見守りカメラは見ていた
父が実家の玄関前で転んだ。
父と母から聞いた話では、よく分からなかったのだが、玄関に設置している「見守りカメラ」の録画を見て、何が起こっていたのか判明した。
15時過ぎ 玄関ドアが開いた。
父がデイサービスから戻ってきた。今日は女性スタッフが付き添ってくれている。
父は「はい、ありがとう」と何度もお礼を言っている。男性スタッフの時は、ここまで愛想がよくない。
3分後 父が出かけて行った。杖は置いて行った。
まて、まて、杖を持って行け!
16時過ぎ 再び玄関ドアが開いた。
見知らぬ青年が現れ、玄関のドアを開けた状態で固定した。玄関ドアが開きっぱなしの状態になったため、玄関の外の様子が映っていた。そして数メートル先の会話がしっかり録音されていた。
青年Aさんが 「家で休んだ方がいいですよ」と言いながら、父のそばへ行った。夕方とはいえ、気温は30度を超えている。Aさんの言うとおり、家で休んだ方がいい。
Aさんが再び玄関の中へ入ってきた。
「ここに置いておきますね」と言って、父の帽子と宝くじ(後で判明する)をカメラのそばに置き、再び父の元へ行った。
30秒後、デイサービスの送迎車に乗った母が戻ってきた。
Aさん「奥さんですか?」
母 「はい」
家にいるはずの父が、なぜか家の外で鼻血を出していたため、母はうろたえている。
母「いつもはデイサービスの人が、家の中まで送ってくれるんです」
母「どっかに行ってたの⁉︎」
父「ああ」
父よ、はっきり答えてくれ!ここ大事なとこ。
母は状況を把握できず、混乱している。
「いつもは家の中まで送ってくれるんです」と繰り返す。
Aさん 「おひとりでしたよ。フラフラと歩いてドテッと倒れました」
Aさんは父が倒れるところを目撃していた。
デイサービスのスタッフBさんが、父を立ち上がらせて、家の中まで誘導した。
Bさん「どこか痛いところはないですか?」
母「救急車を呼んだ方がいいかねえ」
父「呼ばんで、よかよか」
ったく、本人が救急車は呼ばなくていいって言ってるじゃねーか。母が電話で、救急車を呼ぶか?と聞いてくるから、よほどの重傷かと思ったわ。
父はBさんに付き添われて、自分の部屋へ入って行った。
「宝くじを買いに行ってたそうです!」
父の部屋からBさんの声がした。母はようやく事態を把握した。
「お水を飲ませてくださいね。熱中症だといけないから」
「たぶん大丈夫だと思いますけど、様子を見ていてください」
と母に声を掛けて、AさんとBさんは去って行った。直後、母は私に電話をした。
父はほんとに運がいい。父が転ぶところをたまたま目撃したAさんは、父を家の中まで移動させようとしてくれていた。
直後に、母がデイサービスから戻ってきた。送迎車には、介護に慣れているスタッフBさんが乗っていた。Bさんは父を立たせて、家の中まで連れて行ってくれた。
AさんとBさんの冷静な判断と素早い行動のおかげで、父は転んでから10分もしないうちに自分の部屋にいた。
録画を見てはじめて、奇跡的なタイミングで、父が救助されていたことを知った。うろたえる母に代わって、動いてくれた二人には感謝しかない。
事件はいつも玄関で起こっている↓