に起源を持つ好色の悪魔です。『トビト記』では、アスモデウスに取り憑かれたサラという娘が、結婚する夫という夫を次々に亡くすエピソードが記載されています。
ソロモン72柱の中の一人なので、OBMでソロモンとアスモがずいぶん昔から契約を交わしているらしい描写も納得です(若い頃に古代イスラエルの最盛期を築いたソロモン王が晩年堕落してしまったのも、アスモデウスに誘惑されたためという伝承もあります)。
(5)ベルゼブブ
カナン(イスラエル人に神が豊穣を約束した地)の豊穣神(異教の神)バアル・ゼブルをヘブライ語で蔑称してバアル・ゼブブ(「蝿の王」の意)としたのが由来のようです。旧約聖書『列王記』に名前が出てきます。
新約聖書『マタイによる福音書』では、イエスが人々の病気を癒やした時にベルゼブル(=ベルゼブブ=悪魔、ここではサタンと同一視されている)の力を使ったのではと疑われる描写があります。
マモンからアスモデウスまでは神というよりは悪霊や獣の要素が強いですが、バアルはさらに人格化された存在なのではないかと思います。
OBMではルシファー以下の兄弟はそんなに力量差はなさそうとうか、強いて言うならルシファーがなんだかんだ最も信頼しているのはマモン、という描写をナンジャタウンの展示物で見たのですが、
ベルゼブブは上記の通りサタンと同一視されるほど悪魔を代表するというか、強力な悪魔として考えられていることから、OBM第3章で魔術師協会本部にソロモンと向かう際、ルシファーと(マモンではなく)ベルゼブブがお供に選ばれたのも得心がいきます。
ベルゼブブが天界にいた頃からルシファーを守る役目を負っている説がある(OBMでもケルビムだった設定)ことや、ベルゼブブもソロモンと関わりのあった悪魔、という説も関係していると思います。
(6)ベルフェゴール
旧約聖書『民数記』中には、モーセ達がカナンの地に入る直前、幾度となくバアル・ペオルという異教の神の存在と、そのバアル・ペオルを祀る祭壇を破壊する描写があります(「バアル」はベルゼブブのバアル・ゼブル同様、王、主の総称か何かと思います)。バアル・ペオル→ベルフェゴールです。
イスラエルの人々を色仕掛けして堕落させた、というエピソードから、人間を誘惑させることに長けているというイメージが出来上がったのでしょう。
Wikipediaだと「女性に不道徳な心を芽生えさせる力があるために、女性・人間不信、人間嫌い」というOBMの設定に近い記載もあるのですが、私の方ではその元ネタにあたったことがなく詳細わからずです。
2-2.ルシファー
ではなぜ、諸々の神々がひとつの兄弟になったのか。
私はルシファーが彼らを取りまとめたのではないかと考えています。
兄弟たちの中には、ミルトンの『失楽園』他さまざまな物語・伝承で、単に悪魔というではなく元天使だったという描かれ方をしている者もいるのですが、唯一ルシファーだけは、一説ではなくどの伝承でも元天使(堕天使)なのです。それは旧約聖書『イザヤ書』中の「明けの明星、暁の子よ。どうしてお前は天から落ちたのか。」という歌がルシファーの概念の発端のため、異教の神や最初から悪魔である設定はそもそも発生しないというのが理由ですが、これがルシファーと他の兄弟たちの決定的な違いだと思っています。
キリスト教が一神教として確立されていく過程で、自らの神の正当性を保つため、ヤハウェ以外の、土着の神や異教の神は邪神扱いされていく。かつては各地で神のように扱われ畏敬の念を払われたリリス含む兄弟たちは、ユダヤ教・キリスト教の普及とともにどんどん失墜していった。
(この頃にはヤハウェは旧約聖書的な荒ぶる神というよりは、新約聖書的な信実な、慈愛に満ちた神へと変わっていったとして)兄弟たちはもともとさまざまな民族の信仰の対象だったため天界入り(神ではなく、あくまでその下の神の御使い扱いの身分)を許されたが、今までとは異なる秩序に無理やり組み込まれたために天界にうまく馴染めず、力を持て余していた。
そんな時にルシファーだけは、彼らの能力や資質をいち早く見出して適切な仕事を与え、彼らの天界での地位向上や周囲との橋渡しに一役買ったのではないか。
OBMのストーリー上で兄弟たちは血がつながっている訳ではないと明言されていること、またL60でMCに対して(結婚以外の方法で)「家族になろう」と持ちかけることから、「兄弟」とは血縁・地縁のつながりではなく、兄弟愛、隣人愛に基づいた強固な繋がりを指しているのではないでしょうか。
このように、ルシファーが天界でもひときわ愛の実践者であったとすると、さぞ神に愛されただろうなあと思います。兄弟たちがルシファーを特別視し、ルシファーもまた兄弟たちを大切にしているのは上記のような経緯があるからだ……と考えると、ルシファーが第1章でベルフェゴールを匿ったり、そのことに首を突っ込むMCに怒りを顕にしたりしたストーリーも一層味わい深くなるのではないでしょうか。
ちなみに、第3章で天界のルシファーがサタンに「弟たちは本を読まない」と漏らしている点について、マモン以下兄弟は自分たちを取り込んだ秩序(世界観)の上にしたためられた書物なんて興味はないが、ルシファーとしてはこの世界についてもいろいろ知ってほしい、という親心も含まれていたら面白いなと思います。
2-3.ルシファーから生まれたサタン
さて、兄弟たちの中で出自が異質なキャラクターがもうひとりいます。サタンです。
先程、神は「旧約聖書的な荒ぶる神というよりは、新約聖書的な信実な、慈愛に満ちた神へと変わっていった」と書きました。旧約聖書の神はイスラエル人たちが少しでも神の御心を疑ったり他の神を祀ったりするとすぐ虐殺するなど、結構恐ろしい存在です。
このような荒ぶる神や、ギリシャ神話のように多神教の神々であれば、この世の苦痛は彼らの怒りや気まぐれによってもたらされていると考えても筋が通るのですが、ユダヤ教・キリスト教の布教が進むにつれ、神が善性・愛を備えた唯一神に変化すると、なぜそんな善い神がわざわざ苦痛という概念を創造したのか?という疑問が生じます。
それを説明するために生まれたのが我らがルシファー、堕天使という概念です。先程挙げた「明けの明星、暁の子よ。どうしてお前は天から落ちたのか。」という歌について、その後に続く「国々を打ち破ったものよ。どうしてお前は地に切り倒されたのか。」から明けの明星とは実在したバビロニアなりアッシリアなりの王の失墜を指すというのが定説です。
しかし、上記の疑問に答えるために、神に反逆した堕天使という概念が布教の過程でつくり出され、それに伴いこの歌の「天から落ちた」も堕天使を指す、という新しい解釈が唱えられるようになりました。神ではなく、神とほぼ同等の力を有する堕天使=悪魔がこの世の苦痛を生み出しているのだ、ということです。
ではなぜ天使が神に反逆するようになったのか、という理由ですが、悪魔学等では概ね以下の3つの説に大別されるようです。
(1)天使の自由意志による
神が人間を創造しようとした時に反対するなど、天使は神の御使いでありながら自由意志を持っていた(神は天使たちに、自発的に神を愛することを求めた)。先の『エチオピア語エノク書』のグリゴリのエピソードの通り、中にはその自由意志や欲望から堕天してしまう者もいた。
(2)傲慢の罪による
ルシファーは天界でも最高の知恵と力を持ち、神に最も愛されていた。しかし、驕りの心から神に代わってその地位を恣にしようとしたために堕とされてしまった。
(3)光あれば闇あり
神の信実さや慈愛の御心の価値を高めるためには、対立する存在(=stn、サタンの語源)が必要になる。一神教として確立されてゆくにつれ、対立する存在も他民族・異教の神など雑多、曖昧なものから一つに人格化した強固な悪の化身サタンとして確立されていった。
OBMでは、以下のようにこの3つを混合させてストーリーが組み立てられ、サタンの出自に繋がるのではと思います。
(1)天使の自由意志による
・前出の『エノク書』グリゴリのエピソードを反転したリリスのエピソード
・自発的な隣人愛、兄弟愛による兄弟たちの謀反
(2)傲慢の罪による
・リリスへの神の制裁に反対するという傲慢さ(OBMのルシファーは神の座に自ら代わって就きたいという思いはなさそう)
(3)光あれば闇あり
・OBM3章で、光と闇のように対を成しているがミカエルとルシファーは似ている、とアスモが言及
・堕天しても、ルシファーはもともと最上の天使だからこそ高潔さまで失うことはなかった。だがリリスを失った悲しみや神(?)=ルシファーの父に勝てなかった悔しさ等、高潔な彼が自身に留めておけなかった負の感情の発露として、憤怒のサタンが分化した。
3.その他のキャラクターについて
続いて、まだまだ謎の多い兄弟以外のキャラクターについても考えて見たいと思います。まずは、L60で意味深なシーンを残したシメオンについて。
3-1.シメオン
まず最初に、元ネタと思われる旧約聖書中で出てくる「シメオン」は、ざっと以下のような人物です。
・ヤコブとレアの2番めの息子。
「聞く」の意味を持つ「シャマ」からシメオンと名付けられた。「ヤコブは自分よりも妹ラケルの方を好いている」ことに気づいている妻レアの悲しみを神が聞いて、子を授けてくれたという経緯から。
※ヤコブ…アブラハムの子孫。後にモーセ、ソロモン王、イエスにも繋がる系譜。
・父のお気に入りの異母弟ヨセフを他の兄弟たちとともに殺害しようとした。ヨセフは死を免れたものの、他の兄弟によってエジプト人に売り飛ばされた。
・その後、飢饉の際に兄弟たちとエジプトまで食料を求めに行った際、エジプトで重用されて食物の管理を任されていたヨセフに再会する。ヨセフに父ヤコブと末弟ベニヤミンもエジプトにつれてくるよう命令され、他の兄弟たちが彼らを連れてくるまでエジプトで人質にされる。
・妹がシケムという男に姦淫されてしまった際、レビ(三男、弟)と2人でシケムの国の男性全員を殺害してしまう(さすがにやりすぎと父ヤコブにも諌められる)。
・他の兄弟と同じくシメオンの子孫はその後繁栄して大きな氏族(シメオン族)を形成するようになる(イスラエルの十二支族の1つ)。
・ただし、モーセの時代に子孫のうちの何名かがミディアム人(異教徒)と結婚し、神罰として殺されてしまう。
・弟への態度や虐殺、子孫のことからか、イスラエルの十二支族の始祖の中で唯一、モーセに祝福の言葉をかけられていない。
かなり過激な人物と見えるので、あの穏やかなシメオンの元ネタと考えていいものか……?と思うところはあります。が、以下の点からこのシメオンが元ネタと考えてもそうおかしくはないでしょう。
・父・末弟を連れに戻る兄弟たちと異なり、一人だけエジプトに取り残されている
・妹の名誉のために復讐する
・十二支族の始祖にもかかわらず、祝福を受けられていない
おそらくシメオンはルシファー達の妹リリスを思って兄弟たちに力を貸し、堕天されるほどではないにせよ、降格させられてしまった。
もしかしたら、シメオンも堕天相当の罪を犯したところ、神(父)は兄弟のうちあえてシメオンだけは天界に残した可能性もあります(聖書のエピソードに倣えば、これ以上兄弟たちが反乱を起こさないように人質にするため?)。
シメオン自身は今の「浄化」された天界よりも、他民族の神々や霊が入り混じっていた原初的な天界の多様性を懐かしんでいるのではないかなと思います(そして天界にいた頃の兄弟たちを思って七王まで書き上げるシメオンの熱量たるや……)。
以下、参考にObey Me!での現時点で判明している天使の位階です。
※『天使』真野隆也(新紀元文庫、2011年)をもとに作成。
各役職の役割や位階の上下等は諸説ありすぎてまとめられないので、ここではこんなイメージと留めていただければ。
※2021年11月27日追記:表内のアスモデウスの位階について誤りがあったので、削除しました。
また、L60最後にラファエルに「すっかり『人間』らしくなってるじゃないですか」と言われている点ですが、これはリリスよろしく、MCに恋愛感情を抱いてしまったことが発端なのではないかと考えています。
単純にヨモツヘグイ的な考え方でいえば人間界の食物を摂取することで人間に成り下がるところ、ルークを差し置いてシメオンだけが指摘されているということは、人間に対する執着が生まれ始めていることをラファエルに見抜かれているということかなと思います。人間界にお店まで開いちゃってるしね。
3-2.ディアボロ、バルバトス
続いて、魔王城のこの2名です。この中でも特に不思議なのは以下の点です。
・次期魔王のディアボロがなぜ聖人君主という設定なのか
(3章の過去編より、現魔王は天使と戦争をする、平和路線とは真逆の人物のような言及あり)
・なぜ時空を自由に行き来できるというチート能力持ちのバルバトスが次期魔王の執事として従事しているのか
もはや考察ではなく妄想の域ですが、以下の2パターンを考えてみました。
(1)何かしらの不都合を阻止するため
バルバトスはある世界線の遠い未来に行った際に三界すべて崩壊しかけた世界かなにかしらの惨状を目にし、それを阻止するためにさまざまな世界線を旅した。結果、魔王就任前から自らディアボロの執事になることが最善だった。
例えばバルバトスが執事にならない世界線ではディアボロは自身の力の大きさに無自覚なまま、(セキュリティ上)半幽閉状態で育てられたがためにちょっとした感情の起伏等の些細なきっかけで力が暴走して制御不能に陥り、それをきっかけに三界全て崩壊状態になってしまった、など。それを阻止するためにバルバトスはディアボロの執事になることを選び、ディアボロに自身の持つ力の大きさと加害性に自覚を持たせてノブレス・オブリージュの精神を叩き込んだのでは……。
(2)ディアボロへの恩返し
バルバトスが過去も未来も変えることができる能力を恐れられて(あるいは買われて)現魔王に仕えていた頃、その能力故に魔王含め周囲の悪魔からも畏怖の目に晒されていた。そんな時に幼いディアボロだけは公平に接してくれた。その恩返しとしてディアボロに仕えるようになった。
いずれにせよ、絶対に表には出さないけれども、ディアボロに対して「魔王の子」という自分では選択不可能な生誕の災厄性に同情も寄せていたらいいなあと思います。
3-3.ソロモン
続いてソロモンに対する疑問です。そもそも一般的にソロモンといえば、以下のような人物像です。
・イスラエルの王ダビデと元不倫相手、のちの妻の女性の間に生まれた子。
・イスラエル全盛期の王様。若い頃は知恵に溢れ外交も盛んに行い、イスラエルを大いに発展させた。
・しかし晩年は重課税を自分の快楽のために使い込むなど堕落し、イスラエルの国力も落としてしまう。
・有名なグリモワールの1つ『ソロモンの小さな鍵』等では、アスモデウスやバルバトス等さまざまな悪魔(ソロモン72柱)を使役していた。
OBMでも、3章のしっぽ取りゲームを中心に度々アスモデウスやバルバトスとは旧知の仲のようなやりとりがされていますが、こんなに長年悪魔と交流のある彼がなぜ今更、人間界からの「留学生」なのでしょうか?
ストーリー序盤で同じ人間の留学生として親近感が持てる+水先案内人となるキャラクターを、というゲーム上の単なる設定なのかもしれませんが、不老不死設定に飄々とした性格も相まって何を考えているかあまりわからず、素敵なキャラだなとは思っても親近感は沸かないんですよね……。
もしかしたら、ソロモンは意外と人間界での魔術師としての生活を基本としていて、悪魔は必要な時に人間界に召喚する程度だったのかもしれません。死神などいろいろな魔界との繋がりはあるものの、基本は人間界で魔術師たちを影から支えたり、興味のままに呪文やらとんでもない手料理やらを編み出したり。それを、「留学」という一定期間魔界に居座ることができる名目を利用して、もうひとりの留学生(主人公)をはじめから自分の魔術師のコミュニティに加える予定で動いていてもおかしくはないなあと思っています。
個人的には一国の王様から、不老不死の魔術師という第2の人生を歩み始めた頃のストーリーとか公式で読んでみたいと期待しています。
3-4.L61以降の予想
もともとリリスに対する父の制裁に対する不服から謀反を起こし、第3章後半ではブギーマンがルシファーの最も恐れるものとして(おそらく)父の姿に代わったことから、L61以降ではオイディプス王とは言わないまでも、父と子の確執、超克がメインの物語になっていくのではと個人的に考えています。
確執といっても父の方はルシファーが堕天すること含めて見守っているような印象を受けるので、最終的にはMCや兄弟たち、ディアボロ、天使、新キャラクター等々が隣人愛深きルシファーの元に結託して和解し、三界のわだかまりも溶けて大団円……となるのかなと考えています。
まずは第4章では、兄弟やシメオンの過去がより詳らかになり、三界の確執はどのように生まれたのか?というところにフォーカスされ、兄弟たちとMCが一緒に過ごす方法を探る。その後(第5章以降?)にディアボロ、バルバトス、ソロモン等謎多きキャラクター達の過去編に移って、三界の融和の達成……と予想します。
※上記は、聖書はななめ読みもいいところ、かつノンクリスチャンの身分でまとめたものですので特に宗教的な解釈はかなり甘いと思います。それでも、Obey Me!の深いストーリーにいても立ってもいられず私見を書き連ねてしまいました。
聖書は旧約・新約ともに新日本聖書刊行会の2017年版新改訳を参考としました。改定前の少し堅い日本語ならではの格式高い文も好きなのですが、47年ぶりの全面改訂で非常に読みやすくなりましたので、Obey Me!から神話に興味を持った方にもおすすめです。
※2021年11月27日追記:
昨日、L61以降の公開まであと6日と唐突に公式から発表があり本稿を読み直していたところ、表内の記載に誤りを見つけたり、ディアボロ・バルバトス・ソロモンについて全然記載できていなかったりしたので大幅に加筆修正しました。また新しいお話を読めるのが楽しみですね。